宇宙戦鬼バキュラビビーの情愛

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バキュラビビーの葛藤

宇宙戦闘機の絆

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「Starship Bondage」

5チームに分かれて戦うフライトシム型バトルロイヤルゲームだ。
まるで本当に戦闘機に乗っているようなシートと、複数チームによる集団戦がこのゲームの特徴だ。
筐体が大きすぎるので、当然ながらアミューズメントセンター専用となっている。

見た目は宇宙空間を舞台にしたフライトシムだが、ロールごとの能力差が際立っており、各個の戦闘よりも全体のユニット配置が勝敗のカギを握る。

バトルロイヤルの皮をかぶった戦略シミュレーション。
それが「Starship Bondage」だ。

ロールとは何か?
日本語に訳せば「役割」だ。

茅野宮美郷に割り当てた「アサルト」のロールであれば、本当に戦闘するための能力しか持たない。
ドンパチしたい人間にはうってつけだ。

一方で「コマンダー」のロールを割り当てれば、戦闘力は申し訳程度のみで、索敵と通信の能力が充実している。

私は「コマンダー」専門。他のロールなどやる気も起こらない。

「右手に敵機10体。「スカウト」と思われます。適当に散らしてください」

「散らす? 何を言っている郡山重文。敵は殲滅に決まっているだろう」

コマンダーである私の指示に対して、アサルトの茅野宮美郷が血気盛んに言い返す。
思った以上のウォーモンガーだ。

「できるなら構いません。やってください」

(できるなら、ですが)

いくら宇宙を駆け巡った戦闘プログラムとは言え、はじめてのインターフェイスでは思うように動けるはずもない。

(まあ、CPUを2体落とせれば上出来でしょうか)

あとは彼女のに任せるとして、私は他のチームメンバーに指示を送る。

主戦場となる宙域を見極め、それを見越して「スカウト」たちに指示を飛ばす。

(コマンダーは忙しいんですよ)

ひととおりの指示を出し終わり、茅野宮美郷のほうにモニターを向けると、戦闘はすでに終了していた。

「……おどろきましたね」

残っているのは彼女だけ。
つまり敵機は全て殲滅済みだった。
はじめてのプレイにもかかわらず、言った通りの活躍を見せたことになる。

『武装の挙動が想定外だったので苦戦した。情報は更新済だ。次戦では問題ない』

「あ。はい……」

惚れ直した。
が、見惚れている場合ではない。
私のコンソールにアラートが上がっている。

「こちらの「スカウト」が敵グループAの基地を発見したようです。正面の方向、そのまま真っ直ぐに進んでください」

『了解した』

茅野宮機はそう言ってまっすぐに敵機基地に突っ込んだ。
そしてほどなく制圧完了してしまう。

「戦うために生まれてきた、と言うだけはありますねえ……」

戦況を確認してみると、すでに敵はグループDだけになっていた。
グループBとCはお互いに潰しあってくれたようだ。
手間が省けて何よりである。

グループDの基地を探ろうとしたとき、
敵接近を知らせるアラームが鳴った。

「「ジェネラル」直々に突撃してきましたか」

ジェネラルはこの宙域のオーナーにのみ許されたロールで、
「コマンダー」と「スイーパー」のロールを合わせた特徴を持っている。
他のロールに比べて高い耐久力と制圧力を誇る代わりに、撃墜されればそのチームは即敗北となる。

「ジェネラルの相手は1人では無理です。引いてください」

ジェネラルには複数ユニットを布陣して撃墜にあたるのがセオリーだ。
私は茅野宮美里にいったん下がるように指示したが、

『問題ない』

そう言い残して彼女は「ジェネラル」に突撃していった。

『話を聞け! この戦闘狂!!!!』

叫び声をあげつつ、チーム内の全ユニットに彼女を支援するように指示を送った。
そしてふと、

(叫び声をあげるなんて、何年振りでしょうね)

と、思った。





「……おめでとうございます。私たちの完勝です」

彼女の座るカプセルの扉を開けた。
画面を見つめる彼女の顔が、上気していて色っぽい。

「……なるほどな。最初は何事かと思ったが、訓練用の模擬戦プログラムか」
「ま、そんなもんですね。少しは気分が晴れましたか」
「ああ。なんだか、ものすごくスッキリしている。不思議だな」
「ここに来ればワンプレイ200円で戦えるので、時間を持て余したら来てください。時間が合えば私も付き合いますよ」
「そうか。ありがとう」

茅野宮美郷が笑った。
今までに見た彼女のどんな顔より美しかった。

「そうだ。あなたの情報を登録しておきましょう。戦績が記録されますよ。ある程度実績を残せば昇進などもあります」
「昇進? 昇進すれば自己進化もできるのか?」
「進化というか、昇進すれば新しい能力を使えるようになりますね」
「了解した。登録しよう」

彼女はコンソールを操作して登録項目を埋めていく。
アカウント名は「バキュラビビー」だった。

「あと、面倒ですがホームを作ることもできます。やりますか?」
「なんだそれは?」
「自分の基地となる宙域を設定できるんです。自由に名前をつけることもできますよ」
「基地……名前……」

少し考えた末に。

「……つくろう。私のホームを」

と、彼女は言った。

そのまま登録作業を進め、ホームに「ゲトラスカ」と命名した。

「……その名前でいいんですか?」
「ああ。私のホームといえば、ここしかない」

登録が終わると、「GAME OVER」とモニターに表示された。

画面が暗転したことを見届けて、ようやく茅野宮美郷はカプセルから出てきた。
どことなく、悲しそうな顔をしているように感じる。

「……すまない、郡山重文。このあと時間はあるか?」
「大丈夫ですけど?」

彼女は私を正面から見つめてこう言った。

「少し、君と話がしたいんだ」

すがるような目でそんなことを言われては、私に断れるはずがなかった。
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