鬼教師後藤のメガトンパンチ

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その3

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 作戦は電撃的に進行した。その日、帰りの会が終わったあと、後藤がさっさと教室を出て行ったのを見届けると、僕はとなりの席の女子に『後藤が何もしていないニムラくんを殴ったらしい』というフレーズを伝えた。それでもう十分だった。このフレーズは、あっというまにクラス中に駆け巡った。なにしろあのニムラくんだ。成績優秀なニムラくんだ。品行方正なニムラくんだ。容姿端麗(?)なニムラくんだ。そんなニムラくんを理由なく殴ったという事実は、溜まりに溜まっていたクラスメイトたちの不満を爆発させるに十分な起爆剤だったのだ。そして特に激しかったのは……
「女子って怒らすと怖いよな」
「僕、あんな奴らと結婚したくないなぁ」
「受験して男子校目指そうかな……」
 そう、特に激しかったのは女子の怒りだった。正直ちょっと引いた。
 後藤はどうやらアホらしく、女子にもゲンコツを振るっていたようなのだ。まあ、確かに今までも女子にゲンコツしてるところを見たことはあったけどさ、まさか、本気で殴ってるとか思わないよね? でも、そのまさかだったらしい。
 そして、女子の怒りをさらに燃え上がらせることになったのは、やはりニムラくんの存在だ。彼は女子人気がそれなりに(あくまでもそれなりに!)あるらしく、
「私はいいけど、ニムラくんがそんな理不尽な目に会うのは許せない!」
 と、ばかりに闘志をみなぎらせる女子が続出していた。
 次の日の朝、一日経っても冷めやらず、教室中に後藤への不満が渦巻いていた。そんな中、始業のチャイムが鳴り、教室の戸が開いた。そこには後藤先生がいた。鬼教師の後藤。だがその横暴も、もうすぐ終わる。
「先生」
 後藤が教壇につくなり、女子学級委員長の峰岸が、立ち上がって言った。
「どうした」
「先生が『何もしていないニムラくんを殴った』というのは本当ですか?」
「なんの話だ?」
「答えてください」
「本当だ」
  その瞬間、女子は全員、カバンを抱えて教室を出て行ってしまった。ついでに便乗して出て行く男子もちらほらといる。まあ、僕もそのうちの一人なんだけどね。
 ともあれ、こうして6年2組は晴れて学級崩壊となった。学校って意外と脆いものなんだな、と妙な感傷に浸りながら、僕は崩壊した教室を後にした。
 さてさて、僕らボイコット組は、校庭でいったん立ち止まって、少しだけ今後のことを話した。その結果、僕は『後藤暴力被害者の会』の会長に就任することはなく、峰岸が会長に就任することになった。まあいいけど。あとは、後藤が学校を辞めるまで授業に出ないという方針だけ決めて解散した。
 当初の僕らの計画では、頃合を見計らって、親を巻き込むように皆をそそのかすつもりだったのだけど、もうそんな必要はなかった。女性陣が率先して後藤の悪行を親にぶちまけていった。おかげで、火が燃え広がるのが速い速い。その次の日には、クラスメイトの親が職員室に押し寄せていた。
 職員室や校長室でどんな話が繰り広げられたのか、僕は正確に知ることはできなかったけど、僕らの狙い通り、後藤はそうとうに吊るし上げられたらしい。あのゲンコツしか取り柄のない鬼教師に、PTAの母親連中に勝てるような話術はないだろうから、さぞかし素敵な集中砲火を受けたことだろう。もう、この想像だけで、ご飯3杯いけそうだった。けど、最終目標はまだ先だ。さあさあ、仕上げに入るとしよう。
「僕らも、親と一緒に校長のところに行って、直談判すべきだよ。後藤はクビにするべきだって」
 その日の夜、僕は峰岸に電話していた。
「ここで、僕ら生徒たちの意見をしっかり伝えれば、後藤はクビ間違いなしだよ」
「そうかもね。いつまでもボイコットしてるわけにもいかないし、早めにケリはつけたいもんね。お母さんにも相談してみる。あ、でも、直談判することになったら、そのときは竹内君も一緒に来てよ」
「え、僕も? なんで?」
 ドキッとする。もしかして、僕に気があるとか? 峰岸なら、ちょっと地味だけど、そこがまた清楚っぽくてぜんぜんありだなぁ。あんな奴らと結婚したくないなんて言ってごめんなさい。あれは嘘です。
「私、みんなから推薦されて被害者の会の会長になったけどさ、先生にゲンコツされたこと一回しかないんだよね」
「ん? うん」
「竹内くんならさ、被害者として校長にいっぱい意見を伝えられると思うんだ。だって、あんなにたくさん先生から叩かれてたんだもん」
「……うん、そうだね」
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