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あんにん

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 「じゃあまたな。来年も来るだろ?」
 「あぁ、行くよ。またな」

  翌日、一緒に昼食をとったあとに優希は帰って行った
  駅まで見送った帰り道、少しだけ道を外れて竣くんの働いている美容室の前を通る
  お店には何名かのお客さんがいて接客している竣くんの姿が見えた
  あの人懐っこい笑顔で話しながら動く手先
  自分も切ってもらうようになってから何度か目にしているはずなのに、改めて見るその姿に何だかドキドキして俺は足早に通り過ぎた

  その後も変わらず竣くんとは仲良くしていたけど、優希の言葉がずっと頭にあった俺は勝手に気まづさを感じていた

  竣くんの事は好きだ
  心許せる人であり、何かあれば力になりたいと思うし頼って欲しい
  これからも一緒に過ごしていきたいと思ってる
  だけどそれが恋愛としてなのか分からない
  彼が俺を好きと言った気持ちと同じ好きなのか分からない

  今年も竣くんの方から「どうしますか?」と訊ねられた
  彼と冬を過ごすのは今年でもう4度目
  
 「自分の気持ち、ちゃんと整理しなきゃな....」



 「結さーん!時間やばそうです、、、」
 「まじか、、」

  弁当を買ったはいいもののレジが混んでいて思いがけず時間ギリギリになってしまい、駆け足でホームへと向かう
  
 「良かった」

  何とか乗り込み席につき一息つけば竣くんがホッとした顔で呟いた

 「ほんと間に合ってよかった。」
 「久しぶりにこんなに走りました。」
 「俺もだよ、、、それに竣くんに比べたら俺はもうおじさんだからね、つらい。」

  なんて自嘲気味に言えば「結さんはおじさんなんかじゃないですよ!全然そうは見えません!」なんて勢いよく言われてしまい思わず面食らってしまった

 「竣くん、ちょっと落ち着いて、、、」
 「あっ、すいません。」
 「大丈夫だよ、勢いには驚いたけどね」
 「ほんと、すいません」
 「でもそっか、竣くんにはまだ少しだけ若く見えるのかな。ちょっと嬉しい」
 「結さんは見た目もそうですけど、ノリもいいですし一緒に居て楽しくて、全然おじさんなんて、、俺は一度も思ったことないです。」
 「ふふっ、そっかそっかありがとね。」

  笑いながらそう言えば、「いえそんな....」と言いながら顔を背けた
  少しだけ見えたその顔はほんのり赤くなっていて、思わず "可愛いな" そう思った

  ホテルに着き荷物を置けば、毎年恒例となった思い出の地を巡る
  俺の横に並んで楽しそうに歩く姿に思わず笑みが溢れる
  気になるお店や物があれば全て声に出して呟く彼を見るのが楽しくて眺めていれば、静かな俺を不思議に思ったのか、それとも視線に気付いたからなのか、「どうしたんですか?」そう言いながら俺に視線を合わせ問いかけてきた

 「んー?どうもしないよ」
 「でも、、、さっきから凄い視線を感じます。」
 「楽しそうに歩く竣くんが可愛くてね」
 「えっ、、なに言って、!!」
 「顔が赤いよ竣くん」
 「結さんが変な事言うからじゃないですか!」
 「変な事じゃないよ、思ったから言っただけで」
 「なっ!だから!それが、、、」
 「楽しいね、、」
 「まぁはい、、それは、、そうです。」
 「ふふっ、そろそろ戻ろっか。」
 「はい。」

  何だか少し納得のいっていない顔をした竣くんとホテルに戻った後はそれぞれ自由に過ごし、翌日俺は1人であの場所へと向かった

  近況報告だったはずが気が付けば竣くんの事を話している自分に気付く
  少しづつ大きくなってきているこの気持ち
  15も歳が離れた俺がこのままこの気持ちを育てて彼に伝えてもいいのか
  アルファの男とオメガの男
  この世界では一緒になる事になんら不思議は無い
  誰もがきっと祝福してくれるだろう
  でも15の歳の差、それが加わればどうなるだろう
  もう40となった俺では子は望めない
  それは20代の彼に酷ではないだろうか
  やっぱり同年代の方が、、、
  うじうじと心の中で考えていれば風が吹き、供えた花の香りがした
  顔を上げれば再び吹く風に花の香り
  都合のいい考えだと思う
  でも、何だかあきらが背を押してくれた気がして、、、

  "とりあえず、向こうに戻ったら今の自分の正直な気持ちを彼に伝えよう"
 
  そう決意しホテルへ戻った

  翌日、駅まで見送りに来てくれた優希と挨拶をして乗り換え駅へと向かう
  そのまま、一緒に帰ると思っていた竣くんは「休みがあと数日取れたので、久しぶりに俺も帰省しようと思って...」そう言われた

 「そっか、言われてみれば竣くんが帰省してるの一度も見てないかも、、、」
 「はい、なんで親からも少しは帰ってきてもいいんじゃないかって言われてて、、、サプライズで帰ってみようかなって。」
 「いいね。喜ぶと思うよ。」
 「はい。じゃあ俺は向こうなんで、、、お土産買ってきますね!」
 「楽しみにしてる。後さ、その、、、戻ってきたら話があるんだ。」
 「?、、分かりました。じゃあまた帰った時に。」
 「うん、気をつけて」
 「結さんもお気を付けて」

  そう言って別れた次の日からだった
  彼と連絡が取れなくなったのは


  
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