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87話 戦後処理 その1
しおりを挟むコロンビア特別区現地時間 1943年11月15日 12:00
日本軍はトルーマン臨時大統領からの無条件降伏の受け入れの申し出を受理し、機械化歩兵師団は首都コロンビア特別区(ワシントンD.C.)の制圧、占領統治に動いていた。
コロンビア特別区現地時間 1943年11月22日 10:00
アメリア敗戦から1週間後、日本国から三木大使が外相代理としてアメリアの戦後処理についての交渉を行うため、バージニア州内のナショナル空港に降り立ち、そこからヘリでホワイトハウスに向かった。
ホワイトハウスは、議事堂空爆の爆風により建物の大半の窓ガラスが破損していた他、ハル元長官の暗殺事件によって建物内部が修復不能な状態であり、急遽日本側が輸送艦からプレハブ部材を空輸し、日本軍施設部隊がホワイトハウスの中庭に臨時会議場を建設して、戦後交渉の事前話し合いの会議場を設置した。
「済みません。ホワイトハウスはまだあの有様で、とても使える状態ではありませんし、日本の方々にこのような会議の場を用意して頂き大変恐縮です」
「いえ、私共は戦争とはいえ貴国の歴史的貴重な建造物を見せしめとはいえ、破壊してしまいましたから、この位の協力は何でもありません」
臨時会議場で話し合いを始めた2人を紹介すると、日本側が三木 隆大使でアメリア側が『エドガー・ステティニアス』国務長官であった。
三木がステティニアス長官に提示した条件は次のものであった。
1 占領統治条件
・ハワイ、アラスカの2準州は日本領とする。
・カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの3州を日本領とする。
・アイダホ、モンタナ、ワイオミング、コロラド、ユタ、ネバダ、アリゾナ、ニューメキシカの8州をアメリア西部連合共和国として樹立させ、各州の自治体制は日本主導で100年間統治、その後共和国として独立するか西海岸の日本領に編入するかを住民投票で採決する自由を与えるが、アメリア中央連邦共和国と合併することは認めない。
・テキサス州をメキシカに割譲する。
・ルイジアナ、ミシシッピ、ジョージア、ノースカロライナ、サウスカロライナの5州をドイツに割譲する。
・フロリダ州を日本領とする。
・ニューイングランド(メイン、ニューハンプシャー、バーモント、マサチューセッツ、ロードアイランド、コネチカットの6州)を英国に割譲する。
・バージニア、メリーランド、デラウェア、ニュージャージー、ニューヨーク、ペンシルベニアの6州とコロンビア特別区を100年間日本が統治する。
100年後、6州が独立国として独立するか、日本領に編入されるかは住民投票で採決する自由を与える。
但し、ドイツ統治領、英国統治領、アメリア中央連邦共和国に併合、合併することは認めない。
・オクラホマ州をインディアン自治州として、州内白人の土地所有権を含めた一切の権利、財産等を没収する。
州内白人はオクラホマ州から別州に移住する。
但し、インディアン部族と婚姻した白人はその限りでない。
・ウィスコンシン、オハイオ、インディアナ、イリノイ、ノースダコタ、サウスダコタ、ネブラスカ、アイオワ、ミネソタ、ミシガン、カンザス、ミズーリ、ケンタッキー、テネシー、アーカンソー、ウエストバージニアの16州をアメリア中央連邦共和国として樹立させ、各州の自治体制は日本及び英国との共同で100年間統治する。
統治終了後、共和国として独立するか、東海岸の日本租借地、東部英国領のいずれかに帰属するかは住民投票で採決する自由を与えるが、アメリア西部連合共和国との合併は認めない。
2 統治政策条件
・日本統治地域において、元アメリア連邦法、各州憲法、各州法律、条例等は全て廃止し、日本国憲法、法律等を準用する。
また、英国との共同統治地域は日本の法律を準用させる。
但し、商習慣や貿易上の取決め等は2カ国の協議事項とする。
・政治体制については後日決定する。
なお、今までのアメリア連邦政府及び大統領制は廃止する。
さらに、英国との共同統治地域を除いた日本統治地域は、日本国天皇を盟主として、各州から代表者選出による議会制民主主義国家として、日本連邦に属すること。
・日本統治地域においては、ジム・クロウ法、ワン・ドロップルール等の人種差別的な法律は一切認めない。
・白人至上主義思想を推奨する個人、団体法人等はその存在を一切認めない。
・人種差別的行為を実施した者、団体、法人等(以下実施者略)は厳罰に処す他、実施者の財産等は没収し、権利等は剥奪とする。
・日本統治地域には、例外を除き石油を供給しない。
理由は温暖化防止のためであり、代替エネルギーとしてNF炉発電所を設置して、脱石油社会を目指す。
・石炭火力発電所は認めない。
理由は温暖化、公害防止のため。
・石炭利用については、製鉄用、化学合成用途を主な用途とする。
なお、国内にある製鉄所は全て生産設備を見直し、CO2を含めた温室効果ガス拡散防止等の公害防止に努める。
さらに国内にある全ての工場等は汚染物質の拡散防止に努める等公害防止に努める。
・家庭ゴミ、法人系廃棄物等は安易に埋立処理や焼却処理することなく、分別等を含めたリサイクル処理技術を駆使してゴミ拡散防止に努める。
・元アメリア国内の道路通行方法は車両右側通行から左側通行に改める。
・日本統治地域で統治期間は第1言語を英語、第2言語を日本語とする。
・日本領等の永久統治地域は、第1言語を日本語、第2言語を英語とする。
但し、アラスカ、ハワイについては第1言語を日本語、第2言語を英語及び現地語とする。
・日本語を含めた教育機関の設置については、別途に定める。
・現アメリア政府閣僚、軍関係者の処分については、別途に定める。
「三木大使、コレはあまりに御無体な条件です。例え我が国が無条件降伏したとはいえ、限度というものがあります」
「何が不満なのですか?国務長官」
「コレでは伝統あるアメリアの国家を引き裂いて、分割した領土を他国が支配するということですが、何とかこの分割統治を撤回するよう譲歩してもらえないでしょうか?」
「譲歩?貴男方の口からその言葉が出てくることが実に不思議だ。私達は、、、、」
一昨年、三木大使(当時外交官特使)は、ハル元国務長官との外交交渉で彼が日本政府に突き付けたハル・ノートに忠実に従い、中国から撤兵したにも拘わらず、アメリア政府は石油禁輸政策を含めた経済制裁措置を止めることなく継続し、挙げ句の果てに自らのセックススキャンダルを漏洩を防止するために交渉中の三木を含めた日本外交団を軍隊を使って亡き者にしようとした。
コレは言葉無き宣戦布告と解釈せざるを得ず、その後日本政府は貴国を含めた白人至上主義を旨とする国家に対して宣戦布告した。
日本軍は次々とアメリアの軍隊を打ち破り、最終的にはワシントンD.C.を占領し、アメリア政府を無条件降伏させたのであった。
「ステティニアス長官、無条件降伏の意味は分かっていますか?」
「降伏する時点で、コチラ側は一切条件を付けることが出来ないことです」
「長官、何故我々がアメリアを分割統治することに拘るのか、その理由を説明致します。それは、、、、、」
三木はステティニアスにアメリアの分割統治理由について詳細な説明を始めていた。
・アメリアは自由民主主義な政治体制を前面に打ち出しているが、コレは国家的な幻想、他国に対する詐欺行為と言わざるを得ない。
つまり、アメリアの自由民主主義は白人至上主義のための体制に他ならず、例え自国内に有色人種を含めた他民族が存在したとしても、それらを抑圧迫害して制限を加えることを何の罪悪感を持たない国民・政府であること。
・その白人至上主義を主体とした自由民主主義を世界中にばらまき、それらを諸外国に強要して自らの国が富むために覇権を行使すること。
・これ以上、白人至上主義という害悪を拡散防止するため、アメリアを覇権国家としての国力を持たせないために国土を分断統治するわけである。
「白人至上主義ですか。確かにインディアンや黒人達を人種差別した時期もありましたが」
「長官、何か勘違いしていませんか?アメリアの人種差別は過去だけでなく、今現在実施されているものじゃないですか」
「そんなことは無いはずだが」
「ほほう、それではジム・クロウ法、ワン・ドロップルールという法律や規則等が存在し、これらのルールで有色人種がいわれなき差別を受け、処罰されているのはどのようなことなのでしょうか?」
「うう、その法律やルールは、、、あの、その、一部の南部州で行われているものであり、東部の州にはそのような差別は無い」
「ふーん、それでは話題を変えましょう。
アメリアがレインボープランを立案した事実を私達日本、英国、ドイツ政府は周知しております。
コレはアメリアが世界中の国々を仮想敵国と見なして、戦略等を検討するもので宜しいですよね」
「え?あの戦略プランがそちら側に漏れていたのですか?」
「ハイ、貴男方の盟友であったはずの英国は、このレインボープランの存在を知り、英国自身がアメリアの敵国と見なされて、アメリアとの距離を置き始めたのですから」
「そうか、つまり自業自得というわけか」
「ハイ、今回の分割統治で日本、ドイツの他に英国も加わるわけです」
「そうですか、白人至上主義者には住み辛い国になるわけですね」
「その思いを有色人種達に押し付けていたのは、白人至上主義者達ですよ」
「うう、そうでしたね。
それより三木次官がいう分割統治案は、既に決定事項なのですね」
「ハイ、若干の修正はあるかも知れませんが、ほぼ決定事項です」
「既に決定したモノであれば、私がこの場に出ずに他の者でも良かったのではないのですか?」
「こういう国の重要事項を伝えるにも、ある程度権限がある上の方でなければ下々にキチンと伝わりませんから」
「分かりました。この分割統治案を一旦持ち帰り、トルーマン大統領と相談したいと思います」
「では、また後日。アメリア側からの良き回答結果をお待ち申し上げます」
ステティニアス国務長官は臨時会議場を出て、急ぎトルーマンがいる陸軍省、前世界でのペンタゴンの建物に向かった。
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