宇宙戦鬼バキュラビビーの情愛

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バキュラビビーの葛藤

星空の下のディスコード(下)

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その時、俺の腕が強い力で引っぱられた。

「佐山さん、暴力は絶対に振るわないって、約束したっすよね?」

いつの間にか、俺の横に茶髪の若い男が立っていた。

見覚えのある顔。
こいつは確か、美郷の幼なじみの……

「にしはら君……。なんでここにいる?」
「ニシハラじゃないっす。サイバラっす。そっちこそ何やってんすか?」

西原諒介。

美郷とは幼稚園の頃からの付き合いだと聞いている。

美郷と同い歳だから30歳のはずだが、童顔なのと、若者みたいなファッションをしてるせいで、実年齢よりもかなり若く見える。

なぜコイツがここに?

「……美郷には何にもしねえから、手を離せ」

睨みながら俺は言う。
ヒョロっとしているようにみえて、実はこいつは力が強い。
本気で引っ張られると正直痛い。

「ホントっすね?」

サイバラは俺の動きを慎重に見張りながら手を離した。

「ちーちゃんから、この公園に来てくれって連絡があったんすよ」

「美郷から?」

サイバラはスマホの画面を見せてくる。SMSのメッセージに、

『佐山くんと言い争いになるかもしれない。綿久公園の展望台に来て』

と、書かれているのが見えた。

すべて見越した上での行動か。

今の美郷にそんな知恵が回るとは思わなかった。
誰かの入れ知恵のような気がする。

「けどさ、ちーちゃん。今のはちーちゃんも悪いんじゃないか? なんか隠してるだろ。素直に話したほうがいいぜ」

サイバラは美郷のほうに向き直って追及を始めた。
あくまで中立のスタンスらしい。

「隠してるとかじゃないけど……」

美郷は困惑したような顔になる。

「そうね。あなたがいうような男とは違うけど、郡山くんのこと、話しとこうか」

開きなおった顔をして、美郷は郡山という男の話を始めた。

郡山も宇宙戦争の記憶を持っており、彼のほうから美郷に接触してきたのだという。

「は? 宇宙戦争?」

サイバラが間の抜けた声を出した。
こいつは何も聞かされてないらしい。

「世の中にはそう思い込んでる奴らがいるんだよ」
「は~。なんか可愛そうっすね」

目の前の女もそうだけどな。

しかし、美郷以外にもそんな人間がいたとは。
なんかうさんくさい。

「そいつ、本当にお前と一緒なのか?」
「たぶんね。ドルトイスの名前も知ってたし」

なるほど。
一応、美郷と同じ世界観のようだ。

「だから私、彼とチームを組んで戦うことにしたの?」

「「は?」」

サイバラと俺の声がハモった。
何を言い出したんだこいつは?

「これを見て」

美郷はスマホの画面を見せつけてくる。
一番上に「Starship Bondage」とあり、その下に名前と数字がずらずらと並んでいる。
ランキングのようだ。

「ゲーム……か?」

「そう。ゲーム。でも私にとっては大事な戦場。私と郡山くんはこの戦場で同じ仲間として戦ってる。実を言うと、彼は宇宙で僚機だったザンストマーンなんじゃないかと思ってるの。彼と一緒にこの宇宙を飛び回りたいって思ってる」

美郷は調子良く喋り出した。
なんだ? ザンストマーンて。

「今度、家でも戦えるようにネットを引いてもらうの。だから、今度からジョーに迷惑かけなくてもすむよ」

一方的に喋る美郷。
なんかムカつく。

「……わかったわかった。いいから一度そいつに会わせろ」
「うん。そうする。じゃ、また連絡するね」

それだけ言うと、美郷は踵を返した。

「自分の家に帰るのか?」
「うん。これからもあんまりジョーの家には行かないと思う。ネットが来たら必要ないし」

自分は用済みだ。と、言われたような気がした。

せいせいするはずなのに、ひどく寂しかった。

こちらを振り返ることもなく、美郷は展望台から去っていく。

「……佐山さん」

取り残されていたサイバラが声をかけてきた。

「これって、アレっすかね?」
「どれだよ?」
「ちーちゃん、遅れてきた厨二病ってやつですかね」
「なんだチュー二病って?」
「わかんないならいいっす」

あきれたようにサイバラがため息をついた。

「それにしても」

サイバラが続ける。

「この調子だと、ちーちゃん、コーリヤマとか言う人にとられるんじゃないっすか?」
「うるさい」
「俺はどっちでもいいんすけどね、ちーちゃんが幸せなら。でも」

サイバラは美郷が去っていった方を見つめながら言った。

「今のちーちゃんはなんかおかしい。ちょ~っとほっとけないっすね」
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