インスタントフィクション 400文字の物語 Ⅰ

殺人劇場

　舞台上で人を殺した。殺したのは間違いなく、私自身だ。
　
　1人は男で私の彼女と不倫した、間男の役だ。私の演じる主人公が彼を殺した。毒殺だった。
　
　もう1人は間男に盗られた主人公の彼女である。盗まれたと表現したがその実、男たちを手玉に取る悪女であった。
　
　彼女は私に口をふさがれ刺されて死んだ。血の演出には鬼気迫るものがあり、色や臭い、粘り気まで本物かの様な印象を観客に与えた。
　
　演目が終わり、役者がそろって挨拶をする。この時、殺された2人は登場しない。舞台が完全に終わった後、客からは凝った演出だと褒められた。

「まさか本当に殺されたの？」
　戯れに客の女が言った時、ちょうど毒殺された間男役の演者が顔を出す。
「やぁ、どうも」
　客の女は満足して帰って行った。
　
　最後まで刺殺された女は現れない。我々劇団の謀はかりごとは成ったのだ。男たちを手玉に取った悪女は死んだ。
　舞台の幕が下りていく。あの血腥ちなまぐさい、刺殺された女の血痕だけを後に残して。