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2.墓守りのアトネ
⑥
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「そう、手のひらに集中して下さい。全身の血をここに集めるように……」
何度やっても火が出来る気配、しかない。サルモネはぽきりと心が折れそうなのを何とか保っていた。
「では、もう一度」
サルモネは左手にグッと力を込めると背後からサルモネを包む影が落とされた。
「グリエ」
「うわッ!!! 」
ボッ、と手のひらより大きな火がサルモネを脅かした。
驚いたサルモネが振り向くとオズがいた。オズが唱えた呪文だったのだ。
「……び、びっくりした。今のはオズさんが? 」
「呪文だけね。僕は魔力の流れを整えただけ、あとは君の力だよ」
サルモネは目を丸くして自分の手に視線を落とした。ドクドクと心臓が波打つ、血に混ざった自分の力が熱く滾る。
「呪文は、余計な気持ちが混ざらないように精神を統一するための手助け。魔法自体には必要無いもの」
オズはそう言うと、もう一度魔法を使うように言った。
「……ふぅ」
息を吸って吐いて、手のひらに力を込める。
「グリエ」
ボッ!!
さっきよりも大きな炎があがった。赤髪が熱風に煽られてかきあげられる。
「凄い、凄いです! サルモネさん! 」
ドッグドッグは手を叩いて笑うのだが、サルモネは呆気にとられて口を開けるばかりだ。
「まだ力は制御は出来ないか……」
オズはサルモネの手をグッと引き寄せ、ジロジロと舐めるように見た。
「な、なんですか」
「いや……練習続けて」
オズは小屋に戻り、サルモネとドッグドッグは目を見合せた。
「今は、同じことを繰り返しましょう」
「はい」
「今晩の事もありますし、自分の身を守るためにも魔力は使い過ぎないようにしておきましょう」
魔力の使い方は下手なのだが、サルモネは息一つ切らさない。魔法に触れはじめた存在にしては才能がある。
「サルモネくんは相当スジがいいな」
小屋に戻ったオズは昼寝をしていた筈のアトネの言葉に小さく頷いた。
「才能があれど、普通ははじめて魔法を使おうなんて奴があの短い時間で出来るはずが無いんだがなぁ」
窓の外を眺めながら感嘆するばかりのアトネにオズはフッと笑った。
「ファウストになれるかもね」
「お前も取れていない称号を? どれだけ期待しているんだ」
「僕は別にいらない、興味ない」
「はは、すっかり変わったな。達観したような事言いやがって」
「うるっさいなぁ……紅茶、紅茶飲むから」
テーブルに突っ伏して目を瞑り、オズは外の騒がしい声も聞かないようにした。
「なぁオズ、お前がマーリンの墓に名前を彫ったんだよな」
「……そうだっけ」
「馬鹿野郎、お前ぶん殴ってやったろ」
「覚えてないよ、そんなこと」
オズは嫌な顔をするとアトネは呆れ笑いしながら目の前に淹れたての紅茶を置いた。
「あの彼は、身寄りがないと言ったな。
サルモネ。あの名前はお前がつけたのか? 」
「いいや」
「そうか」
何度やっても火が出来る気配、しかない。サルモネはぽきりと心が折れそうなのを何とか保っていた。
「では、もう一度」
サルモネは左手にグッと力を込めると背後からサルモネを包む影が落とされた。
「グリエ」
「うわッ!!! 」
ボッ、と手のひらより大きな火がサルモネを脅かした。
驚いたサルモネが振り向くとオズがいた。オズが唱えた呪文だったのだ。
「……び、びっくりした。今のはオズさんが? 」
「呪文だけね。僕は魔力の流れを整えただけ、あとは君の力だよ」
サルモネは目を丸くして自分の手に視線を落とした。ドクドクと心臓が波打つ、血に混ざった自分の力が熱く滾る。
「呪文は、余計な気持ちが混ざらないように精神を統一するための手助け。魔法自体には必要無いもの」
オズはそう言うと、もう一度魔法を使うように言った。
「……ふぅ」
息を吸って吐いて、手のひらに力を込める。
「グリエ」
ボッ!!
さっきよりも大きな炎があがった。赤髪が熱風に煽られてかきあげられる。
「凄い、凄いです! サルモネさん! 」
ドッグドッグは手を叩いて笑うのだが、サルモネは呆気にとられて口を開けるばかりだ。
「まだ力は制御は出来ないか……」
オズはサルモネの手をグッと引き寄せ、ジロジロと舐めるように見た。
「な、なんですか」
「いや……練習続けて」
オズは小屋に戻り、サルモネとドッグドッグは目を見合せた。
「今は、同じことを繰り返しましょう」
「はい」
「今晩の事もありますし、自分の身を守るためにも魔力は使い過ぎないようにしておきましょう」
魔力の使い方は下手なのだが、サルモネは息一つ切らさない。魔法に触れはじめた存在にしては才能がある。
「サルモネくんは相当スジがいいな」
小屋に戻ったオズは昼寝をしていた筈のアトネの言葉に小さく頷いた。
「才能があれど、普通ははじめて魔法を使おうなんて奴があの短い時間で出来るはずが無いんだがなぁ」
窓の外を眺めながら感嘆するばかりのアトネにオズはフッと笑った。
「ファウストになれるかもね」
「お前も取れていない称号を? どれだけ期待しているんだ」
「僕は別にいらない、興味ない」
「はは、すっかり変わったな。達観したような事言いやがって」
「うるっさいなぁ……紅茶、紅茶飲むから」
テーブルに突っ伏して目を瞑り、オズは外の騒がしい声も聞かないようにした。
「なぁオズ、お前がマーリンの墓に名前を彫ったんだよな」
「……そうだっけ」
「馬鹿野郎、お前ぶん殴ってやったろ」
「覚えてないよ、そんなこと」
オズは嫌な顔をするとアトネは呆れ笑いしながら目の前に淹れたての紅茶を置いた。
「あの彼は、身寄りがないと言ったな。
サルモネ。あの名前はお前がつけたのか? 」
「いいや」
「そうか」
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