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駆引
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しおりを挟む「へぇ。驚きだな。随分とあっさり出てくるもんだ」
「尻尾を出しているとは言え、確実な証拠がなければ認めると思っていなかったのですが。どういう風の吹き回しです」
「ふふ。普段なら、そうするんだけどね。証拠がなければただの言いがかりだし」
するりと忍び込んできた聖月。椅子に尊大に腰かけた高宮が、一瞬で動揺をかき消し頬杖をついてシニカルに笑う。すっとその背後に立った嵯峨野が張り詰めた声で問いただす。クスクスと軽く笑った聖月は、軽い足取りでベットに近づくとふわっと座った。
「今回君たちをここに招いたのは、予定があったから。気付いていると思うけど」
「罠を仕掛けているだろう事には思い至っていましたよ。その内容に検討がつかなかったのが痛かったですがね」
「うーん。それは残念。じゃあ、早速本題に入ろうか」
君たち、何処まで行っても横やりが入るからと何処か哀れみの目で見られて、高宮と嵯峨野が半眼になる。色々と言いたいことは山ほどあるが、ここで邪魔される方がマズいのは確かなのでぐっと抑える。後で竜崎にしわ寄せが行くのだろうが。
「今回の目的は、ゲームに関わる事というより、我々に用があったという事ですか」
「正解。察しが良いね。取引がしたい」
探りを入れようとした瞬間に、思いがけない申し入れ。その言葉に動揺した瞬間に嵯峨野はほぞをかんだ。先に相手の目的を呼んで主導権を握ろうとしたが、失敗した。一瞬の動揺を見逃す聖月ではない。しかし、すかさず黙っていた高宮が割り込む。
「内容は」
「二つ。一つは、ゲームの着地点操作に協力してほしいという事」
さしもの高宮も眉を顰める。聖月が淡々と言葉を連ねる。
「分かっていると思うけど、このゲームは俺にとって不利。はっきりいって負け戦になることは最初から見えていた」
「だろうな。何か勝算があるのかと思いきや、足掻けば足掻くほど足取りを残す状況でどう見てもひっくり返らない。しかも、竜崎も凛も裏があると確信している」
「流石」
チラリと背後の腹心に視線を投げる。例の夜の事もあり、そこまでは話が進んでいるだろうと想定していた聖月に驚きはない。
「だからこそ、着地点だけは操作したいというのは分からないでもない。だが、それに俺が協力する理由は」
「さっき龍たちから情報がきたって言ったよね。俺の名前について。しみずみづき。聖なる月で聖月《みづき》。聖は其処からとった」
いきなりの話題転換に、怪訝そうな顔をする高宮達。ふわり、と聖月は困ったような、迷子になったかのような笑みを浮かべて呟いた。
「そして、真水とかいて真水」
その瞬間、高宮が血相をかえて立ち上がった。大きな音を立てて椅子が倒れる。その背後の嵯峨野も信じられない物を見る目をしている。ひょいっと手を上げた聖月がカラカラと笑った。
「やっぱり知ってたか。高宮だけあって、敵の事はよく知ってた?」
「お前……っ!」
「想像の通りだよ。そして、これを聞いたら、君は協力してくれると踏んだ。チームを越えた仲間を守る為に。利害を超えたところで」
ふっと笑みを消した聖月が真剣な顔で高宮を見つめる。高宮は険しい顔を崩さない。
「だから、仲間として頼みたい。君にゲームを操作して欲しいんだ」
「試合に負けて、勝負に勝つのが目的か」
「そういう事」
利害の一致ではなく、利益の一致。そう言って聖月は微笑んだ。全ては仲間を守る為。メリットはそれだけ。
「そして重要なのは、二つ目。二つ目は――」
「どうされるおつもりですか」
暗いビーチで、色とりどりの光が舞っている。年相応にはしゃぐ後輩たちを眺めつつ、嵯峨野は固い声で主人に問うた。最早学園や族の話を越えてきている。一歩間違えれば大惨事だと嵯峨野は案じているのだ。対する高宮はスマホを手の中で弄びながら目を伏せた。その画面には、竜崎からのメッセージが表示されていた。
「どうしようもないだろう。ここまで来たら引けない。それも計算に入れてアイツは動いていた」
「私としても、竜崎達に災いが降りかかるのは見ていられません。勿論、真水君にも。しかし」
「結局、道を決めるのはあいつ等だ。俺に出来るのは、俺の庇護を最大限アイツらに与える事だ」
けど、と高宮は憂い顔を取り払って苦笑する。首を傾げる嵯峨野に悪戯っぽく笑って見せる。
「聖は一つだけ計算違いをしている。あの諦めの悪い執着男がこの程度でどうこうなるわけないだろうに」
「確かに。無駄に頭が回りますから、そこは聖を出し抜けるかもしれませんね」
そして二人は聖月を見つめた。明るい仮面の裏に潜ませた薄暗い運命に翻弄されて苦しむ少年。
二人は願う。聖月が悲しい決断をする前に竜崎が彼を捕まえられることを。そして、誰かも犠牲にならないハッピーエンドが待ち受けている未来が来ることを。
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