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第3話 二輪免許取得許可

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 三隈みくまが部屋で待っていると、ドアが開いて生徒指導部部長と担任が入ってきた。
 担任がA4サイズの紙が入っている大きさの封筒を持っていた。

 二人は三隈と机を挟んで反対側に座った。
 三隈がふたりの顔を交互に見ていると、生徒指導部長の教師が口を開いた。

 「諫早いさはや、先月に申請された二輪車の免許取得とバイク通学願について、学校の許可が出た」

 「許可をいただけたんですか、ありがとうございます」

 そう言って、三隈は頭を下げて礼をいった。

 すると、担任が自分の前に置いていた封筒を三隈の方に差し出した。

 「三隈さん、この中に二輪免許取得許可証とバイク通学申請書と保護者の同意書などが入っているよ。書き方の例文も同封しているから、それを読んで書いてね」

 「中を拝見してよろしいでしょうか」

 三隈は、自分の前に来た封筒の上に手を置いて、二人の方を見て訊ねた。
 一呼吸間があいた後、生徒指導部部長が許可を出したので、三隈は封筒を開いて、中から書類を取り出して確認をした。そして再び封筒に戻して机の上に置いた。
 その様子を見た、担任が口を開いた。

 「三隈さんは、家庭の事情以外におばあさんの嘆願書と、日頃の生活態度が良かったから許可が出たんだよ。普通だったらでなかったよ」

 「春日先生の言うとおりだ。ここ数年の騒ぎのあと、どこの高校もしばらくバイク通学の許可は出さなたからな。校長先生は今回のバイク通学許可のために、県まで交渉に行ったんだぞ。会う機会があったら、きちんと礼を言っておけよ」

 ここ数年の騒ぎとは、以前山梨県を舞台としたキャンプアニメやバイクアニメが放映されたことで起きた事件だ。

 どちらのアニメも主人公がオートバイに乗っているが、キャンプアニメの方は学校に無許可で免許取得をして、それを知った顧問の教師が学校に報告せず黙認していた。これだけでも県や学校側にとっては無断免許取得という問題行為だった。

 さらにバイクアニメの方は、学校のバイク通学許可を取ったところは良かったが、その後校則違反、道路交通法違反を何度も繰り返し、人命に関わる危険極まりない行為のシーンまで表現された。それらの行為をいさめるはずの教師や親まで、主人公たちのワガママ勝手を容認するなど、大人まで子供のDQN的行動を勧めるアニメになっていた。

 これがアニメ内の話で終われば問題なかったのだが、視聴者の中に、山梨県だったら高校生でもバイクの免許を勝手に取得して好き放題乗り回せる、と勘違いした中学生が県内の高校に多数入学して、無断免許取得、騒音、暴走行為などの迷惑行為や事故が多数発生した。
 さらにそれらの迷惑行為を行った生徒に対して学校が指導を行ったところ、複数の親が県教育委員会に苦情を言うなどのトラブルが発生して、その対応に苦慮したことだ。
 
 この騒ぎのせいで、一時期山梨県内の高校では二輪免許取得とバイク通学の許可が出なくなった。
 しかし、片道一時間以上かけて自転車で通学する生徒が増えたため、親や親の依頼を受けた県会議員からバイク通学を再度認めて欲しいという請願が何度も県に提出された。そのため、県教委もやむを得ない理由がある場合のみ許可する、という方針に去年変わったばかりだった。

 だが、住民の意識が変わるのには時間がかかる。バイクに乗る高校生は迷惑をかける存在だとというイメージを変えるには、今乗っている人がマナーを守って運転する事が必要だと言うことだ。

 「だから、バイク通学をするのはいいが、決まりは守れよ。分かったな」

 と生徒指導部長の説教が終わった。
 三隈はしおらしい顔をして、分かりました、とだけ答えた。彼女にとって自分に関係ない過去の話をされても迷惑なだけだった。ただ、自分が二輪免許取得ができて、バイクが乗れればいいだけの事だ。

 三隈の返事を聞いた生徒指導部長は、

 「念のため、もう一度言っておくが、通学に使用していいのは、三輪スクーターだけだぞ。冬場の路面状況で転倒の危険がある二輪車はダメだからな」

 「はい、分かっています。二輪だと冬のアイスバーンは危険ですから」

 「分かっているならいい。では免許を取ったら、免許証と通学許可申請書を学校に持ってきてくれ。そのときおばあさんも一緒に来てくれると、保護者への説明に行く手間が省けて助かる。通学許可証はその日のうちに作って渡せると思う。新学期の始業式前日までに来てくれれば、始業式の日からバイク通学ができるぞ。ただ、先生たちも四月は忙しい。事前に電話で学校に来られる日時を連絡してくれれば、時間の設定もしやすい。できるか」

  「はい、分かりました。免許取得後、バイク通学申請書を持って祖母と一緒に学校に来ます。いろいろご苦労をおかけして、申し訳ありません。本当にありがとうございました」

 最後は頭を下げお礼を言った後、三隈は書類の入った封筒をリュックに入れ、立ち上がってあいさつをして部屋を出て行った。部屋のドアが閉じた後、彼女は生徒指導部室の出入口で中にいる先生方にあいさつをして立ち去った。

 部屋に残った二人の教師はお互いに顔を見合わせて、ため息をついた。
 生徒指導部長が、

 「しかし、よく考えたな。運転免許制度を活用した、諫早の勝ちだな」

 「そうですね。まさか、普通二輪免許で小型特殊車両の運転ができるなんて知りませんた」

  それを聞いた生徒指導部長は、少し渋い顔をした。

 「普通だったらばあさんのケガが治るまで我慢しろで済むんだが、嘆願書に所有している田畑の耕耘をさせるため耕運機の運転ができる普通二輪免許が必要です、と書かれてはこちらも認めるしかない。あいつ、ホントに頭がいいな」

 「そうですね、無口で静かな感じですが、頭はいいようですね、確か進路希望は大学進学だと言っていたと思います」

 「あいつの実家は、元名主で山持ちだから余裕で進学できるだろうな。しかも地元の名士だから、校長も許可しないとあちこちから苦情が来ると諦めていたよ」

  担任は、諦めた表情で、

 「一応、三隈本人に、家庭訪問で耕運機を動かしているところ見に行くと言いましたけど、耕耘する日を教えるのでぜひ見に来てくださいと、平然と返されましたよ」

と言った。

  生徒指導部長も諦めた表情になって、

 「そうか、まあ、俺たちに出来ることはやった。後は諫早が悪さしないことを祈るだけだな」

と言い、担任は、

 「そうですね、ハハ」

とあいづちを打った。

 そしでまたため息をついて、二人の教師は、顔に苦笑を浮かべて椅子から立ち上がった。
 
 =======
  
 生徒指導部室を出た三隈は、早足で廊下を歩き、昇降口で靴を履き替え駐輪場に行き、前かごにリュックを入れて、自転車に乗った。
 校門を出て県道17号線の坂道を早春の風に髪をなぶらせて走りながら、思わず笑みがこぼれそうになるのを、我慢するのに必死だった。

 - やったー、十ヶ月我慢したかいがあった。ばあばに耕運機を運転するために必要だと何度もお願いして、二輪免許取得の嘆願書を書いてもらったおかげだ。これで堂々と自動車学校に通える。ホントよかった -

 三隈は、十六歳になったらすぐ二輪免許取得をしようと考えていた。しかしあのアニメのせいで、バイクを乗り回していると近所の住人から学校に通報されて、免許を取り上げられる危険があったので、免許取得の口実ができる機会を辛抱強く待っていた。
 そんなとき祖父母が入院して、通学と実家の家業の手伝いを理由に祖母を説得して、学校へ二輪免許取得許可願とバイク通学許可願を申請することに成功した。

 - 我慢比べはワタシの勝ち、よかったー -

   ごきげんハナ丸気分の三隈を乗せて、自転車は坂道を軽やかに下っていった。
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