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あんにん

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6. 一目惚れ [ 竣side ]

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  専門学校を卒業し、4月からの新生活に向けて一人暮らしを始めた

  なりたかった美容師の仕事は大変だったけど、先輩の担当したお客さんが皆嬉しそうにお店を後にする姿に俺も早くそうなりたいなんて思ったりして
  施術を近くで見させてもらいながら勉強する毎日はやりがいで溢れていた
  仕事だけを見れば充実していると思う


  自宅のあるマンションに近付けば無意識に探してしまう自分に嫌気がさす
  
 「はっきりと振られたくせに何してんだろうな....」

  引っ越した日に俺は一目惚れをした


  荷物を全て運び終えた時にはお昼を過ぎていた
  
  "早めがいいかな..." そう思い用意していた菓子折を持ってお隣のインターホンを押すが反応がなくて、、、
  1、2分ほどしても反応がなかったから改めようと部屋に戻り荷解きに取り掛かった

  時間も忘れて夢中でやっていれば微かに足音が聞こえ慌てて箱を持ち飛び出し声をかけた

  俺の突然の登場に鍵を開けながら驚いた表情を見せたお隣さんに慌てて謝罪をする

  渡した菓子折りをお礼と共に受け取って貰え安堵しながら自己紹介をすればお隣さんもしてくれて、「よろしくね。」なんて言って貰えたのが嬉しかったから思わず気持ちが高鳴ってしまってつい大きめの声を出してしまった

  そんな俺にやんわりと注意をした後に花白さんはクスッと笑ったんだ
  その笑顔に思わず惹かれてしまった
  もう少し話したいな、そう思ったけど「バイトで疲れてしまったから、、」その言葉に言いかけた言葉を飲み込んで別の言葉を口にする

  もう一度お礼の言葉を言いながら笑顔を見せた花白さんに俺の胸は音を立てた

  部屋に戻った時には、自分が最後になんて言って別れたのか記憶になかった
  残っているのは彼の、花白さんの笑顔だけで、、、

  仲良くなりたいな、何歳なんだろう、恋人は居るのかな

  そんな事ばかりが浮かんでは消えてを繰り返していた

  そんな日から数日後、買い物にでも行こうかと家を出たタイミングで隣の扉も開かれた
  嬉しくてつい勢いよく挨拶をしてしまった
  だけど花白さんは、嫌な顔をすること無く返してくれたから問いかけた

  スーパーへ行くという花白さんに、一緒に行きたいと白々しい理由までつけてお願いすれば了承してくれて
  ずうずうしいと思われたかもしれない、でも少しでも近づきたかった

  スーパーに着けば何かないかと探し回り一つの商品が目に止まる
  それを持ち姿を見つければ、名前を呼びながら近付く
  お昼一緒に食べれたら、そう思いながら話しかけるけどこれは見事に断られてしまった、、、
  
  でも一緒にスーパーへ行く事を許してもらった俺は調子に乗ってしまったんだ
  何かと理由をつけては誘い続けた
  断られても、次はもしかしたら!なんて考えて花白さんの気持ちを何も考えていなかった

  その日はマンション前でたまたま帰宅のタイミングが被った嬉しさでそのまま夕飯をお誘いした
  
  いつも通り断られるかな....そう思っていた俺の耳に届いたのは「君もしつこいな。いつも断っているんだからいい加減気付いてくれないか?俺は君と隣人以上の付き合いをする気はないんだ。」だった

  冷たい口調でそう話す花白さんの顔を見れば酷く疲れた顔をしていて、、、

  "やってしまった..." 

  どうしてもっと早く気付かなかったのだろう
  自分の今までの行動がどれだけ自分勝手だったのか
  気付いた時にはもう遅くて

  何も言えずにいる俺に、変わらず冷たい口調で "距離感を考えて" なんて言われて
  花白さんが去った後もしばらく俺は動けずにいた

  あれからは嫌われただろう、と会えても最低限の挨拶を交わすだけで精一杯だった
  "諦めなきゃ...." そう思うけど姿を見てしまえば想いは募ってしまって
  だから何とか会わないよう気を付けた
  
  
  仕事終わりに先輩にレッスンをつけてもらった日、いつもより帰るのが遅くなってしまった
  駅からの道を歩いていればお店の前で話している男性2人の姿が目に付いた
  その2人がすぐに揉めはじめ、俺は絡まれないよう視線を逸らし歩いていく
  だけど、どこか聞き覚えのある声が聞こえて
  もう一度視線を向ければ手を掴まれ必死に拒んでいる花白さんの姿が見えた
  その瞬間勝手に足が動いていた

  睨みながら男の腕を掴むが男は花白さんの手を離すことはしなくて
  だから掴む力をさらに強めれば「いてぇよ」そう言いながら振り払うようにして腕を動かした
  その反動で花白さんの手が離れたのが見えてホッと息を吐いた
  だけどその手首には跡がくっきりと残っていて怒りが増す

  いつまでも離さずにいる俺に怒りを露わにする男をさらに睨みながら圧をかけた瞬間、目の前のお店の扉が開き一人の男性が出てきた

  言葉を口にしたがすぐに俺の後ろへ慌てて行くからその後を追えば、フラつき支えられるようにして立つ花白さんの姿が見えた
  
  男性が花白さんと小声で話した後に発した "警察" という単語に絡んでいた男が慌てて立ち去ったのが分かったが俺は動けずにいた

  助けるつもりだったのに怖がらせてしまった
  どうして俺はこうなのだろう

  そう思っていればお礼を伝える声が聞こえて
  顔を向ければまだ少しフラついている花白さんの姿が見えた

  "距離感...." 少し考えたけれどその状態で一人で帰るのは危ないと思って、俺は一緒に帰ることを提案した

  その提案は断られる事無く受け入れて貰えた

  それに喜ぶ自分に気付かないふりをして家路を歩く
  無言の時間が続き、遂に部屋の前まで来た時 俺は最後の手段に出てしまった

  部屋に入る花白さんを後ろから抱きしめ言葉をかけた
  諦めよう、そう思ったけど無理だった事
  今でも変わらず好きな事、恋人になりたい事
  自分の思い全てをぶつけた

  だけど返ってきたのは「ごめんね。」の言葉だった
  
  そのまま自分の部屋へ帰る気にはなれなくて
  俺は姿を隠すように夜の暗闇へ繰り出した

  誰もいない道を歩いていれば溢れ出る涙
  
  俺の恋は終わったのだ

  
  どれだけ歩き回っていたのだろう
  暗かった街並みは薄明るくなっていて、、、
  俺は家へ続く道へ足を戻した
  
  "今日休みでよかったな..." そんな事を思いながら部屋までもう少しの所で隣の扉が開いた

  "ドクン" と大きく跳ねた心臓を必死に抑えて挨拶をすればぎこちなく返される挨拶
  すると花白さんの目線が俺の顔にあるのに気付いて慌てて背け部屋へ急いだ

  
  あれから1ヶ月
  ぎこちない挨拶を交わす日々が続いていたある日、エレベーターで一緒になった花白さんは何だか顔色が悪い気がした
  その理由はエレベーター内で2人きりになった時に気付いた
  甘い香りが鼻をくすぐったのだ

  "ヒートが近い...?" そう思ったけど、振った相手からそんな事を言われるのは嫌だろうか、、、引き止めたもののそう思ったら言えなかった

  仕事中も気になりながら何とか終わらせ帰っていれば目の前で座り込んでいる人に気付いた

  慌てて近寄ればヒートを起こしている花白さんで

  "あぁやっぱり、、朝迷わず言えばよかった。" 後悔しながらも声をかけ、全然力の入らない体を支えながら家へ送る

  鍵を開けられずにいるのを手伝い声をかけ部屋に入りベッドへ寝かせ何か出来る言はないかと思い問いかけた

  だけど苦しみながらも「もう大丈夫だから」そう言う姿に "俺じゃやっぱりダメなのか...." そう思って痛む胸

  最後に一言声をかけて玄関へ向かえば飾ってある1枚の写真が目についた
  笑顔で写る男性の隣で寄り添うように微笑む花白さんが写ったその写真に俺は全てを察してしまった

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