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あんにん

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21. 過去 [ 竣side ]

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  「家に帰ったら話すよ。」

  そう言って駅に向かう二人の後を追って終始無言のまま実家へと帰った

  リビングのソファに腰を下ろし二人のどちらかが話し出すのを俺はじっと待った
  数十分に及ぶ沈黙の後、ようやく父親が話し出した
  
 「あの人が、あきらさんがいなかったらお前は死んでたかもしれないんだ。」

  言われた意味が分からなかった
  なんで?どうして?
  そう困惑している俺に反して父親はゆっくり落ち着いて続きを話していく

  俺が生まれた時、俺たち家族はあそこに住んでいた
  だけど俺が7歳の時、小学校に上がり友達が出来た俺は放課後友達と遊ぶ為公園へ向かった
  ボール遊びに夢中になり道路に飛び出したのを追いかけ大型トラックが近付いていた事に気付くことなく飛び出し轢かれた
  
  警察から連絡を受け急いで病院に駆けつけた両親の前には、ベッドで眠る俺がいた
  幸いかすり傷のみで他に異常はないと医師に説明されたけど俺はなかなか目覚めなかった
  両親はそれまで毎日病院に通った
  事故から1ヶ月が経った頃、俺はようやく目を覚ました
  だけど事故に関する記憶はなくなっていた
  医師からはあの時現場を見てしまったショックによるものだろうと言われた
  だから、、、両親はこれまで過ごしたあの場所から引っ越すことに決めたそうだ

  だけど俺が轢かれる瞬間、飛び出し俺の事を庇うようにして一緒に轢かれた人が亡くなった事を知っていた両親だけは毎年この時期に帰っていた事を聞かされた
  事故の日からずらしていたのは、前に1度、お墓の前で泣き崩れていた男性を見かけたからなのだと

  言葉を失った
  自分が過去に交通事故にあっていた事も
  そしてそれを助けてくれたのがあきらさんだということも全てすぐには受け止められなかった

 「、、うそ、、そんなこと、、、、」

  すると母親が立ち上がり寝室から1冊のアルバムを持ってきた

 「竣が生まれてから小学校低学年までの写真はなかなか会えないおばあちゃん家に送ったって言ってたでしょ?」
 「、、うん。」

  家の母方の祖父母は遠方に住んでいるからなかなか会いに行くことが出来なくて、だからその代わりと言ってはなんだけど俺の写真を送っていたから手元にあまりないんだと、学校で幼少期の写真を使った授業があることを話した時に説明された

 「実はねあるの。ただ外で遊んでる写真とかだとどうしてもあそこに住んでたのが分かるのがあるから、だから竣の目には触れないよう私達の寝室に置いていたの。」

  そう言って渡されたアルバム
  受け取り中を見れば生まれたばかりの俺の写真
  初めのページは家で映っているものばかりだったが成長するにつれ、三輪車に乗っているものやお祭りでの浴衣写真等、外で撮られたものが増えていった
  それらを1枚づつ見ていけば分かってしまって

  結さんがあきらさんと過ごしていたと説明してくれた場所が背景にたくさん写りこんでいた
  
  俺は立ち上がり「ごめん。少し一人になりたい。」そう言って自室へ向かった

  アルバムを見ながら携帯で事故について調べた
  事故にあった年、場所を打ち込めばすぐに出てきて
  詳細を見る為タップすれば事細かな説明が書かれていた
  
  公園近くの通りで大型トラックによる交通事故
  小学生男児(7)1名と男性(22)1名が轢かれ男性死亡の文字

  震える手を抑え記事を読み進めていく

  話を聞くと、公園から飛び出した男児に気付いたトラック運転手が急ブレーキを踏むも間に合わなかったという
  そして、急ブレーキに気付いた近くを通りかかった大学生の男性が男の子を助けようと走り出し、男の子を庇うように抱きしめそのまま跳ね飛ばされた
  跳ね飛ばされた男性は病院に搬送された後死亡が確認された
  男の子は軽傷とのこと

  そして、記事の最後の方には男性の名前と写真が載っていた
  その名前は結さんから聞いていたあきらさんの名前と同じで、見せてくれた写真と同じものだった

 「あっ、、、そんな、、」
  
  ポタポタと落ちる涙が記事を映す画面を濡らす
  
  こんなことがあるんだろうか
  まさか好きになった人の最愛の人を奪ったのが自分だったなんてそんなこと、、、
  
  何が支えたい力になりたい笑ってて欲しいだ  
  結さんからその全てを奪ったのは自分なのに
  それなのに結さんの隣で笑っていた自分が嫌になる
  告白なんてするんじゃなかった
  あの日、結さんを終わりの見えない深い悲しみの底に突き落とした自分が何をしているんだろう

  
  翌日、腫れた目で挨拶をする俺に両親は顔を歪めた
  
 「そんな顔しないでよ。俺は教えて貰ってよかったと思ってる。」
 「でも、、、、」
 「俺さ、ここに戻ろうかな。」
 「えっ」
 「、、、俺の今住んでる家の隣の人、凄く優しくていい人なんだ。最近前より親しくなってお互いの家で過ごすこともあってさ、楽しいんだよね。」
 「しゅん?」
 「そんで実はさ!俺その人のことが好きで、、きっかけは一目惚れで一度告白して振られてんの!でもなかなか諦めきれなくて、今は友達として仲良くしてるけどいずれはその人も好きになってくれたらな~なんて思ってた。」

 「でも昨日の話聞いたらダメだって、、、俺じゃダメだって、、、」

 「その人、結さんって言うんだけどね、、事故で、、、番を亡くしてたんだ、、、その番の人がね、、昨日聞いた俺を助けてくれたあきらさんなんだよ、、、」

  そこまで言えば溢れ出す涙
  昨日あんなに泣いたのだからもう出ないと思っていた涙はとめどなく溢れ出す
  
  母親は何も言わずに俺を抱きしめた
  父親は唇を噛み締めながら俯いた
  
  それからはお互い何も言えず、翌日仕事がある俺は家を出た
  電車に揺られながら考えるも頭の中はぐちゃぐちゃで...
  そんな時に届いたメッセージの通知
 
  [今日戻ってくるんだよな?何時頃になりそう?よかったら夕飯一緒に食べたいなって思って、、、、]

  結さんからのそのメッセージに視界がぼやける
  何も知らなかった数日前の俺なら喜んだだろう
  だけど今は素直に喜べなくて、、、

 「ごめんなさい、、、。」

  俺は返事をする事が出来ずに携帯の電源を落とした


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