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第一部

第四話 本当の力

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 屋敷に戻ると、れいさまが待っててくれた。

「おかえりなさいませ」
「ただいま。……綟、あいる夕夜ゆうやの部屋に連れて行ってあげて。俺は部屋で待ってる」
「御意」

 そう言うと、架瑚かこさまはどこかの部屋へと歩いて行った。私は綟さまに連れられ、夕夜さまの部屋へと移動した。

 夕夜さまの部屋に着くと、綟さまは「先に戻ってます」と言ってその場を後にした。

 私は綟さまが見えなくなったのを確認すると、深く深呼吸をして気持ちを切り替えた。

「…………あの……夕夜、さま?」

 手にはずんだ餅を乗せた盆があるため、障子を叩くことができない。そのため私はこうやって話しかけているのだ。

(全然返事がこない……)
「……いるなら、返事してください」

 だが反応はない。

 私はあまり使いたくなかったが、ずんだ餅で夕夜さまを(釣れるのかわからないが)釣ってみることにした。

「ずんだ餅、ありますよ?」

 するとーー。

「中に入れ」

はやっ! というか、本当に釣れた! ずんだ餅、本当に好きなんだなぁ……)

 正直なところ信じていなかったのだが、夕夜さまの対応の速さを目の当たりにして、私は信じるに至った。

 私は夕夜さまの部屋へと入った。

「し、失礼します」

 障子を開け、部屋を覗く。するとそこには、大量の書物の量が何段にも積み重なっていた。右を見ても左を見ても、本、本、本……。

 本好きにはたまらない、まるで図書館のような場所だった。

「すごい量……! 一体、何冊あるのかしら」

 私はここまでの量の書物を見たことがなかったので、驚きを隠せない。さすがに晴宮はるみやの図書館には及ばないが、時都ときと家の書庫にある書物よりは多いと断言できる。

 夕夜さまの部屋にあるものだけでこの量となると、この屋敷の書庫にはもっとたくさんの本があるのだろう。笹潟ささがた家の財力を見せられたような気分だ。

 そんな本だらけの部屋に、夕夜さまは一人、本を読んでいた。静かな空気に包まれ、楽しそうに。だが夕夜さまは私に気づくと、すぐにそんな表情は消え、先刻のように冷たい表情へと戻ってしまった。

「……何の用だ?」
「あ、えっと……夕夜さまと仲直り、したくて」
「仲直りぃ?」
「は、はい……」

 夕夜さまにすごまれ少し怖気付くも、私は夕夜さまと仲直りをするために気を持ち直す。

「てか、まずそもそも俺ら、喧嘩なんてした?」
「え、喧嘩したのではないのですか?」
「「…………」」

 しばしの間、私と夕夜さまはお互いを見つめ合った。夕夜さまはため息を吐くと、前髪を掻き上げた。

「なんか、馬鹿馬鹿しくなってきた」
「ご、ごめんなさ……」
「謝らなくていいから。てか、謝るところじゃないから」

 夕夜さまは読んでいた本を閉じると、私の方を向いて尋ねた。

「あんた、何にも知らないの?」
「……そう、かもしれません。いえ、そうなのだと思います。自分でもよく、わかりません」
「変な奴……」

 その感想は合っていると思う。

 雨の中、五大名家の次期当主である架瑚さまに拾われ、架瑚さまの従者である夕夜さまと仲直りをしようとしている人。それが夕夜さまから見た私だろう。

「ま、別にいいけどね。であんたはどうしてほしいわけ?」
「仲直りしたい、です」
「……あんた、自分で何言ってるかわかってる?」
「え?」

 申し訳ないのだが、夕夜さまの言っている意味がわからない。ただ夕夜さまと仲直りしたい、と言っただけのはずなのだが……。

「あんたは俺と仲直りしたい、だっけ? 理由は? 架瑚の関係……つまりは婚約者として認めてほしいってことじゃないの?」
「えっ!? 違います違いますっ!」

 もしかして夕夜さまは、何か勘違いをしているのではないだろうか。だとしたら、ちゃんと勘違いを訂正しなくてはならない

「断じてそんなこと考えてなんかいません! それにまだ私、何も知らずにここに来てるんです! ゆ、夕夜さまと仲直りしないと、私、何もわからないままなんです!」
「…………え?」

 一息に言ったので、「ぜえ、はあ……」と私は呼吸をする。夕夜さまはぽかんとしていた。

「えっと、夕夜、さま……?」
「……それ、マジ?」
「? それとは……?」
「だから、あんたが架瑚から何も知らされていなくて、よくわからないままここにいるってこと」
「はい。そうですが……」

 夕夜さまはその言葉を聞くと、深く息を吐き、何故か私に謝罪した。

「……ほんっとうにごめん」
「え? ……え?」

 夕夜さまの態度が急に変わったので、私は何が何だかさっぱりわからなくなった。

「もしあんたの話が本当なら……いや、本当なんだろうね。架瑚が悪いことをした。代わりに謝罪する」
「いえ、大丈夫です……」

 夕夜さまは心底申し訳なさそうにしていた。私のせいだろうか。

「疑って悪かった」
「いえ、誤解が解けたのならいいので大丈夫です。ありがとうございます。……あ、ずんだ餅、いります?」
「いる」

 二度目の即答に、私はなんだか可笑おかしく思えて笑ってしまった。夕夜さまもそれにつられて笑った。

「ずんだ餅、ありがとな」
「気にしなくていいですよ。買ったのは架瑚さまですし……。私はそれに付き添っただけのようなものです」

 私は夕夜さまにずんだ餅を一つもらい、一緒に食べることにした。

「! やっぱり美味しいですね」
「だろ? 美味しいよなぁ」

 ずんだ餅を頬張る夕夜さまは、普通の男の子に見えた。

「……架瑚のこと、よろしくな」
「え?」

 夕夜さまの声が聞こえず、私は思わず訊き返す。だが夕夜さまに「何でもない」と言われ、はぐらかされてしまった。

 その後、ずんだ餅の話と本の話をした。また、夕夜さまは私のことを時都妹ときといもうとと呼ぶことになった。

 そして私と夕夜さまは架瑚さまと綟さまの待つ部屋へと向かった。



「揃ったね」

 架瑚さまは部屋を見回す。

「じゃあ、前にも言ったけどもう一度言わせて」

 ゴクリと私は息を呑んだ。

 架瑚さまはスッと、私の髪の一房ひとふさを手にし、それを唇に当てた。

「……っ!」

 互いの目を合う。そして架瑚さまは言う。

「俺の婚約者になって、藍」

 まっすぐな漆黒の瞳に見つめられ、私は二度目のプロポーズを受けた。架瑚さまの顔面偏差値がんめんへんさちが高過ぎるせいもあり、私はあたふたした。

「あ、えと、あの……」

 私は何故、架瑚さまがそんなことを私に言ったのかを聞きたかったのだが、架瑚さまは全てお見通しだった。

「なんでこんなこと言われたのか聞きたいと思うけど……」
(な、なんでわかるの!?)

 思ったことと同じことを架瑚さまが言ったので、私は架瑚さまに心が読まれた気がした。

「先に返事、くれる?」

 そう言った架瑚さまは、少し顔が火照ほてっていた。耳も少し赤い。

 それぐらい、架瑚さまは本気で、(夕夜さまと綟さまがいるせいもあり)恥ずかしく、緊張していることが私にはわかった。

(私も、ちゃんと架瑚さまと向き合わなきゃ)

 私の返事はーー。

「……っお断りします!」
「「「!!?」」」

 お断り、である。

 そしてその場に雷が降ったかのような衝撃が走った。私もここまで驚かれるとは思わなかった。

 最初に口を開いたのは架瑚さまだった。

「……俺のこと嫌い?」
「え!? 違います!」

 そういう問題ではない。

 私はお断りした理由を話した。

「架瑚さまのことは、好きでも嫌いでもありません。尊敬はしていますが、恋愛感情とかは、ありません。そ、それにそもそも、私と架瑚さまじゃ何もかも差があり過ぎるんです」
「……どこが?」

 架瑚さまは私が時都家だということしか、おそらく知らないのだろう。

「私は厄女……あ、えっと、時都家に厄を呼び込むと言われる双子の妹として生まれてきました。昨夜、家出したので身分はないも同然です。それに……」

 言うかどうか迷ったが、隠し事は良くないと思い、私は正直に話した。

「……っ私は落ちこぼれのサードです。魔力値が高いと有名な名家の家元でありながら、セカンドですらありませんでした」

 私に人より優れたところなんてない。

 パサついて傷んだ黒い長い髪、殴る蹴るなどの暴行を受けたことによる全身のあざや怪我。

 契約によって、勉強も、運動も、魔法も、全て結果を出してはいけない。つまり、私に何かしらの才能があったとしても、それは外に知らされていない。

 最近は身分ではなく実力を見られるようにはなってきた。けれど契約がある限り、それもまた意味のないこととなる。

(本当はお受けしたいけど……)

 きっと架瑚さまが許してくださっても、周りはそれを許さないだろう。容姿も中身も、私は底辺の者だと、とっくの昔に自覚している。

 私は絶対に、幸せになんてなれないのだ。

「だから私は、架瑚さまの婚約者にはなれな……」
「じゃあ、藍の魔力値がファーストだったら俺の婚約者になってくれるわけ?」
「…………え?」

 架瑚さまは私の言葉を遮ってそう言った。

(何を、言っているのだろう)

 魔力値は、十歳になって以降からは増えることはない。つまり、私がファーストになんて、なれるわけないのだ。

 そんな常識ぐらい、架瑚さまだって知っているはずだ。架瑚さまの言ってる意味が私にはわからなかった。

「綟、計測器ちょうだい。ファーストレベルの」
「こちらに」
「え? 何を……」

 私は無理やり計測器をつけられ、架瑚さまにこう言われた。

「藍、俺と約束してくれ」
「……やく、そく?」
「あぁ。最近は身分ではなく、実力で評価されていることぐらい藍も知ってるよね?」
「もちろんです」

 ここまでは良かった。だが問題はこの後だった。

「つまり、藍に俺と同じファーストの魔力値があれば、藍は俺の婚約者になってもいいってことだよね?」
「はい。……はい?」

 架瑚さまが何を言ったのかわからず、私は聞き返してしまった。

言質げんちは取ったよ? まとめると、藍にファーストの魔力値があれば、俺の婚約者になってもいいってことだよね?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!私はサードで……」
「もう一回今測ればいいだけだから」

 なんと無茶なことを言うのだろうか。

 計測器の使用は一回のみ有効だ。そのため、かなり高価な代物のはずだ。

「で、でも……」
「ほーら、六年前と変わらなかったら俺の婚約者になれない。ただそれだけだから。ね」

 ね、と言われても困る。だが、私は架瑚さまの圧と押しに負け、了承してしまった。



「じゃあ魔力が尽きる限界まで流し込んで」

 私の手につけられた魔力値を測る計測器を指で指しながら、架瑚さまはそう言った。私はそれに頷き、魔力を流した。

 するとーー。

「……わっ!」

 私の魔力がたくさん吸われた。こんな経験は普段しないので変な気持ちだった。さすがファーストレベルの計測器。吸われる量も時間も半端ない。

 計測器に魔力値を吸われている間、私は架瑚さまの先刻の言葉を思い出す。

『俺の婚約者になって、藍』

 架瑚さまの婚約者になりたいか、と聞かれれば、私はすぐに肯定するだろう。だけど、架瑚さまの婚約者になってほしい、と言われたら、今回のように私は断る。

 なりたくても実績がないからだ。もっと言うと、実力を出せないからだ。契約をされているから。

(……でも)

 私にとって、今日は幸せな一日だった。幸せをを感じてしまった。だから望んでしまった。ずっと、こんな毎日を過ごしたいと。

 もし私にファーストの魔力値が、実力があるなら、私は架瑚さまの婚約者になりたい。

 なぜならそれが、私の実績につながると思うから。認めてもらえると思うから。

(ファーストに、なりたい)

 その思いとともに、私は初めて契約があるにも関わらず、限界まで魔力を計測器に流した。

「~~っ!」

 するとーー。

 パリンッ!と何かが割れる音がした。嫌な予感がした。

「「「「…………え?」」」」

 私を含む全員が驚いた。なんの音か誰もがわかっているはずなのに、それを信じきれないのだ。

 問い、何が起きたのか。
 答え、ファーストレベルの計測器が割れた。

 計測器は貴重で高価な物だ。どのぐらい高いのかと聞かれれば、高級妓女との一夜が買えるほどだと答えるだろう。

 もちろんその値段に見合って、頑丈で壊れにくくなっているはずなのだがーー。

「す、すみません! すみません! が、頑張って弁償します! なんとかします! ほんっとうにすみませんでした!」
(や、やっちゃったぁ~!)

 私は心の中で叫びつつ、何度も何度も誤った。しかし、誰も割れた計測器を見るだけで、喋ってくれない。それが逆に怖い。

 しかも架瑚さまの目は何故かキラキラと輝いている。それがまた怖い。怖すぎる!

(怒られる……!)

 だけど、私が思っていたこととは全く違うことを、架瑚さまは口にした。

「……すごいな、俺の予想が裏切られたのは初めてだ」
「……え?」

 なんの、こと……?

 ポカンとした私に、夕夜さまが教えてくれた。

「……この計測器は、架瑚みたいな異端者イレギュラー用に作られたやつなんだよ。まさか、壊れるとはな」

「や、やっぱり壊したらいけなかったですよね」

 そんな私の言葉に、綟さまは言いにくそうに告げる。

「まぁ、普通はそうですよね……」
(あああああぁぁぁぁ……!)

 この先の未来に絶望した私に、架瑚さまは声をかけてくれた。

「だけどまぁ、これで安心したよ」
(何に!?)
「藍がサードじゃなくてファーストの魔力値の子だってこと」
「えっ!?」

 どういうことだろうか。

「だってそうでしょ、ファーストレベルの計測器は、『魔力が多すぎて』壊れちゃったんだから」
「…………そうなのっ!?」

 架瑚さまに対して私は砕けた口調で話してしまった。咄嗟に手で口を覆う。だけど架瑚さまは全くそんなこと気にしていなかったので、私は少し安心した。

 しかし、そんな安心はすぐに砕かれる。

「じゃあ約束通り、俺の婚約者になってよね」

 そう言うと、架瑚さまはスッと私に近づき、そしてーー。

「っ!」

 互いの唇を重ね、離した。

「もう、逃がさないから」
「~~っ!」

 架瑚さまは意地悪そうに私を見る。そしてそんな架瑚さまを見ると、私は心臓の鼓動が鳴り止まない。

「あ、あの……!」
「?」

 私は架瑚さまとなるべく目を合わせずに尋ねる。今の私の顔を見られたくないからだ。

「け、結局何故、私を婚約者にしたいのですか? 私以外のファーストの人は他にもいるはずです」
「え、だって藍、俺より強いでしょ?」
「…………え?」

 私が架瑚さまよりも強い? ありえない。絶対にない。ないないないない。

 だけどそれは私の願いでしかなかった。

「だって俺でも、今、藍が使ったものと同じもので計測しても、壊れはしなかったもん」
(嘘でしょ……)

 魔力値だけで言えば、私は最強らしい。なんか悲しい。

「俺はね、藍。ただの婚約者がほしいんじゃない」
「どんな婚約者ですか?」
「藍みたいに強くて婚約しても文句を言われない婚約者」
「…………」

 つまり私は、強いから選ばれたというのか。すごく複雑な気持ちだ。

「でも、藍が嫌って言うなら無理強いはしないよ」
「! それなら……」

 架瑚さまの婚約者には……なりたい。けど、私には荷が重いので、正直なところあまり受けたくない。

 だが、私には架瑚さまの婚約者にならなければいけない事情があった。それを架瑚さまは知っていた。

「けど、藍にはまずこの屋敷に宿泊した宿泊代と『みわだんご』の団子代に加えて着物を借りたお金を払ってもらわないといけないね」
「…………」

 架瑚さまはニコニコと笑っていた。

(……私、婚約する以外に選択肢なくない!?)
「さ、藍はどうする? 俺の婚約者になってくれる? それとも、お金を払う? どっちでもいいよ」
「~~架瑚さまの婚約者になります」
「よかった」

 すると架瑚さまは私に近づき、互いの唇を重ねた。温かくて柔らかいものが当たる感触が、唇を通じて私に伝わった。

「~~っ!!?」

 私は驚きと恥ずかしさで架瑚さまと距離を取る。架瑚さまは意地悪そうに笑って言った。

「これからよろしくね、藍」
「~~っ! ……頑張ります」

 こうして私と架瑚さまは婚約者となった。所謂いわゆる、契約婚(?)である。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 藍が寝たことを綟から知らされる。俺は小さく息を吐く。安心したためである。俺との婚約が本当で嫌だったのかもしれない、と少し不安だったのだ。

 また、藍は自殺を試みようとした、精神が非常に不安定なはずの少女だ。寝付けないことがあるかもしれないと考えていたのだ。

「おい架瑚。何ヘラヘラ笑ってんだよ」
「え……?」
「無自覚かよ、もっと気持ち悪いわ」
(笑って、いたのか……)

 そんなこと、初めて言われた。いや、もしかしたら、俺が笑っていても、誰も指摘しなかったのかもしれない。

「それで、わか。藍様はどうするおつもりですか?」

 綟は緩んでいた空気を引き締めた。

 俺は笹潟家の次期当主らしく振る舞うことに決める。その方が、俺の本気度が伝わると思ったからだ。

「藍は話した通り、俺の婚約者にする」
「本家にはどう説明するんだ?」
「……そうだった…………」

 完全に忘れていた。今、俺がいるところは、本家の屋敷とは別の屋敷だ。別邸とも言う。

 位置も離れているため、俺の言動は夕夜と綟によって伝えられる。夕夜の口振りから、まだ藍のことは本家に伝えてはいないようだ。

(どうせあーだこーだ文句を言われたり、長ったらしい説明を求められたりするんだろうなぁ……やだなぁ)

 俺は面倒なことが嫌いだ。あの堅苦しい雰囲気が漂う本家は、俺を窮屈にさせるだけだ。それは俺が俺でなくなるので嫌だった。

 だが嫌々言っても変わらない。藍が婚約者になれば……いや、誰が婚約者になっても、本家に行くのは確定事項だ。これに関しては諦めるしかない。

 けれど、あまり考えたくはないが、藍が認められない可能性もある。そうなれば、俺は両親に別の婚約者を押し付けられるだろう。

(そうなる前に、外壁を作るべきだな)

 本家ごと、藍を逃さないように外壁を作らなければ。俺と藍が婚約破棄をできない状況にするためにはーー。

「本家には行くよ。…………いつか」
「いつかかよ」
「ご挨拶に行くまでの期間は、私たちが足止めをすることになりそうですね」

 夕夜と綟は大きなため息を吐く。申し訳なく思っている。だが、夕夜と綟を信用してでのことでもあるのだ。

 二人なら何とかしてくれるだろうと、俺は信じている。

「本家と藍ごと婚約破棄をできない状況にさせる。成功は保証するよ。……協力してくれるか?」
「はぁ……まったく、世話の焼けるあるじだよ、架瑚は」
「大変そうですが、私は若の従者ですもの。どこまでもついて支えますよ」

 有能な従者を持って幸せだと俺は思った。


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