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58話 対ル連戦 その3
しおりを挟む日本時間 1941年12月8日 5:00
沿海州方面に進攻していた酒井将軍率いる機甲軍団は、ボグラニチニ方面、ボルタフカ方面、コンシュン方面の3方面に分かれて沿海州内に進攻した。
日本時間 12月6日 13:00
舞鶴基地から空母を除いたイージス艦隊が出撃した。
艦隊の内訳はイージス艦6隻、巡洋潜水艦3隻、補給艦2隻で、空母を除いた理由は真珠湾攻撃で使用しているためと、もう一つの理由は日本国内の空軍基地と攻撃対象の沿海州が近距離であり、戦闘行動半径の距離が充分取れて、国内空軍基地からの攻撃で充分だったからに他ならない。
日本時間 12月6日 10:00
佐世保基地からハワイ方面攻略に行った強襲揚陸部隊とは別の強襲揚陸部隊がウラジオストクへ向かって出撃した。
強襲揚陸部隊の部隊編成は、5万トン級強襲揚陸艦1隻、軽空母1隻、イージス艦2隻、NF炉潜水艦2隻、補給艦1隻で積載兵器は航空部隊がF-35B 20機、V-22改20機、AH-64F改10機、対潜ヘリ10機であった。
上陸部隊は、10式改戦車10両、AAV7改20両、機動戦闘車20両、LAV改50両、高機動車改50両、中型トラック50両、他LCAC型エアクッション艇4隻を搭載していた。
部隊人員は国防軍海兵隊で、総数5,000人で各艦に分乗して沿海州の上陸を目指していた。
日本時間 12月8日 4:00
北海道千歳基地からB-1s 5機、青森県三沢基地からF-2改 30機、石川県小松基地からF-2改 20機がそれぞれ発進し、一路ウラジオストク及び周辺都市の空撃に向かった。
F-2改は、ウラジオストク及びナホトカ及びその周辺都市の軍事基地空爆を実行して、B-1sはハバロフスク及びその周辺都市にある軍事基地空爆を開始した。
空爆した時間は1時間前後であったが、その短い時間にほぼ全てのル連の軍事施設、兵器等が破壊され、日本軍に抵抗する軍事勢力は一掃されていた。
空爆が終了し各爆撃部隊が帰投後に、海兵隊がウラジオストク及びナホトカの2都市に上陸するも一切武装勢力等からの抵抗は無かった。
その理由は、日本国情報省諜報部隊が転移事象後から開戦までの2年の間、ル連国民に溶け込み、沿海州地域で共産主義が悪の権化であり恐怖政治で国民を縛り付けていて、ル連政府を打倒しないと国民の平和と幸福が戻ってこないと密かに民衆の間で啓蒙活動を行うことで、ル連への国民の反逆心を植え付けていたからであった。
「こんなに民衆の抵抗が無いのは驚きだな」
「噂によると情報省が暗躍して、国民に共産主義は駄目な思想だと吹き込んだらしいぞ」
「そんな啓蒙活動みたい事で、国民の考えが変わるのか?」
「ル連政府は恐怖政治そのものだから、それを崩壊してくれる他勢力は救いの神らしい」
「なるほど、それでは我々の軍隊は神々の軍隊だな」
「否、女神の軍隊だな。ワハハハハ!」
日本軍兵士達での噂のとおり、ル連国民からすれば共産党政府は恐怖以外の何者でもなかった。
この共産党政府とル連軍を打倒し、自分らを解放してくれる存在であれば、例え他国の軍隊であっても構わないと、国民を思想誘導していた諜報部隊が一番の功労者であった。
その頃、国防総省総理執務室内にて
「沙理江、ル連国内で情報省諜報部隊が大活躍しているみたいだな」
「閣下、本来は諜報部隊はスパイそのもの。
その活躍が表立って皆に知られては、スパイとしては落第です」
「確かに沙理江の言うことも一理あるが、表立って知られているのは諜報部隊のみで、他のスパイ部隊は知られていないわけだし、この諜報部隊を知られているのも軍内部だけだ」
「閣下が言うのは理解しますが、やはり隠密行動は秘密裏に行うのがモットーですから、その心掛けを彼等が決して忘れて欲しくないことです」
「沙理江が理想とする隠密は、決して表立ったヒーローではなく、決して誰だか分からないが、密かに誰かの手助けをする影のヒーローの存在であることを自覚して欲しいということだな」
「ハイ、そのとおりです」
「ふむ、流石に隠密ロイドの統括者だけあるな。沙理江の隠密美学というところか」
「閣下のお褒めの言葉、痛み入ります」
一方、ウラジオストク入りした酒井将軍は、上陸した海兵隊員の占領活動を見ていて独り言を呟いていた。
「たった一日で、ウラジオストクを制圧して占領出来るとは」
「閣下、これが我々の軍事力の差による結果でしょう」
「君は誰だ?」
「失礼致しました。申し遅れましたが、私、鈴木通夫といいます。
階級は中将、海軍海兵隊第1強襲揚陸部隊師団長で沿海州攻略担当の任に就いています」
「おお、貴男が鈴木師団長でしたか。ですが、強襲揚陸部隊とは何なのか?」
「ハイ、国防軍海兵隊の主力部隊ですね」
「海兵隊というと、陸水隊みたいなものか?」
「管轄部署は海軍に属し、海軍の上陸専門部隊と思って下さい」
「装備を見る限りでは、陸軍と全く変わりないのだな」
「そうですね、上陸時の先頭部隊は陸軍部隊より重装備かも知れませんね」
「この後、海兵隊はどちらに?」
「酒井将軍の関東軍に占領統治を引き継ぎし、別の攻略地点に向かいます」
「今回の戦闘で死傷者はどの程度なのか?」
「概算では、ル連率いる赤軍の死者は約5,000人、負傷者は約1万人で、捕虜が約5,000人というところです」
「我が日本軍の死傷者は?」
「ズバリ言って『0』です。あ、違うな。昨日施設大隊で兵士の1人が機械の操作ミスで足を負傷していたよな」
「それは戦闘での怪我ではないだろう。今回の戦闘死傷者は?」
「戦闘死傷者は『0』ですよ、閣下」
「鈴木師団長は冗談を言っているのか?この時代は戦時中で、今現在も戦闘が継続中じゃないか。そんな環境で戦死者が『0』というのは何かの間違いではないのか?」
「否、閣下。冗談でも間違いでもございません」
「し、信じられぬ。君ら国防軍は神の軍隊なのか?」
「神々からの加護は多少あるのかも知れませんが、これが軍事力、技術力の差なのです。
なお、説明をつけ加えると国防総省の発表では、真珠湾攻撃を行った部隊も死者0で、負傷者は5名だったそうです」
「ハァ~全く凄すぎて言葉が出ないね。
それより、この後は海兵隊師団は何処の方面に攻め込むのかね?」
「酒井将軍が率いている機甲師団で、現在ハバロフスク方面を攻略していると思いますが、コチラの助太刀が要らなければ次に沿海州海岸沿いの村落を順次占領して、最終的には樺太を完全占領するのが年末までの目標です」
「そうか、それよりコチラの地域は住民の抵抗が少ない気がするのだが」
「閣下、それはル連共産党政府の圧政から逃れてきた白系ロシア人が多いのですよ」
「ほほう、白系というと革命反対派だな」
「ハイ、そのとおりです。彼等はル連政府からの弾圧を怖れてこの地に移り住んで来た者達で、日本側の真意が理解出来ると大変協力的で、日本軍に無抵抗の姿勢を取っていたのです」
「なるほどな、民衆の力を味方に付けることは何より頼もしい」
「ハイ、私も過去に他の国々が革命で滅ぶ様を知っていますから」
「それより、鈴木師団長。海兵隊が今後目指す攻略目標は何処かね」
「ハイ、今年は沿海州からカムチャツカからベーリング海方面ですね。
コチラの占領地域を陸軍に引継ぎすると、また別の場所へ移動です」
「もし君が関東軍を指揮した場合で、今後の攻略目標について策をアドバイスしてくれないか?」
「ハイ、最終目標はル連の崩壊ですが、寒さが厳しくなるので、今年は一旦ここで進軍中止して、冬の気候が安定したらサハ共和国に進攻したいと思いますが、現在情報省諜報部隊がサハ共和国政府の要人を説得中で、向こうの政府と連携してサハ国内の赤軍派を諜報部隊が一掃する予定です。
酒井閣下がサハ共和国に取り掛かっている間に、石原将軍はシベリア手前の各自治共和国を味方に付けなければなりません。
どちらにせよシベリアは広大ですから、両者が協力しないと占領統治もままならないと思います。
後はシベリアを占領統治したら、ウラル山脈まで一気に攻め込み、出来ればエカテリンブルクを出来るだけ早く占領統治したいところです」
「途中、カザフスタンがあるがコレは障害にならないのか?」
「カザフを含めたいくつかの自治共和国は、モンゴルと同様に独立させるように現在情報省諜報部隊が内部工作で赤軍派一掃を画策しています」
「なるほどね、内部工作か。エカテリンブルクまで何年掛かるのか?」
「おそらく再来年夏前までに完全占領ですね」
「恐ろしく進軍が速いけど、エカテリンブルク以降は進軍しないのか?」
「実はドイツ軍がモスクワ近郊まで迫っていて、首都が陥落するのは時間の問題でしょう。
ル連共産党政府としてはエカテリンブルクへ遷都するのが無難な計画ですが、先にウチの関東軍がエカテリンブルクを押さえると、共産党政府は首都の遷都先を変更せざるを得なくなります」
「それでは師団長は、ル連が何処に遷都すると予想しているのかね?」
「おそらくゴーリキー(ニジニ・ノヴゴロド)だと思いますね」
「その根拠は?」
「この都市はル連では重要な軍事工業都市なのですよ。
ここで武器を製造しながら、敵に対抗することも可能なわけです」
「なるほどね。しかし、ウチらがエカテリンブルクを真っ先に押さえるのは何のためか?」
「ここもル連の工業中心地なのです。エカテリンブルクを陥落させることは、ル連の赤軍に戦車や装甲車両、砲門等を半減させることに繋がるわけです」
「日本軍がウラル山脈をあえて越えない理由は何か?」
「勿論、ドイツ軍が迫って来ているのは確かです。
しかし、もっともな理由はウラル山脈でアジアとヨーロッパを分けているからに他ならないのです」
「アジアとヨーロッパを分けていることがそんなに大事なのか?」
「ハイ、我々にはヨーロッパを統治するノウハウはありませんから」
「つまり結局日本人はアジア人だから、ヨーロッパには手を出さなかったということか?その割にはアメリアには手を出すのはどういう理由だ?」
「前世界で日本はアメリカに手を出されて、日米同盟は形式上であって実際はアメリカの犬でした。そんな犬でもアメリカの良いところを学び取り今に至るわけです。
その学び取る課程で、アメリカという国家、政治、軍事、経済等のあらゆるシステムや、多くの人種を理解して様々な宗教、思想、哲学等を理解することで、この世界のアメリアを占領統治することが出来る自信が付き、神々の導きによる歴史改変を含めてあえて手を出そうと政府、経済界や軍上層部等は考慮したのではないかと思います。
逆にヨーロッパはアメリア一国とは違い、様々な国々、人種、民族等に分かれて、また複雑に絡み合いながら国家を造り上げた長い歴史があります。
その歴史もアメリアのたかだか200年前後の年月とは違い、その10倍以上の2000年以上の歴史を持つ地域が多数あります」
「なるほどな、何故新日本の人々がアメリア征服に拘る理由が少し理解した。
どちらにせよ、シベリアと周辺地域を完全占領したら一気にウラル山脈まで攻め込むか」
「早いところル連を崩壊させ、白系ロシア人のための国家樹立に邁進しなければなりませんね」
「ああ!同感だ」
この後、鈴木師団長はカムチャツカ攻略後、グアム、フィリピン等を転戦して、アメリカ本土上陸に向かった。
一方、酒井将軍は石原将軍と合流し、シベリア攻略後にひたすら西進して、エカテリンブルクを攻略したのは予定より早い1943年1月で、ドイツ軍がモスクワを同年4月に陥落させ、共産党政府残党がゴーリキーに共産党政府を移し、首都を遷都していた。
しかし、ドイツ軍の猛攻に晒されて共産党幹部の殆どが自決し、逃亡する者が全て逮捕して処刑されたのは1943年5月末であった。
ついにル連共産党政府は壊滅したものの、一部赤軍派を推進する国民が相当数残っており、ドイツは即座に洗脳、粛正する暴挙には出ず、彼等を一定の地域の枠に囲み込む形で『ロシア社会主義共和国』を樹立させて、その国の中で共産主義者を監視する体制を造り上げていた。
一方、共産党政府時代に地下に潜伏していた白系ロシア人は、共産党政府下で虐げられていた農民や労働者の支持を得て、白系ロシア人の手による国造りを始めて『ロシア民主共和国』を樹立させていた。
また、ル連は国家崩壊以前までフィンランドに対して戦争状態にあり、侵略行為を行っていたが、領土回復と過去ロシア帝国時代に簒奪されたサンクトペテルブルクからムルマンスクまでの地域が割譲され、フィンランドの領土は倍以上に拡大した。
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