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88話 戦後処理 その2
しおりを挟むアメリア陸軍省(ペンタゴン)庁舎内にて
「大統領、トルーマン大統領!先程日本側から分割統治案を否が応でも受け入れなければならないと命じられました」
「やはりな、まあ仕方が無いな」
「大統領!仕方が無いとはどういうことですか?」
「長官、まあそう怒るな。亡くなったルーズベルト大統領が辣腕を振るい始めた時から、この国は暴走し始めたのだ。
仮に日本が存在せず、アメリアが今のように降伏しなかったとしたら、世界中の国々を支配する形で覇権を行使するようになっていたと思う」
「大統領、それは民主主義を広める意味で良き覇権の行使ではないですか?」
「長官。民主主義の思想だけならば良いが、相手国の体制を無理矢理壊すような覇権行使はむしろ害悪だ」
「ですが、我々の国が行った植民地政策は欧州諸国が行ったモノとは違い、現地住民の生活を向上させ、その国のレベルを引き上げたと思いますが」
「長官、本気でそのように考えているのか?そんな考え方をしていると日本側から長官自身が白人至上主義者のレッテルを貼られるぞ」
「大統領!何故白人至上主義がいけないのですか?」
「もう良い、長官。下がってくれたまえ。明日からここに来なくても良い。
別の者を日本側の交渉に就かせるから」
「分かりました、失礼します」
トルーマンは現国務長官を解任し、新たに『ジャスパー・バーンズ』を新たな国務長官に任命し、日本側の交渉役に就かせた。
この新しい国務長官は前世界では『ジェームズ・フランシス・バーンズ』という者と同人物で、マンハッタン計画の責任者でもあり日本に原爆攻撃を強力に大統領に推進した人物でもある。
だが、このPW地球世界ではマンハッタン計画はおろか、原爆の原料であるウラン物質は一切存在せず、当時の先端技術がトップのアメリアですら、原爆のような爆弾製造は知識の片隅にもなかった。
そのため、ジャスパー・バーンズ国務長官はあくまで苦学の人であり、日本と講和し無条件降伏に応じて戦争を早期に終結させることが、彼の当面の使命であった。
その翌日、臨時会議場内にて
「国務長官がコロコロ変わっても、我々日本側はアメリア側に譲歩する余地はありませんよ」
「三木大使、まあ怒らずに聞いて下さいよ。
トルーマン大統領は、国土が分割統治されることは充分承知しています。
むしろ、戦争犯罪人を如何に少なくして人的資源の損失を防止することが、これからの交渉のあり方だと語っていました」
「分かりました。日本側の結論を先に言いましょう。
アメリア側の戦争犯罪人はズバリ『0』で、罰する者は存在しません。
というより、罰しなければならない者が既に亡くなっているというのが正しいでしょう」
「それは大変有り難い話ですが、トルーマン大統領は戦争犯罪人にはならないのでしょうか?」
「トルーマン大統領は前ルーズベルト大統領の時に副大統領で、日本との戦争直後に早期講和するように働き掛けていたのですよね?」
このPW地球でのトルーマン大統領は、正史地球とは違って『善人』な人物であった。
ちなみに、正史地球のトルーマンは太平洋戦争の早期終結しか頭になく、広島と長崎に原爆投下についてバーンズ国務長官からの推進を受け、原爆投下の命令を出した張本人で、正史地球側から見れば『悪人』と言わざるを得ない人物であった。
「ええ、事ある度にルーズベルト前大統領に諌言していたのは確かです」
「分かりました。それでは領土分割を含めた条約締結については、後日日本側から日程等の詳細について連絡したいと思います」
「それでは宜しくお願いします」
三木大使との交渉を終えたバーンズ国務長官は陸軍省に向かい、大統領に交渉結果を報告していた。
「何?この私が処罰されないと?」
「ハイ、前ルーズベルト大統領の無謀な行動を止めるように諌言していたことが日本側に好印象を与えたのだと思います」
「後は死んだ者は罰せられぬということか」
「ハイ、日本側はそのように考えているようです」
「コレは領土分割案を素直に受け入れるしかないか」
「ハイ、大変屈辱的なことですが」
「だがな、長官。コレはアメリアが別な国家に生まれ変われるチャンスと思えば、悲観することはないぞ」
「そうですね、前向きに考えましょうか」
トルーマン大統領と国務長官は、後日日本側と降伏のための条約を締結し、1943年12月1日 アメリア合州国は正式に日本国に降伏してアメリアとの戦争を終結した。
「おい、まだ戦闘が続いているのか?」
「どうやらそのようです」
「だが、これ以上の軍事支援はどうするか思案してしまうな」
「そうですね。ホントに悩みの種です」
戦闘状態がまだ続いていたのは、メキシカとテキサス州であった。
「我々日本が徹底的にテキサスの軍事力を一旦叩き潰した後、メキシカにテキサスを手渡すというのは簡単と言えるがな」
「それではメキシカとしての矜持というか、国民自身のプライドを傷付けるというか、何ともしがたい状況です」
「何が矜持やプライドだ。そんなこと言っていられない状況だろう」
「メキシカ側にすれば、あくまで自分らで勝ち取ったという事実が欲しいらしいです」
「全く仕方が無いな」
中破総理は、国防総省は情報省と協力して軍事支援と諜報特殊部隊による裏工作を行うことを命じて、戦争状態の早期解決を促した。
その結果、軍事支援等の作戦活動を開始して1週間後にはテキサス州内全土の戦闘が沈静化した。
「ほら、ウチが手伝えば簡単に収まるのにな」
「問題はその後の統治ですね」
「それも日本側が支援しなきゃならないのか?」
「ハイ、再び内乱から内戦に発展するかと」
「要はメキシカがサクッとテキサス住民から武器を取り上げれば、こんなに長引かないのにな」
「どちらにせよテキサスはアメリアの火薬庫だな。日本側が統治の支援をする代わりに、テキサス州内から武器を一掃するしかないな」
中破は国防総省、情報省、外務省等にテキサス州内にて刀狩り(銃刀法)の実施を命じ、同州内から武器の一切を住民から取り上げた。
「テキサスの武器が一掃されても、メキシカ国内での武器所持が自由だから、領土割譲した時に再びテキサスに武器が流入するので、元の木阿弥ですよ」
「む、そこが問題点だな。よし、テキサスの国境全体を電磁バリアで囲んで、メキシカ側とアメリア側で国境ゲートを設置するか」
「了解、そのように計らいます」
1943年12月初旬、日本側の軍事援助等によって、ようやくテキサスの内乱は終結し、メキシカに割譲された。
「コレって、メキシカ国民に厳し過ぎませんか?」
「国境ゲートの件か?この位出入国制限しないと折角テキサスから取り上げた武器が再び州内に流入してしまうし、メキシカ人は誰でも銃器を持っていて、テキサスへ武器の持ち込みが多いから、空港ゲート並に厳しくせざるを得ないだろうな」
テキサスの内戦・内乱、テロ活動等は、日本側が設置した国境ゲートで鳴りを潜め、メキシカ、テキサス両地域にようやく平和が訪れた。
なお、テキサスの国境で使用された電磁バリア柵と国境ゲートは、各分割領土にも適用されており、金網やコンクリート壁とは異なり美観向上に役立っていた。
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