日本国転生

北乃大空

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26話 転移する日本 その2

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PW地球時間 1940年3月1日午前6時(正史地球時間 2040年3月1日午前6時)

 ある農村にて

「ドンドン、ドンドン!駐在さん!」

「どうした?佐藤さん。こんなに朝早く」

「ウチの隣の鈴木さんの空き地に、見知らぬ古い家が建ったんだ。
 それを駐在さんに知らせようと思ったのだが、コッチに来る途中に昔の役所みたいな建物が町有地の空き地にも建っているぞ」

「何?本当か。よし!今見に行くから」

 まず駐在所員が最初に見たモノは昔の役所というよりも、昔の駐在所の建物であった。

「コレは、過去の資料に載っていた写真の建物と同じだな」

 一方、昔の駐在所に住んでいた駐在所員は、外が騒がしいことに気付き建物の外へ出たところ、旧駐在所の周辺が大きく変わっており、特に目の前の道路が砂利敷からアスファルト舗装の道路に変わっていたことに一番驚いていた。

「こ、これは一体どうしたことだ?」

 旧駐在所建物から出て来た人物は、昔の警察官が着用していた服装で、その風体はボタンが十数個付いた学生服の長ランに似た感じで、頭は軍隊帽みたいなつば付き帽子を被り、腰にはサーベルを下げていた。

「駐在さん、あの人は昔の警察官ですよね?」

「ああ!多分間違いなく昔のお巡りだ」

「オイ、コラッ!貴様ら何をコソコソ喋っているんだ?」

「随分、乱暴な言葉使いなんだな、昔の警官は」

「誰だ、貴様?その物言いは警官を侮辱するのか!」

「私か?私は××警察署○○駐在所勤務、田中正男 階級は巡査部長だ」

「は?ハイ、失礼しました。巡査部長様。
 本官は、△△駐在所勤務、小林二郎巡査であります」

「分かった、小林巡査。
 まずキミに言いたいことは、巡査部長に『様』の敬称は付けなく宜しい。
 次に言いたいことは、先程住民の皆さんに乱暴な言葉使いをして、暴言を吐いていたな。
 そのことについて、私ではなく住民の皆さんに謝罪して欲しい」

「ハイ!分かりました、巡査部長さ、あ、田中巡査部長。
 住民の皆さん、済みませんでした」

「ポロロロロ、ポロロロロ!」

「ハイ、田中です。ハイ、ハイ、、、、、分かりました」

 田中は本署からの指示を警察内部電話で受けていた。
 その指示内容は、新日本の警察が旧日本の警察を組み込むものであった。



 場面は変わり、とある漁港にて、先程の農村と同時刻


「いやー、困った!実に参った。漁労長、何とかならないのか?」

「俺だって、昨日外国人研修生3人と慰労会で一緒に飲んでいた時、午前0時を境に、突然目の前から3人の姿が消えたんだぞ。
 最初は狐か狸に化かされたのか?と半分冗談のように思っていたけど、隣のスナックで飲んでいた外国語講師の女性2人が、同じように突然消えたという話を聞いたんだ」


「プルルルル、ハイ、ん、分かった」

「漁労長、漁協理事から電話があったが、今日午前7時から政府の緊急発表があるから、必ずテレビを観るようにということだ」

「ん、分かった。取りあえずウチに帰る。落ち着いたらまた来るわ」


同日午前7時からの緊急発表 テレビ中継

『、、、、えー、というわけで、我が国は別世界の地球上の1940年の日本に重なる形で転移したわけで、これらの現象を【転移災害】と名付け、、、、(中略)その転移災害の影響で、日本国籍以外の外国人が消失したのです、、、(後略)』

「へー!やっぱし国ごと別世界に転移したのか?」

「だけど、外人だけが全て消えるのも不思議だな。
 あ、そうだ。漁労長、知り合いの韓国バーのママのところに電話し、ママがいるか確認してみたら?」

「おう、分かった。プルルルル、プルルルル、プルルルル」

「全然出ないぞ。それじゃ中学校にも掛けてみるわ。
 確か、英語派遣講師がアメリカ人だったと思ったが」

「プルルルル、プルルルル」

『ハイ、○○中学校です。え?英語の派遣講師ですか?
 昨日、卒業式の謝恩会にアメリカ人講師が出席していたのですが、二次会のカラオケボックスでアメリカの先生が歌っていた最中、当然マイクが宙に浮いて、外人先生の姿が父母の目の前から消えたのですよ。
 時間を見たら、午前0時ころだったと思います。』

「ん、分かった。ありがとう」

「どうやら政府の発表は本当らしいぞ。外国人だけがいなくなっているようだ」

「ガチャ、バーン!」

 作業ジャンパーに胴付きを履いた中年漁師が、漁協事務所のドアを勢い良く開けて事務所内に駆け込んで来た。

「組合長!大変だ。
 見知らぬ裸の若者十数人が、岸壁に現れて騒いでいるんだ」

「裸?何だそれ?
 まあ良い、分かった。
 おい、漁労長。一緒に来い!」

「オウ、分かった!」

 組合長と漁労長は漁協事務所を飛び出し、漁船が停泊中の岸壁に向かった。
 岸壁にはほぼ裸同然でフンドシみたいな白い布を股間に巻き付け、辛うじて局部を隠している姿の10代後半から20代前半の若者十数名がいた。

「貴男様がこの港の頭ですか?」

「俺がこの港の責任者だ」

「オラの話を聞いて下さい。
 夕べ寝てから寒さで目が覚めると、寝ていた家が無くなっているし、街並みもすっかり変わっていたんです。オマケに乗っていた船も無くなって困っているんですわ」

「アンタら漁師か?」

「ヘイ、そうです。
 だけど、乗る船が無いから陸に上がった河童と同じですわ。
 取りあえず、ココに来れば仕事があると思い、皆で来ました」

 彼等の姿は、まさしく昔の漁師そのもので、頭には鉢巻状の手拭いみたいな布を巻き付け、上半身は完全に裸、下半身もフンドシが無ければ全裸に近い姿であった。

「服はどうしたんだ?」

「元々持ってないです。以前に偉い人に会った時に全裸でいたら怒られたことがあり、今日は上の人と会うということで全員フンドシを締めたのですわ」

「ウーン、参ったな。お前ら仕事が欲しいか?」

「ハイ!是非やらせて下さい」

「よし分かった。仕事を与えるから全員俺に付いて来い」

「組合長、コイツら全員日本人ぽいみたいですけど、どうするんですか?」

「漁労長、アンタのところを含めて網元から何十人か外国人研修生が消えているだろう。その穴埋めに彼等を使う予定だ」

「住居はどうしますか?」

「取りあえず、消えた外国人研修生の寮に住んでもらう。
 そこならば三食付きだから、多分大丈夫だろう。
 俺はこの連中に着てもらう服を見繕って来るから、漁労長は仕事の段取り等を頼むな」

「了解した、組合長」


 転移災害で、一番混乱していたのは外国人研修生を多数受け入れして、雇用していた農林水産業の第一次産業が主体の過疎地域であった。

 雇用現場では、集団で外国人研修生の姿が消えたことから、当初は集団脱走も考えられたが、突然目の前から姿が消えた現象を目撃している者や、政府の発表等から、外国人のみが消失したことを理解していった。
 ただ、外国人が担っていた労働力不足は否めず、消失した当初は困惑していたものの、旧日本人が外国人の代わりに現れ、労働力の穴埋めをしていった。

 旧日本人は外国人と違い、至って真面目な人達であったのは、ごく当然の事であった。
 何故なら、パラレルワールドといえど同じ日本人であって、気質、性格等は昔の日本人と全く同質で、当時の時代背景から上下関係や命令系統はきっちり教育機関等で叩き込まれていることから、新日本の上司からの指示命令や仕事等は全てきちんとこなしていた。

 また、外国人と違って日本語が通じることから、互いの意思疎通等に障害は無く仕事の効率が上がり、高齢化が進んでいた農林漁村地域には、或る意味では救いの神であった。
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