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第九章 現の中の夢

9-1 鬼の面

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 手に取った面は、目を大きく剥いた、一本角の鬼の顔で。


「あたしが……鬼、に?」


 言われ慣れた「化け物」という、曖昧な名称ではなく。鬼に成るのだと。そう言われたことを、美邑はどう受け取ったら良いのか、分からなかった。


「なんで、あたしが。そんなのに」

「……その目は、まず第一の兆候だ」


 美邑の呟きを無視し、朱金丸は美邑の右目を覗き込んだ。


「最早、人間のものではないその目には、これまで以上に物の怪が映るようになるだろう。先程の、ナラズのようにな」


 その言葉に、ぞわりと震える。


「やだ……あんなの、もう見たくない」

「どうすることもできない。だが、暫くは視えない振りをすることだ。視えていると分かれば、追いかけてくる奴も多い」

「そんな……っ」


 朱金丸は溜め息をつくと、フェンスの上に飛び乗った。以前、校舎の屋上でそうしてみせたように。


「左目が、変異した頃。また、迎えに来る。それまで、覚悟を決めておけ」

「待ってよ……!」


 慌てて、美邑は朱金丸に駆け寄った。


「教えてよっ! なんであたしが鬼になんて成らなきゃいけないの? なんであたしだけ、そんなことになるの? ちゃんと教えてよッ」


 だが、朱金丸はちらりとだけ美邑を見遣り、その場から飛び降りた。


「――っ」


 独り取り残され。美邑は手渡された鬼の面を思いきり床に叩きつけると、その場に膝をついた。


「う……もう、ぜんぶやだぁ……っ」


 ぼろぼろと溢れる涙は、暫く止まりそうにもなかった。
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