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実の世界
再生。Ⅱ
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一同は仰天した。ミノルも驚いていた。
「どうして?サトルさんと一緒で降って来た人じゃない。降って来た人はこの世界を良くしてくれるわ!そうでしょう?サトルさん!なのにどうしたって帰らなくちゃならないの?」
突然の告白に驚いたナオミが早口でまくし立てるように言った。
「それは考えすぎだね。それに彼と僕は違うんだ」
サトルは冷静に、またあの諭すような笑顔で答えた。
そして続けた。
「彼は帰らなければならないんだ。もう時間だよ。何度も言うけれど僕と彼は違うんだ」
これに対してミノルは多少の怒りを覚えた。
なぜ自分と唯一の親友がこうまで違うと断言されなければならないのか。
そして、帰るとはどういうことか。
ぞんざいな扱いと帰るという意味の分からない言葉によって彼は怒り、混乱した。
「どう言うことだサトル!俺とお前の何が違うって言うんだよ!それに帰るッてどういうことだよ!?」
今まで抱いていた”生”への希望の感情は見られなくなった。
それより今はこの親友の放った意味不明の言葉と扱いについて問いたださなければならないと思っていた。
そうして出た言葉だった。
それに対して親友は口を開いた。
ミノルを見つめて答え始めた。
「僕は元の世界で自殺することを選んだ。何より肉体も、もう残っていないからね。帰れっこ無いんだ。それに何より、僕と違って君はまだやり直せるんだよ」
ミノルには理解が出来なかった。
周りに集まっている一同にも理解は出来なかった。
ただ、サトルが真剣に親友と向き合っているということだけが伝わった。
「どういうことなんだ?帰れるって元居た世界にか?だったら一緒に帰ろう!いや、そうじゃない、この世界で一緒に生きていけばいいじゃないか!お前はこの世界が好きなんだろう?だったら一緒にここで・・・」
ミノルの熱弁はここでサトルによって遮られた。
「それはやっぱりどうしても出来ないね。親友の頼みだとしても。いや、親友だからこそ、僕と同じ過ちを犯して欲しくないんだよ。僕は、世の中を諦めてこの世界に来た。それはある種の逃げだよ。逃げることが必ずしも悪いとは言わない。でも、今の君なら逃げずに他のやり方を探すことが出来るんじゃないかな?少なくとも僕はそう思うし、そうあるべきだと思う。命のある人間はきっとどこかに居場所を見つけることが出来ると、今ならそう思うんだ。この世界に救われた僕はそう思う」
ミノルには少しずつ親友の言いたいことが分かってきた気がした。
自殺を選んだ親友はその責任を取り、この世界に来た。そして今は幸せに生活している。
これは単なる偶然だ。
死んだら楽になるなんて保障はどこにも無い。
死ぬ前に、幸せを、居場所を探す。そのチャンスを自分はまだ持っているんだ。
そうしてサトルは自分にはそのチャンスを掴んでほしいとそう願っているんだ。
そう思っていた。
「じゃあ俺は生きているのか?」
サトルの言うことからそう推測した。
そしてその疑問を率直にぶつけてみた。
「そうだよ。そして僕は君に帰って欲しいんだ。もちろん一緒に居たいよ。でもそれは逃げてるだけだ。まだ命があるんだよ。チャンスがあるんだよ。君には。元の世界で生きていく方法を探すチャンスがね」
ミノルは真剣に考えざるを得なかった。
サトルが作り上げたこの幸せな世界に暮らすことは、かつて自分がファンタジーに耽溺したことと変わらないのだと悟った。
今の自分は積極的に生きようとしている。
そして生きる場所はこの世界だけじゃない。
選択しなければならない。
そう感じていた。
そして親友が口を開く。
「どうする?今まで言ってきたようにやっぱり僕は自分自身で判断するべきだと思うよ。君自身が決めないといけない。酷いことを言っているのかもしれない。でも親友だと思っているから言っているんだ。その上で君がこの世界に耽溺していたい。死んだままでいたいと望むならその意見も尊重しよう。しかし、良く考えて欲しい。今の君は”生”について積極的に考えているんじゃないかな?今なら元居た世界でやり直せるんだよ」
選択を迫られた。
ミノルはハッキリとそう感じた。
ここで判断しなければならない。
自分の意思で、感じて、判断して、行動して、責任を取る。
それが生きるということだから。
親友にそう教わったから。
そう考えていた。
その場に居合わせた一同はミノルの言葉を待った。
彼の判断を待った。
そうして遂に彼は自分で感じ、判断し、行動し、責任を負う事を決めた。
つまり、こう言った。
「分かった。帰ろう」
「どうして?サトルさんと一緒で降って来た人じゃない。降って来た人はこの世界を良くしてくれるわ!そうでしょう?サトルさん!なのにどうしたって帰らなくちゃならないの?」
突然の告白に驚いたナオミが早口でまくし立てるように言った。
「それは考えすぎだね。それに彼と僕は違うんだ」
サトルは冷静に、またあの諭すような笑顔で答えた。
そして続けた。
「彼は帰らなければならないんだ。もう時間だよ。何度も言うけれど僕と彼は違うんだ」
これに対してミノルは多少の怒りを覚えた。
なぜ自分と唯一の親友がこうまで違うと断言されなければならないのか。
そして、帰るとはどういうことか。
ぞんざいな扱いと帰るという意味の分からない言葉によって彼は怒り、混乱した。
「どう言うことだサトル!俺とお前の何が違うって言うんだよ!それに帰るッてどういうことだよ!?」
今まで抱いていた”生”への希望の感情は見られなくなった。
それより今はこの親友の放った意味不明の言葉と扱いについて問いたださなければならないと思っていた。
そうして出た言葉だった。
それに対して親友は口を開いた。
ミノルを見つめて答え始めた。
「僕は元の世界で自殺することを選んだ。何より肉体も、もう残っていないからね。帰れっこ無いんだ。それに何より、僕と違って君はまだやり直せるんだよ」
ミノルには理解が出来なかった。
周りに集まっている一同にも理解は出来なかった。
ただ、サトルが真剣に親友と向き合っているということだけが伝わった。
「どういうことなんだ?帰れるって元居た世界にか?だったら一緒に帰ろう!いや、そうじゃない、この世界で一緒に生きていけばいいじゃないか!お前はこの世界が好きなんだろう?だったら一緒にここで・・・」
ミノルの熱弁はここでサトルによって遮られた。
「それはやっぱりどうしても出来ないね。親友の頼みだとしても。いや、親友だからこそ、僕と同じ過ちを犯して欲しくないんだよ。僕は、世の中を諦めてこの世界に来た。それはある種の逃げだよ。逃げることが必ずしも悪いとは言わない。でも、今の君なら逃げずに他のやり方を探すことが出来るんじゃないかな?少なくとも僕はそう思うし、そうあるべきだと思う。命のある人間はきっとどこかに居場所を見つけることが出来ると、今ならそう思うんだ。この世界に救われた僕はそう思う」
ミノルには少しずつ親友の言いたいことが分かってきた気がした。
自殺を選んだ親友はその責任を取り、この世界に来た。そして今は幸せに生活している。
これは単なる偶然だ。
死んだら楽になるなんて保障はどこにも無い。
死ぬ前に、幸せを、居場所を探す。そのチャンスを自分はまだ持っているんだ。
そうしてサトルは自分にはそのチャンスを掴んでほしいとそう願っているんだ。
そう思っていた。
「じゃあ俺は生きているのか?」
サトルの言うことからそう推測した。
そしてその疑問を率直にぶつけてみた。
「そうだよ。そして僕は君に帰って欲しいんだ。もちろん一緒に居たいよ。でもそれは逃げてるだけだ。まだ命があるんだよ。チャンスがあるんだよ。君には。元の世界で生きていく方法を探すチャンスがね」
ミノルは真剣に考えざるを得なかった。
サトルが作り上げたこの幸せな世界に暮らすことは、かつて自分がファンタジーに耽溺したことと変わらないのだと悟った。
今の自分は積極的に生きようとしている。
そして生きる場所はこの世界だけじゃない。
選択しなければならない。
そう感じていた。
そして親友が口を開く。
「どうする?今まで言ってきたようにやっぱり僕は自分自身で判断するべきだと思うよ。君自身が決めないといけない。酷いことを言っているのかもしれない。でも親友だと思っているから言っているんだ。その上で君がこの世界に耽溺していたい。死んだままでいたいと望むならその意見も尊重しよう。しかし、良く考えて欲しい。今の君は”生”について積極的に考えているんじゃないかな?今なら元居た世界でやり直せるんだよ」
選択を迫られた。
ミノルはハッキリとそう感じた。
ここで判断しなければならない。
自分の意思で、感じて、判断して、行動して、責任を取る。
それが生きるということだから。
親友にそう教わったから。
そう考えていた。
その場に居合わせた一同はミノルの言葉を待った。
彼の判断を待った。
そうして遂に彼は自分で感じ、判断し、行動し、責任を負う事を決めた。
つまり、こう言った。
「分かった。帰ろう」
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