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第九話 もっと話を
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「いいかげん、客扱いはしないぞ」
ため息混じりの声に、トゥッツィリアはずだ袋を降ろしてうなずく。
「はい! お手伝いできることがあったら、なんなりとおっしゃってください」
「茶を淹れておいてくれるか? 戸棚に茶葉がある」
厨房はちいさく、洗っていない皿が積んであった。生家で家事はほとんどしていないが、さすがに皿は洗える。茶の淹れ方は知っていた。
自分にできることがあると、俄然やる気になっていく。
戸棚をのぞくと、置かれているカップや皿がどれも種類や大きさがばらばらだった。茶葉のとなりには、ちいさいが酒の入った瓶も並んでいる。そこには半分くらいの量が残っていた。
肉食だけでなく、彼は飲酒もしている。やはり修道士らしからぬおこないであり、トゥッツィリアはひとり声を殺して笑った。
鼻歌を歌いながら洗いものをし、湯を沸かしていると背中に声がかかる。
「それで……今日も本を借りに? まさか、もう読み終わったのか?」
二階から降りてきた彼は、手袋を外し汚れた雑巾を手にしている。
「お借りした本、残念なんですが、内容がほとんどわからなかったんです」
「そうか。辞書は……どこかにあると思うが」
「アイオンさま、お願いがあります」
徐々に湯が沸いていく音がする。ほっとする音だった。彼の家でこうしていることが信じられず、とても嬉しい。
「前にアイオンさまは『なにかをはじめるのに、遅いなんてことはない』っておっしゃられましたよね」
「ああ、そう……だな」
いったかどうか心許ないのか、アイオンは自信がなさそうだ。
「私、しっかり読み書きを学びたいんです」
「読み書き? そんなもの、覚えてどうするんだ」
「こちらにあるような、植物の……薬草の育て方や調合を学びたいんです」
「そんなこと――まさか、本気でいっているのか?」
あからさまで、仮面からも訝しむ気配が漂い出ている。
「こんなもの、女性が――貴族の女性がたしなむことじゃない」
あっさりとアイオンから発せられた言葉に、トゥッツィリアはかちんときた。
いつもなら顔に出ないよう気を遣うが、いまは眉をひそめるに任せる。
「気に障ったようだが、真実だ。土いじりを学んだところで、誰にも誇れないぞ」
「あんなにたくさんの本と、この種の山を見れば……アイオンさまがたくさん学ばれたのがわかります」
アイオンの語尾をさえぎるようにし、トゥッツィリアはきつい口調になっていた。
「ご自分が学んで実行なさってることを、こんなものだなんて……そんなおっしゃりようはあんまりです」
ずらりと積み上げられた木箱をトゥッツィリアは見つめた。
「貴族らしからぬことを学ぶといって、アイオンさまが非難なさるのはご自由です。でもアイオンさまが……ご自分が手がけてらっしゃることを、そんな卑下するようなことをおっしゃるのは――不愉快です」
「そうか?」
しれっとした返事だった。トゥッツィリアは眉間の皺を深くする。
「そうです。それなら、土いじりを止めてしまえばいいんです」
「こっちの勝手だ。俺がやってることをどういおうと、それも俺の勝手だ」
「なら私が学びたいというのも、私の勝手です」
頭に血がのぼっていく。ストールのはしを、トゥッツィリアはぎゅっとにぎりしめていた。かすかな頭痛がするくらい頭にきている。憤りすぎて、まなじりに涙が浮かんできていた。
「泣くな。おまえが泣くようなことじゃない」
しゅんしゅんと音を立て、湯が沸いた。
ちょっと前にはほっとする音だったのに、すっかり変わってしまった。まるでトゥッツィリアをあおり立てているような。
頭に血が上ったトゥッツィリアは、怒りにまかせて小鍋に茶葉を放りこんだ。
「おい! 茶の淹れ方、まさか知らないのか?」
「知ってます!」
あわてたアイオンの声に、トゥッツィリアは大声で返していた。
はやくも濃い茶色になった湯の表面が、ボコボコと煮立っている。見るからに苦そうで、よこからアイオンが手をのばした。
「茶葉を無駄にする気か!?」
「どう淹れようが私の勝手です!」
「屁理屈をいうな! こんなにして、おまえ飲めると思うのか!」
「アイオンさまが飲まないなら、私が飲みます!」
トゥッツィリアはなぜ自分が大きな声を張り上げているのか、わからなくなっていた。
アイオンが彼自身のしていることをどう評しようが勝手だ。トゥッツィリアがどうこう口をはさむことではない。
トゥッツィリアの求める知識が貴族の女子が学ぶべきことではないと、アイオンはそれを訴えたいのだろう。
わかっている。でもだからといって、彼が自分のしていることを卑下する、そんな言葉を聞くのがいやでならない。
スープボウルに茶葉を越し、アイオンは真っ黒になっているそこに水を足した。すかさず、くるりと背中を向ける。トゥッツィリアから顔を背けた状態で、味を見ているようだ。
「……まずい」
ひどい声で、トゥッツィリアはぐっと言葉を飲みこんだ。
「こんないい茶葉は……なかなか差し入れてもらえないんだぞ。恨むからな」
「私だって、アイオンさまがひどいいい方をしたこと……恨みます」
「俺のことにどうして首を突っこむ? おまえにそんなふうに突っかかられる覚えはないぞ」
トゥッツィリアにもよくわからない。
親しくなりたいだけなのに、どうしてこんな激昂してしまうのか。馬鹿げたことをしてしまっている。胸のうちでは反省しているのに、口から出てこない。頭は湯のように沸騰していて、まだアイオンにいい返す言葉を探してしまっていた。
「帰れ」
「……いやです」
「ならこのまずい茶で歓談でもしようっていうのか? もうこの茶はべつのことに使うから、鍋も全部そのままにしておけ」
「飲みます」
「帰れ!」
「いや!」
アイオンの手からスープボウルを奪うと、中身がこぼれて手を濡らした。熱い液体にトゥッツィリアが怯んだ一瞬に、また彼にボウルを取り返されてしまった。
「大丈夫か、おい……火傷はしてないか!?」
振り返ったトゥッツィリアの目は、棚でカップと肩を並べる酒の瓶で止まった。
流しにボウルを置き、トゥッツィリアは酒を手に取る。
「トゥッツィリア!?」
息を止め、トゥッツィリアは一気に酒をあおった。
「この――馬鹿!」
のどが、気管が焼けるようだ。口から胃にかけて、火の道ができたように錯覚してしまう。
こらえようとしたが、一度咳きこむと止まらない。アイオンの手が背を撫でた。
「水を飲め、なにをやってるんだおまえは!」
咳の発作が消え、火の道は熱さがやわらいだ。まだひりひりしている。
「お酒のにおいが消えるまで、帰りません」
頭がふらついた。
「それでも帰れとおっしゃるなら、まっすぐ司祭さまのお部屋にいって……アイオンさまとお酒を飲んだ、って告げ口します」
「……それは告げ口じゃない。いいがかりだろう」
急激に酒気がまわってふらついた頭を、アイオンの腕に押しつけた。彼は逃げない。だからトゥッツィリアは、彼にそのまま体重を預けた。
「わ、私、本の内容がわからなかったから、教えてほしかったんです」
口からは言葉が出て、目からは涙が出そうになる。
「はっきりいうが……おまえは学ぶだけ無駄だ。生かせない。それでいいのか? 土いじりはおまえのような身分のものがすることではない」
「もしもちゃんとした植物の……薬草の知識を持って、育てられたら……って、そんなことを考えるようになって」
貴族の娘としてぼんやり時間を過ごしてきたトゥッツィリアは、はじめて自分で動こうとしていた。
知識も経験もなくとも、なにかできることがあるのではないか。これからはじめてもいいのではないか。寡婦となり、家同士の絆をつくって終わるだけの人生を送らずにすむのではないか。
修道士でありながら、教会内で唯一人間らしく映ったアイオンは、トゥッツィリアには刺激のかたまりだった。
トゥッツィリアが持っていない知識を持ち、トゥッツィリアの常識にない生活を送り、トゥッツィリアがこれまでにいわれたことのない粗雑な言葉をかけてくる。彼から目が離せない。
アイオンの手がトゥッツィリアの肩を包んだ。
彼への興味は留まるところを知らないのだ。
この仮面を被った怪人に邪険な言葉をかけられても、奥には悪意や害意が感じられない。
自分が迷惑をかけている自覚もあった。
そうしてでも、トゥッツィリアはアイオンの近くにいたかった。話をしたい。
アイオンの腕に、頬をさらに押しつけた。
「やっぱりおまえは、警戒心が足りない」
「アイオンさまを……警戒したくないです」
なにを警戒すればいいのだろう。出会った当初から、彼は自分自身の言葉でトゥッツィリアに警告し、注意をうながしてくれた。熱を出せば気遣ってくれた。
教会に留まる面々のなか、彼だけが剥き出しの感情を持っている。
アイオンの胸がかすかにふるえた。笑ったのだ。
「そんなに俺は、安全そうか?」
「なんていったらいいのか……アイオンさまのことを、もっと知りたいんです。警戒して……遠ざかって、アイオンさまのことを知る機会を逃すのは……いやです」
彼を知って日は浅い。彼を知らなかった日々があったことを思い、トゥッツィリアは胸が苦しくなった。トゥッツィリアの知らない彼の日々。知らないでいたことが口惜しい。
トゥッツィリアは顔を上げた。のっぺりとした仮面に、表情は一切ない。
はっと気がついたことがあった。
――私、アイオンさまを。
胸が苦しい。
初恋の思い出をなつかしむときより、ずっと重くて甘い。
――アイオンさまのことが。
ため息混じりの声に、トゥッツィリアはずだ袋を降ろしてうなずく。
「はい! お手伝いできることがあったら、なんなりとおっしゃってください」
「茶を淹れておいてくれるか? 戸棚に茶葉がある」
厨房はちいさく、洗っていない皿が積んであった。生家で家事はほとんどしていないが、さすがに皿は洗える。茶の淹れ方は知っていた。
自分にできることがあると、俄然やる気になっていく。
戸棚をのぞくと、置かれているカップや皿がどれも種類や大きさがばらばらだった。茶葉のとなりには、ちいさいが酒の入った瓶も並んでいる。そこには半分くらいの量が残っていた。
肉食だけでなく、彼は飲酒もしている。やはり修道士らしからぬおこないであり、トゥッツィリアはひとり声を殺して笑った。
鼻歌を歌いながら洗いものをし、湯を沸かしていると背中に声がかかる。
「それで……今日も本を借りに? まさか、もう読み終わったのか?」
二階から降りてきた彼は、手袋を外し汚れた雑巾を手にしている。
「お借りした本、残念なんですが、内容がほとんどわからなかったんです」
「そうか。辞書は……どこかにあると思うが」
「アイオンさま、お願いがあります」
徐々に湯が沸いていく音がする。ほっとする音だった。彼の家でこうしていることが信じられず、とても嬉しい。
「前にアイオンさまは『なにかをはじめるのに、遅いなんてことはない』っておっしゃられましたよね」
「ああ、そう……だな」
いったかどうか心許ないのか、アイオンは自信がなさそうだ。
「私、しっかり読み書きを学びたいんです」
「読み書き? そんなもの、覚えてどうするんだ」
「こちらにあるような、植物の……薬草の育て方や調合を学びたいんです」
「そんなこと――まさか、本気でいっているのか?」
あからさまで、仮面からも訝しむ気配が漂い出ている。
「こんなもの、女性が――貴族の女性がたしなむことじゃない」
あっさりとアイオンから発せられた言葉に、トゥッツィリアはかちんときた。
いつもなら顔に出ないよう気を遣うが、いまは眉をひそめるに任せる。
「気に障ったようだが、真実だ。土いじりを学んだところで、誰にも誇れないぞ」
「あんなにたくさんの本と、この種の山を見れば……アイオンさまがたくさん学ばれたのがわかります」
アイオンの語尾をさえぎるようにし、トゥッツィリアはきつい口調になっていた。
「ご自分が学んで実行なさってることを、こんなものだなんて……そんなおっしゃりようはあんまりです」
ずらりと積み上げられた木箱をトゥッツィリアは見つめた。
「貴族らしからぬことを学ぶといって、アイオンさまが非難なさるのはご自由です。でもアイオンさまが……ご自分が手がけてらっしゃることを、そんな卑下するようなことをおっしゃるのは――不愉快です」
「そうか?」
しれっとした返事だった。トゥッツィリアは眉間の皺を深くする。
「そうです。それなら、土いじりを止めてしまえばいいんです」
「こっちの勝手だ。俺がやってることをどういおうと、それも俺の勝手だ」
「なら私が学びたいというのも、私の勝手です」
頭に血がのぼっていく。ストールのはしを、トゥッツィリアはぎゅっとにぎりしめていた。かすかな頭痛がするくらい頭にきている。憤りすぎて、まなじりに涙が浮かんできていた。
「泣くな。おまえが泣くようなことじゃない」
しゅんしゅんと音を立て、湯が沸いた。
ちょっと前にはほっとする音だったのに、すっかり変わってしまった。まるでトゥッツィリアをあおり立てているような。
頭に血が上ったトゥッツィリアは、怒りにまかせて小鍋に茶葉を放りこんだ。
「おい! 茶の淹れ方、まさか知らないのか?」
「知ってます!」
あわてたアイオンの声に、トゥッツィリアは大声で返していた。
はやくも濃い茶色になった湯の表面が、ボコボコと煮立っている。見るからに苦そうで、よこからアイオンが手をのばした。
「茶葉を無駄にする気か!?」
「どう淹れようが私の勝手です!」
「屁理屈をいうな! こんなにして、おまえ飲めると思うのか!」
「アイオンさまが飲まないなら、私が飲みます!」
トゥッツィリアはなぜ自分が大きな声を張り上げているのか、わからなくなっていた。
アイオンが彼自身のしていることをどう評しようが勝手だ。トゥッツィリアがどうこう口をはさむことではない。
トゥッツィリアの求める知識が貴族の女子が学ぶべきことではないと、アイオンはそれを訴えたいのだろう。
わかっている。でもだからといって、彼が自分のしていることを卑下する、そんな言葉を聞くのがいやでならない。
スープボウルに茶葉を越し、アイオンは真っ黒になっているそこに水を足した。すかさず、くるりと背中を向ける。トゥッツィリアから顔を背けた状態で、味を見ているようだ。
「……まずい」
ひどい声で、トゥッツィリアはぐっと言葉を飲みこんだ。
「こんないい茶葉は……なかなか差し入れてもらえないんだぞ。恨むからな」
「私だって、アイオンさまがひどいいい方をしたこと……恨みます」
「俺のことにどうして首を突っこむ? おまえにそんなふうに突っかかられる覚えはないぞ」
トゥッツィリアにもよくわからない。
親しくなりたいだけなのに、どうしてこんな激昂してしまうのか。馬鹿げたことをしてしまっている。胸のうちでは反省しているのに、口から出てこない。頭は湯のように沸騰していて、まだアイオンにいい返す言葉を探してしまっていた。
「帰れ」
「……いやです」
「ならこのまずい茶で歓談でもしようっていうのか? もうこの茶はべつのことに使うから、鍋も全部そのままにしておけ」
「飲みます」
「帰れ!」
「いや!」
アイオンの手からスープボウルを奪うと、中身がこぼれて手を濡らした。熱い液体にトゥッツィリアが怯んだ一瞬に、また彼にボウルを取り返されてしまった。
「大丈夫か、おい……火傷はしてないか!?」
振り返ったトゥッツィリアの目は、棚でカップと肩を並べる酒の瓶で止まった。
流しにボウルを置き、トゥッツィリアは酒を手に取る。
「トゥッツィリア!?」
息を止め、トゥッツィリアは一気に酒をあおった。
「この――馬鹿!」
のどが、気管が焼けるようだ。口から胃にかけて、火の道ができたように錯覚してしまう。
こらえようとしたが、一度咳きこむと止まらない。アイオンの手が背を撫でた。
「水を飲め、なにをやってるんだおまえは!」
咳の発作が消え、火の道は熱さがやわらいだ。まだひりひりしている。
「お酒のにおいが消えるまで、帰りません」
頭がふらついた。
「それでも帰れとおっしゃるなら、まっすぐ司祭さまのお部屋にいって……アイオンさまとお酒を飲んだ、って告げ口します」
「……それは告げ口じゃない。いいがかりだろう」
急激に酒気がまわってふらついた頭を、アイオンの腕に押しつけた。彼は逃げない。だからトゥッツィリアは、彼にそのまま体重を預けた。
「わ、私、本の内容がわからなかったから、教えてほしかったんです」
口からは言葉が出て、目からは涙が出そうになる。
「はっきりいうが……おまえは学ぶだけ無駄だ。生かせない。それでいいのか? 土いじりはおまえのような身分のものがすることではない」
「もしもちゃんとした植物の……薬草の知識を持って、育てられたら……って、そんなことを考えるようになって」
貴族の娘としてぼんやり時間を過ごしてきたトゥッツィリアは、はじめて自分で動こうとしていた。
知識も経験もなくとも、なにかできることがあるのではないか。これからはじめてもいいのではないか。寡婦となり、家同士の絆をつくって終わるだけの人生を送らずにすむのではないか。
修道士でありながら、教会内で唯一人間らしく映ったアイオンは、トゥッツィリアには刺激のかたまりだった。
トゥッツィリアが持っていない知識を持ち、トゥッツィリアの常識にない生活を送り、トゥッツィリアがこれまでにいわれたことのない粗雑な言葉をかけてくる。彼から目が離せない。
アイオンの手がトゥッツィリアの肩を包んだ。
彼への興味は留まるところを知らないのだ。
この仮面を被った怪人に邪険な言葉をかけられても、奥には悪意や害意が感じられない。
自分が迷惑をかけている自覚もあった。
そうしてでも、トゥッツィリアはアイオンの近くにいたかった。話をしたい。
アイオンの腕に、頬をさらに押しつけた。
「やっぱりおまえは、警戒心が足りない」
「アイオンさまを……警戒したくないです」
なにを警戒すればいいのだろう。出会った当初から、彼は自分自身の言葉でトゥッツィリアに警告し、注意をうながしてくれた。熱を出せば気遣ってくれた。
教会に留まる面々のなか、彼だけが剥き出しの感情を持っている。
アイオンの胸がかすかにふるえた。笑ったのだ。
「そんなに俺は、安全そうか?」
「なんていったらいいのか……アイオンさまのことを、もっと知りたいんです。警戒して……遠ざかって、アイオンさまのことを知る機会を逃すのは……いやです」
彼を知って日は浅い。彼を知らなかった日々があったことを思い、トゥッツィリアは胸が苦しくなった。トゥッツィリアの知らない彼の日々。知らないでいたことが口惜しい。
トゥッツィリアは顔を上げた。のっぺりとした仮面に、表情は一切ない。
はっと気がついたことがあった。
――私、アイオンさまを。
胸が苦しい。
初恋の思い出をなつかしむときより、ずっと重くて甘い。
――アイオンさまのことが。
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