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楽しいままで終わりたい。

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”楽しい時間を過ごせました。素敵な18年間だったと思います。
 最も古い思い出は、初めて夜更かしした時に見た朝陽あさひでしょうか。とても綺麗だったのを覚えています。世界には沢山の美しいモノがあるのだろうとあの瞬間、想像しました。
 実際に私はそれから多くの景色を観てきました。私が今抱くこの感傷が追憶や記憶の中の郷愁というものなのでしょうか。
 今、とても気分が良いです。
 なぎと一緒に歩いた学校帰り、今までに交際した彼氏たちと過ごした時間、性的な事。優れた映画、『思い出のマーニー』や『Stand by Me』小説なら、『武器よさらば』素晴らしい思い出ばかりが蘇ります。
 楽しいままで終わりたい。本当にただそれだけです。

 最期に創作物や特定の人物、インフルエンサー等に影響を受けての行動ではないという事を明記しておきます。
 すべて自分の考えに基づいた行動です。
 難しい事でしょうが、私の行動を否定しないでいてくれたのなら、本当に嬉しいです。

 18年間とても楽しく過ごせました。凪や世界中の皆さんが幸せな時を過ごすことができる様、祈っております。
 それでは皆さん、さようなら”
 
 中条ナミ


 遺書を読み終えた三好みよし凪は涙を流した。
 両親にさえ触れられていない、この短い遺書の中に自分について書いてくれたことが嬉しかった。それからこんなにも辛い事が起きているのに、屋上から見える空が綺麗に青い事に腹が立った。やり場のない怒りと悲しみが凪に「バカ」と小さく呟かせる。
 風が吹いて、遺書が揺れた。
 凪が遺書を目線の高さから下ろすと、ナミのローファーが見えた。綺麗に揃えられた女子高生の証は主を失ってフェンスのこちら側にただ置かれている。
 凪は泣くのを止めてローファーに近づいた。
「本当に楽しかったのかな」
 また呟いて、もう一度遺書を読む。登場する唯一の個人名は何度読み返しても凪だけだった。
 凪は遂に屋上から地上を見下ろした。親友が死んでいる。仰向けになって目を閉じて動かない。アスファルトの上に血が広がって、それが赤い翼に見えた。
 凪が口を右手で抑える。飛び出しそうになった胃の内容物を必死に押し戻した。
 それから凪はその場で膝を抱え込むようにして、うずくまった。風がまた吹いて汗ばむ両腕をかすめていく。
「私も楽しかったよ」
 うずくまったまま凪は独りでそう言って、また泣いた。
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