ガミジ童話

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アリアドネの結婚

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昔、ギリシャという国のクレタという島に、ミノスという王様がいました。
王様には娘がいて、名前をアリアドネといいました。
アリアドネは、いつも金でできた王冠を身に着けて得意そうにしていました。
服や宝石で着飾るのが大好きで、
「いつか外国の王子様と結婚するんだ」
と、夢見ていました。

アリアドネにはアステリオスという弟がいました。
なんとアステリオスは頭が牛で、人間を食べるのが大好きな怪物でした。
みんな彼のことを「ミノタウロス」と呼んで恐れていました。
そこでミノス王は、
「ほおっておくこともできないが、殺すのもかわいそうだ」
と思い、大工のダイダロスにとても大きな迷宮を作らせて、その中にアステリオスを閉じ込めていました。

あるときアステリオスが、
「もっと人間が食べたい! もっと人間を連れてこい!」
と言って暴れだしました。

困ったミノス王はさっそく家来たちに外国から人間を捕まえてくるように命令しました。
そこで家来たちは船に乗ってアテネという国から若い男たちをたくさん捕まえてきたのでした。
その中にはアテネの国の王子、テセウスもいたのです。

海岸で散歩をしていたアリアドネは、家来たちに捕まった男たちを見かけました。
その中にいるテセウス王子を見つけると、
「まあ、なんて素敵な王子さま」
と、ひときわ精悍でハンサムなテセウス王子のことが好きになってしまいました。
そこで、アリアドネはテセウス王子に駆け寄ると、
「王子様、王子様。あなたをここから逃がすことができたら私と結婚してくれませんか?」
と、たずねました。

「ここから助けてくれるのかい? それならもちろん君と結婚するよ!」
テセウス王子ははっきりと答えました。しかし、
「いけません、アリアドネ様。こいつらはアステリオス様のエサになるのですから」
家来たちはそう言って、アリアドネを引き離すと、そのままテセウス王子を牢屋へと連れて行ってしまいました。
このままでは、日が沈むころに迷宮の中に放り込まれて、アステリオスに食べられてしまうでしょう。
「待っててね。きっと助けて見せるからね」

アリアドネは大工のダイダロスのところに相談に行きました。
迷宮を作ったダイダロスなら、迷宮から逃げ出す方法も知っているはずだと思ったのです。
「王子様を、迷宮から助けるにはどうしたらいいの!?」
そう尋ねるアリアドネに、ダイダロスは困りながらも答えました。
「その王子様に、この毛糸玉を持たせなさい。入り口に毛糸のはしっこを結び付けて、少しづつ毛糸をほどきながら進ませるんだ。帰るときは毛糸をたどって入り口まで戻るといい」
これを聞いてアリアドネはよろこびました。

アリアドネは急いでテセウス王子のいる牢屋に行くと、ダイダロスから聞いたことを伝えて毛糸玉を渡しました。
「それから、これも持って行って」
アリアドネは、こっそりナイフを渡しました。
「もしもミノタウロスに食べられそうになったら、これを使って」
アリアドネは、アステリオスとテセウス王子が出会わないことを祈りました。
そんなアリアドネの気持ちも知らず、テセウス王子はにっこり微笑むと、
「僕はきっと帰ってくるよ! そして君と結婚しよう!」
と言うのでした。

その夜、テセウス王子はミノス王の家来によって迷宮に連れていかれました。
アリアドネは、夜が明けるまで、テセウス王子の無事を祈りました。
そして夜が明けるころ、家来たちの声が聞こえました。
「アステリオス様がやられたぞ! テセウス王子が逃げたぞ!」
アリアドネは喜びました。テセウス王子は約束通り、迷宮から帰ってきたのです。

アリアドネは、走り回る家来を捕まえると聞きました。
「テセウス王子はどこ?」
「奴は港の船を奪って、島から逃げだすつもりです」
悔しそうに家来は答えました。
「ええ? 私を置いて行ってしまうの? 彼は私と結婚するはずなのに!」
アリアドネは急いで港に向かいました。
港に着くと、テセウスの乗った船が、今にも岸を離れようとしていました。
「王子様、私も一緒に連れて行って! 私たち結婚するんでしょ」
アリアドネも港の船に飛び乗ると、テセウス王子に縋りつきました。
しかし、
「手を離してくれ。牛の化け物の姉なんかと、結婚したくないんだ」
とても怖い声でテセウス王子が言いました。
そしてアリアドネの腕をふりほどくと、アリアドネを海の中へとつきとばしたのです。
ドボンと海の中へ落ちたアリアドネは、荒波にさらわれて、海の中へ沈んでいきました。
身につけていた宝石も王冠も、波に流されて、
テセウス王子から結婚したくないと言われ、
悲しくて悲しくて、もう泳ぐ力もありませんでした。

アリアドネが目を覚ますと、木陰に寝ていることに気が付きました。
周りを見回すと、背の高い男が動物たちと一緒にお酒を飲みながら歌っているのが見えました。
「気が付いたかい。私はバッカス。ここはナクソスの島だよ」
目を覚ましたアリアドネに気が付くと、男はそう言って自己紹介しました。
「悲しいことがあったみたいだね。好きなだけ、ここで休んでいくといい」
バッカスは優しい声でそういうと、また動物たちとお酒を飲みながら歌いだしました。

バッカスはちっともカッコよくありません。強そうでもありません。
だけど、いつも優しくて、いつも楽しそうでした。
そして、アリアドネが悲しそうな顔をするたびに、そばで歌を歌ってくれました。
そんなバッカスの姿を見て、アリアドネは少しずつ元気になっていきました。
そしていつしか、アリアドネはバッカスの横にいることが好きになっていました。

あるときアリアドネは、恥ずかしそうにバッカスに言いました。
「私と結婚してくださいませんか?」
そしてバッカスは、アリアドネにブドウの樹の枝で編んだ冠をかぶせると、
「よろこんで」
と答えたのでした。


春になると、北の空に見える冠座は、アリアドネの冠が空に昇ったものだと言われています。
それはアリアドネの本当の愛の印なのかもしれません。
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