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61話 ドイツとの外交交渉 その2
しおりを挟むベルリン空港の滑走路で三木一行を出迎えたのは、リヒター外相であった。
「ようこそドイツへ。三木特使でしたか?」
「初めまして、リヒター外相」
「さて、皆様こちらへどうぞ」
滑走路に停まっていた送迎車に三木一行が乗り込むと、一路ベルビュー宮殿に向かった。
「これは格式高い建物ですね。フランクのベルサイユ宮殿は豪華過ぎてケバケバしさが鼻に付きますが、この建物は質実剛健、シンプルなのに格式の高さを感じます」
「流石は日本の方ですね。他の諸外国の者達はこの建物のシンプルな機能美を理解してくれる人々が少ないのです。
それより、三木特使のドイツ語は素晴らしい発音です。
何らドイツ国民と変わらない程に流暢な言葉を話しています。
ちなみに、どちらでドイツ語を学んだのですか?」
「申し遅れました、外相。コチラの女性は我々と同行しているフィンランド大使館のカトリーナ・リリア女史で、彼女からドイツ語の指導を受けたのです」
「おお、フィンランドの。そういう経緯でしたか」
「あ、リヒター閣下。そういえば私の随員達の紹介がまだでしたね。
まずコチラの女性が先にお話しした『カトリーナ・リリア』女史です。
次に私の秘書官の、、、、、、(中略)と申します」
「リリアさん、祖国は大変な状況ですよね」
「閣下、私を家名でなく名前で呼んで下さい。『カトリーナ』と」
「では、改めてカトリーナさん。祖国は危機的状況だと察しています」
「閣下の慰みの言葉、痛み入ります」
「閣下、まだ日独伊防共協定はまだ有効でしたか?」
「ハイ、昨年11月25日に協定の期限が切れてしまいました。
本来なら、協定が切れる前に我が国とイタリーとの三国軍事同盟を結ぶ予定でしたが、それを断ったのは何故なのですか?」
「それはアメリアの圧力により、貴国との同盟を結べなかったのです」
「その圧力は理解しましたが、今回ドイツを訪問されたのはどういう理由からでしょうか?」
「ハイ、ドイツとル連は現在戦争状態ですよね。
ズバリ本音を言うと、ル連をドイツの手によって崩壊に追い込んで欲しいわけです」
「しかし、ル連を潰すにしても国土が広大過ぎる」
「確かに全部は無理でしょう。
だが、ウチの関東軍は昨年冬にル連に攻め込んで沿海州、ベーリングを占領し、現在はシベリアに進攻中です。
今年中にはシベリアを完全占領し、来年にはウラル山脈に軍団が到達して、エカテリンブルクを攻略する予定です」
「おお、それは随分電撃的な進攻速度ですね」
「ハイ、貴国の機甲師団を参考にさせてもらいました」
「ほおう、それはどの位の規模の機甲師団ですか?」
「そうですね、戦車部隊を中心にした10個の機甲師団と30万人兵士の機械化歩兵軍団で現在も進攻中です」
「機甲師団というからには、戦車の数が沢山必要だと思いますが、日本はどの位の戦車をお持ちですか?」
「そうですね、コチラの関東軍だけでざっと1万両ですか。他にも多数戦闘用車両を所有していますよ」
「い、1万両の戦車があるのですか?凄い数だ!」
「取りあえず日本としては貴国と再度防共協定を再締結して、ル連を一刻も早く崩壊させて、世界から共産主義国家を無くしたいのです」
「日本と我が国が防共協定を再締結するのは構いません。
一つ疑問があるのですが、我が国と英国は戦争状態です。しかし日本は英国と同盟を結んでいるのはどういうことなのでしょうか?」
「そうですね、端的に言うと『自己防衛と相互利益のため』といった表現が正しいでしょう」
「はぁ?今の説明では私には理解不能と言わざるを得ませんが」
「日本も当初英国と争う予定でしたが、途中で横やりを入れて来た横暴な国家が現れたのです」
「それはアメリアのことですね」
「ハイ、アメリアは日本を戦争に引き込むためにあらゆる手段を講じて来ましたが、その対抗策の準備として英国と手を結んだわけです」
「なるほど、同盟に至った理由は理解出来ました。
しかし、現在日本はアメリアと戦争中ですが正直勝てるのですか?」
「閣下、日本が現在アメリアにどの程度進攻しているか御存知ですか?」
「昨年冬、ハワイを占領したことは聞いていますが」
「昨年末までにハワイだけに限らず、アラスカも同時占領しています」
「いつの間にそこまで占領していたのですか!」
「閣下、日本は必ずアメリアを完全に敗北させる予定です。
その敗北へ至るために、2つの国に協力を仰いでいます」
「2つの国とは?」
「ハイ、1つはメキシカで、もう1つはカナダです。
メキシカとは軍事協定を結び、カナダは現在英国の自治領ですので、英国との同盟により、良き協力関係が結べました。
この2カ国の協力によって、アメリアを三方から攻めることが可能になったのです」
「ふむ、アメリアを敗北させるわけか。フフフ、面白い」
「閣下、当然ながら日本に協力してくれた2カ国には、それ相応の対価を与える約束となっています」
「つまり、アメリア敗北後の占領分割統治か」
「閣下、流石に察しが良いですね。まさしくそのとおりです。
ドイツも状況次第では、その分割統治に加わって欲しい訳です」
「何故、そのような美味い話を我がドイツに持って来るのか?」
「それは、英国と和平してル連を崩壊させた後、新たなロシアの国をドイツの手で造って欲しいのです」
「日本軍は現在シベリア進攻中で、再来年にはウラル山脈に到達する勢いではないか。その山脈を越えた先を攻める事は簡単じゃないのか?」
「閣下、ウラル山脈から東側はアジアです。だが西側はヨーロッパです。
日本はアジア人の心情は理解出来ますが、ヨーロッパ人の心情は正直言って分かりません。
ヨーロッパへの進攻占領は簡単ですが、その後の統治となるとヨーロッパ人を知らない日本人には、欧州を統治するノウハウが無いというのが本音です」
「ふむ、我がドイツにヨーロッパ側のル連を統治しろとはね」
「閣下、出来れば日本軍占領下の赤軍の捕虜と赤系ロシア住民をそちらの地域に移住させ、ドイツ流に思想改造してもらいたいのです」
「赤い連中をドイツに押し付けた手間賃が、アメリアの分割領土ですか」
「そうです。出来ればドイツ軍がアメリアに進攻して切り取り次第を認めたいところですが、それは後の分割に支障をきたすのと、未だアメリア大西洋艦隊が健在ですからドイツ軍に損害が出る可能性は否めないでしょう」
「むう、先にヨーロッパを固めて万全の体制で大西洋に出ないと痛い目に合うわけか」
「ドイツ側の実力行使が無い分だけ、若干取り分は少なくなるかも知れませんが、ル連の赤軍連中処理にかなり手間取ると思いますので、その手間賃分は検討致します」
「分かった、三木特使。今この場で即決という訳には行かないが、この議題を総統に掛け合おうと思う。
それまでは明日の朝までにはそちらに返答出来ると思うので、今晩はコチラの宮殿内に宿泊して、ご緩りと過ごして頂きたい。
「有り難うございます。総統陛下の良き御返事を期待しています。
あ、それと総統は食べ物に好き嫌いはありますか?」
「何故そのようなことを聞くのか?」
「我々の乗ってきた飛行機にキッチン機能を備えているモノがあるため、日本料理のおもてなしが出来るかと思いまして」
「おお、そういう理由でしたか。
実は総統は一般のドイツ人の味覚に比べ、超グルメと言える位に味覚が鋭い感覚を持っており、食べ物の好き嫌いというより美味い不味いがハッキリしています」
「そうですか、それは日本人の味覚に近いかも知れませんね」
「ほほう、三木殿は総統を満足させるだけのグルメ料理を用意出来るということですか」
「ハイ、そのためのシェフも同行させていますので」
「では、明日以降に期待致しましょう」
三木一行は、リヒター外相の計らいによりベルビュー宮殿に宿泊し、明日の総統との対面に備えるのであった。
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