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4.ホーク
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「よッ。サルモネ」
「ガロ! 」
マーケットの外れ、待ち合わせやすい場所で待っていたガロはサルモネ向かって軽く手を挙げた。
「今日は何を買いに来たんだ? 」
「この前、言ってた本屋に行きたいんだ」
「いいぜ」
猛禽類のような鋭い眼光。サルモネの目を盗んで度々光る。
『お前は本当に良い奴だな』
「どうかした? 」
「いや、お前って良い奴だよな。よく言われねぇ? 」
「どうしたんだよ、急に」
オズの息のかかったサルモネ。手を離れればそんなものはお飾りにもならない。殺してしまえば尚のこと。
男にしては小さな身体は細く、簡単にねじ伏せられる。
サルモネの後頭部を視界に捉えながらそう思考を巡らせていたガロは不意に振り返ったサルモネの瞳に心臓が跳ねた。
どうしてか、見透かされている気がするのだ。
「どうしたんだよ」
「道、こっちで合ってる? 」
「あぁ」
もちろん知るはずはない。サルモネの頭の中はそんないいモノで出来てはいなかった。
マーケット二区の穴場の古本屋に着くと、サルモネはワッと声を上げて店内に駆け込んだ。
「おい、サルモネ……ッたく」
視界を遮るように並ぶ棚を一つ一つ覗いてガロはサルモネを見つけた。
「サルモネ」
一冊の本を手に取って今にも開こうとしていたサルモネはハッと顔を上げた。
「あ、ごめん」
「いや、いいんだけどよ。お前オズの弟子なんだろ? それなら腐るほど本があるんじゃねぇの」
「そうなのかな。聞いたことないから帰ったら聞いてみるよ」
「あぁ」
再びギラリと光る。
「じゃあ、同じ本があっても困るだろうし、また今度にしようかな」
サルモネは本を棚に戻すと「連れてきてくれたのにごめんね」と言った。
「さっきの何の本だったんだ? 」
「アリスフォードの魔法史実って本。オズの事書いてあるかなって思ってさ」
「ふぅん」
古本屋を出るとガロは背中を丸めてサルモネの顔を覗き込んだ。
「お前って、魔法の事なんも知らねぇよな。なんで魔法士になろうと思ったんだ」
「……オズが、そう言ってくれたから。まだ、そんな理由しかないんだけど」
「羨ましい事だな。大魔法士にスカウトされるなんて」
「でも、一番は……」
俯き、サルモネは掠れた声で呟いた。
「独りに、なりたくないんだ……俺」
なりたくないとは思わない。けど、なりたいと言える真っ直ぐな信念もない。
独りの辛さは誰かと一緒にいる時、本当に理解するのだ。
屋根がない場所で冷たい雨に打たれる寂しさも、家の明かりを羨ましく見上げる虚しさも。もう二度と味わいたくはない。浅ましいと思われても、ずるい奴だと言われてもしがみつきたい唯一だ。
「ごめん。魔法士の君にこんな事言ってごめん。恥ずかしいこと言ってるのは分かってる、だけど嘘ついて大魔法士になりたいなんて言っちゃいけないと思うから……」
「そんな事どうでもいい、お前の事なんてどうでもいいけどよ。」
『君は、大魔法士になんてなれないよ』
オズの呪いみたいな言葉がガロの首に絡みつく。自分の心がバラバラになるまで苦しめた言葉がいつまで経っても離れない。いつまでも鮮明に、新しく傷になる。
ガロの心拍数が段々と上がっていく。
そしてサルモネに感情のまま思わず掴みかかった。
「オズの名前を汚すような事だけはするンじゃねぇ! もうお前はお前だけの命じゃねぇぞ、死んだらお前を選んだオズは世界中の笑いモンだ! 」
ガロは隠していた鋭い瞳で睨みつけた。歯を食いしばりながら、サルモネを揺さぶる。
「分かったか! 」
「ッ! 」
「せいぜい、生き延びやがれクソボケ野郎」
カクンッと首を折ったサルモネの服の襟を離し、地面に崩れるのをガロは見下ろした。
「ガロ! 」
マーケットの外れ、待ち合わせやすい場所で待っていたガロはサルモネ向かって軽く手を挙げた。
「今日は何を買いに来たんだ? 」
「この前、言ってた本屋に行きたいんだ」
「いいぜ」
猛禽類のような鋭い眼光。サルモネの目を盗んで度々光る。
『お前は本当に良い奴だな』
「どうかした? 」
「いや、お前って良い奴だよな。よく言われねぇ? 」
「どうしたんだよ、急に」
オズの息のかかったサルモネ。手を離れればそんなものはお飾りにもならない。殺してしまえば尚のこと。
男にしては小さな身体は細く、簡単にねじ伏せられる。
サルモネの後頭部を視界に捉えながらそう思考を巡らせていたガロは不意に振り返ったサルモネの瞳に心臓が跳ねた。
どうしてか、見透かされている気がするのだ。
「どうしたんだよ」
「道、こっちで合ってる? 」
「あぁ」
もちろん知るはずはない。サルモネの頭の中はそんないいモノで出来てはいなかった。
マーケット二区の穴場の古本屋に着くと、サルモネはワッと声を上げて店内に駆け込んだ。
「おい、サルモネ……ッたく」
視界を遮るように並ぶ棚を一つ一つ覗いてガロはサルモネを見つけた。
「サルモネ」
一冊の本を手に取って今にも開こうとしていたサルモネはハッと顔を上げた。
「あ、ごめん」
「いや、いいんだけどよ。お前オズの弟子なんだろ? それなら腐るほど本があるんじゃねぇの」
「そうなのかな。聞いたことないから帰ったら聞いてみるよ」
「あぁ」
再びギラリと光る。
「じゃあ、同じ本があっても困るだろうし、また今度にしようかな」
サルモネは本を棚に戻すと「連れてきてくれたのにごめんね」と言った。
「さっきの何の本だったんだ? 」
「アリスフォードの魔法史実って本。オズの事書いてあるかなって思ってさ」
「ふぅん」
古本屋を出るとガロは背中を丸めてサルモネの顔を覗き込んだ。
「お前って、魔法の事なんも知らねぇよな。なんで魔法士になろうと思ったんだ」
「……オズが、そう言ってくれたから。まだ、そんな理由しかないんだけど」
「羨ましい事だな。大魔法士にスカウトされるなんて」
「でも、一番は……」
俯き、サルモネは掠れた声で呟いた。
「独りに、なりたくないんだ……俺」
なりたくないとは思わない。けど、なりたいと言える真っ直ぐな信念もない。
独りの辛さは誰かと一緒にいる時、本当に理解するのだ。
屋根がない場所で冷たい雨に打たれる寂しさも、家の明かりを羨ましく見上げる虚しさも。もう二度と味わいたくはない。浅ましいと思われても、ずるい奴だと言われてもしがみつきたい唯一だ。
「ごめん。魔法士の君にこんな事言ってごめん。恥ずかしいこと言ってるのは分かってる、だけど嘘ついて大魔法士になりたいなんて言っちゃいけないと思うから……」
「そんな事どうでもいい、お前の事なんてどうでもいいけどよ。」
『君は、大魔法士になんてなれないよ』
オズの呪いみたいな言葉がガロの首に絡みつく。自分の心がバラバラになるまで苦しめた言葉がいつまで経っても離れない。いつまでも鮮明に、新しく傷になる。
ガロの心拍数が段々と上がっていく。
そしてサルモネに感情のまま思わず掴みかかった。
「オズの名前を汚すような事だけはするンじゃねぇ! もうお前はお前だけの命じゃねぇぞ、死んだらお前を選んだオズは世界中の笑いモンだ! 」
ガロは隠していた鋭い瞳で睨みつけた。歯を食いしばりながら、サルモネを揺さぶる。
「分かったか! 」
「ッ! 」
「せいぜい、生き延びやがれクソボケ野郎」
カクンッと首を折ったサルモネの服の襟を離し、地面に崩れるのをガロは見下ろした。
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