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第一章

1-12 欲望を満たして *

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 薄暗く、狭いトイレの個室で、俺は壱星の髪を撫でた。1本1本が細くて柔らかくてツヤツヤで、薄っすらと透ける頭皮の熱が心地いい。

「……ふっ……ん……」

 壁を背に立つ俺の前にしゃがみ込み、壱星はしゃぶりつくようにフェラをしている。

「気持ちい……やっぱ上手いな、壱星は」

 その言葉に目線だけ上に向けた壱星は、一層嬉しそうに俺のモノを咥えこんだ。

 やっぱり、こいつはフェラをするのが好きみたいだ。それは、たぶん、俺と関係を持つよりも前から。いつも頼まなくても舐めてくれるし、俺が挿れたくなって止めるまで舐め続けていることも多い。

 こうして立ったままフェラしてもらうと、壱星の様子がよくわかる。あの小さな口と細い喉で、よくもそんなに奥まで飲み込むことができるなと驚いてしまう。AVなんかで見るよりもずっと生々しくて、苦しそうな光景だった。

 自分からこんなことをしてくれるなんて、やっぱり壱星は相当俺のことが好きなんだと思う。

「壱星……そこ、ヤバい……」

 先端からカリの辺り、一番敏感な部分を強く圧迫されながら擦られて、俺の腰は知らぬ間に動き出してしまう。

「……それされると、もうイキそう……なぁ、このまま出していい……?」

 壱星は何かを答える代わりに、目を伏せたまま激しく頭を前後に動かし始めた。

「んっ……あっ……いっせ……あっ」

 手でその頭を股間に押し付けるようにしながら、俺は壱星の喉の奥で射精した。くぐもった呻き声のようなものを上げながらも、壱星は一切の抵抗を見せずに俺の吐き出したものを飲み込んでくれた。

 しばらくお互いその姿勢のままだったが、やがてゆっくりと壱星が顔を離した。唾液か精液か、濡れた口元を手の甲で拭いながら、壱星は萎びた俺の性器にキスをする。

「智暁君……」

 この個室に入ってから、壱星は初めてまともな言葉を口にした。顔を赤くしてこちらを見上げる姿が可愛くて、堪らなくなった俺はその細い二の腕を掴む。

「おいで、壱星」
「あっ、待って。口ゆすいで……」
「いいよ、そのままで」

 強引に立ち上がらせて、生臭さの残る唇を奪う。壱星の体はすべて細くて柔らかくて、すぐに壊れてしまいそうだけど気持ちがいい。

 体の位置を入れ替え、壱星を壁側に追いやると、首筋に唇を這わせた。

「ち、ちあきくっ……もう、時間が……」
「じゃあ、これだけ」

 壱星の着ている柄物のシャツのボタンを外すと、中のTシャツの襟口を引き下げ、ギリギリ人からは見えないところに吸い付いた。

「んっ……智暁君っ……」

 強く吸い上げると、俺の服を掴む手に力が込められる。

「そんなにしたら痕ついちゃう……」
「つけといた。いいだろ、別に。ここなら見えないし……」

 白い肌に残った赤い印に、俺はもう一度口をつける。次に俺が抱くまで、決して消えないように……。

「ち、智暁君……どうしたの、急に」

 顔を離すと、壱星はうっとりとした表情で俺を見上げ、それから細い指で自分の唇をなぞった。

「壱星、こういうのされるの好きかなって」

 本当は俺がやりたかったからだけど、適当なことを言う。

「うん、好きだよ。智暁君にされることなら、俺は、全部」

 壱星は恥ずかしそうに顔を俯けたが、そっと左手首に嵌めた腕時計を見ると躊躇いがちに俺の顔を見上げた。

「でも、もうほんとに行かなきゃ。あと5分で3限始まっちゃう」
「……あ、壱星、飯は」
「お腹空いてないかな……。智暁君は大丈夫?」
「俺は……さっきちょっと食ったんだ。ごめん」

 壱星は微笑みながら首を振ると、「行こう」と言って俺の手を取り、個室の鍵を開けた。

 こいつには俺の傍にいてほしい。絶対に離れないでほしい。だって、寂しくて仕方がないから。蒼空が同じ大学にいるのに、俺の隣にいない現実に押し潰されてしまいそうだから……。


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