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遡った時間
47:皇女の部屋
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アケロンの言葉を聞くや私は王宮の部屋に戻っていた。
現れた私にアガタ、コラーロ、トゥットは驚きつつも少し安心したように深呼吸をした。
「良かった。間に合いましたね」
「何か起きているの?」
「それが…」
言い淀むコラーロにトゥットが代わりに答え始める。
「今さっきまで、扉の向こうでサラ様がいらっしゃっていました」
「また?この間も、その前も私のところへ『自分の怒りは溶けた』と言いに来ていたらしいけどまだ良い足りないのかしら」
呆れた、とため息をついているとアガタが首を横に振る。
「扉の前で騒いでいたのはおなじみでしたが、内容がこれまでと違いました」
「今までの件ではなく、今日は皇女様にご自分のアクセサリーがなくなったと言いに来たのです」
「『皇女様、私が先日お見せしましたカメオをご存知ありませんか?あれは亡き祖母の形見なのです。もしお心当たりがあれば、こっそりでも良いので教えて下さい』って、大声で叫んでて僕ビックリしたんです。何で落とし物のことを皇女様に聞くんだろうって」
トゥットの非常に巧いモノマネに吹き出しそうになっていると、コラーロがトゥットを窘めた。
「冗談を言っている場合じゃないでしょう。ーー騒がれるだけでしたら、まだ良いのですが、あまりに泣き叫ぶのでオケアノス殿下がいらっしゃられたのです。臥せっているからと私がお断りをさせていただきましたがーーそのぅ」
なーんとなく、状況が読めて来た。
サラの大切な物がなくなった。そしてそのカメオは先日私に見せていて、大切な物であると教えていた。それをあえて私に聞くと言うことは…
「私が嫌がらせで盗んだと言いたい訳ね」
「そうなのです」
「とは言っても、私外に出ていないし、カメオ見せてもらった覚えもないけれど」
と言えば、アガタが眉を垂らしてテーブルを指差しながら、真っ青な顔をしている。
指し示された場所を見れば、見たこともないカメオが置いてある。しかも、カメオ自体にヒビが入っているではないか。
「ええっと…これはどうしたの?」
4人とも近寄りたくないのか、遠巻きにそのカメオを囲んでいると、3人が並んで私に頭を深く下げた。
「「「大変申し訳ございません」」」
そのままアガタが続ける。
「この部屋には誰も入らないように重々注意していたのですが、今朝、数分3人ともがこの場を離れたのです。そうしましたら、いつの間にかここにこれが…」
「一番始めに僕が気がついたんです。それで戻って来たアガタに『これは皇女様の?』って聞きましたら、違うと。そうしていると外が騒がしくなり、良く聞いていたら先ほどの通りになりました」
「そうしまして、最終的にオケアノス殿下が来まして、一旦は断ったのですが部屋を改めれば分かると仰って…。せめて皇女様が準備するまで待っていただくようにお願いしまして、10分後にいらっしゃる状況です」
ではこの廊下がざわついているのは、私が逃げないように、もしくは盗んだカメオを何処かにやらないように人を置いていると言うことね。全く、色々考えるじゃないの。
とりあえず、どうやってここに置いたのかは後で考えることにしましょう。
それよりもまずやらなきゃならないのは…
「アガタ、トゥット」
「「はい」」
「ふたりはそのカメオを持って、クローゼットの中の扉を通ってシュケレシュの本部に行っておいて。ああ、直接持ってはダメよ」
「え?どうしてですか。僕も何かお手伝いを」
「ありがとう。でも気持ちだけで良いわ。私の侍女は表向きはアガタだけだから、3人もいたらそれこそ疑惑をかけられるわ」
「ですね。それで私本人がオケアノス殿下達に会ってしまうともう、幻術は出来なくなってしまうからね。コラーロであれば幻術をしなくとも私のフリもできますし」
「そういうこと。そしてトゥットにも行ってもらうのは、シュケレシュで宝石とか魔道具の鑑定が出来る人がいたらその人にこのカメオを調べてもらっていて欲しいのよ」
魔法道具、カエオレウムにそんな物があるとは思えないけれど、念のために調べておいて欲しいし。これが何か記録出来る物だったりしたらコトだわ。そうでなくても、カメオの宝飾品としての価値が分かれば少しは手の打ちようがあるでしょう。
なんて悠長にいっている、高圧的な足音とそれに続く軽やかなヒールの音が聞こえてくるじゃない。このセットの音を聞くのも久々ね。過去ではこの並んだ足音を聞くのも憂鬱だったけど、今じゃ苛つくだけだわ。
さて、観客をご用意いただいて私を悪役にしようとしているヒロイン様と少しお話をしましょうか。
持っている宝石の中でも大振りなネックレスとイヤリングをつけ、コラーロにもいくつか宝石を付けさせる。
そうして準備ができた所で、コラーロは高慢な笑みを浮かべながら私の部屋を叩く、無礼者達に扉を開いてやるのだった。
現れた私にアガタ、コラーロ、トゥットは驚きつつも少し安心したように深呼吸をした。
「良かった。間に合いましたね」
「何か起きているの?」
「それが…」
言い淀むコラーロにトゥットが代わりに答え始める。
「今さっきまで、扉の向こうでサラ様がいらっしゃっていました」
「また?この間も、その前も私のところへ『自分の怒りは溶けた』と言いに来ていたらしいけどまだ良い足りないのかしら」
呆れた、とため息をついているとアガタが首を横に振る。
「扉の前で騒いでいたのはおなじみでしたが、内容がこれまでと違いました」
「今までの件ではなく、今日は皇女様にご自分のアクセサリーがなくなったと言いに来たのです」
「『皇女様、私が先日お見せしましたカメオをご存知ありませんか?あれは亡き祖母の形見なのです。もしお心当たりがあれば、こっそりでも良いので教えて下さい』って、大声で叫んでて僕ビックリしたんです。何で落とし物のことを皇女様に聞くんだろうって」
トゥットの非常に巧いモノマネに吹き出しそうになっていると、コラーロがトゥットを窘めた。
「冗談を言っている場合じゃないでしょう。ーー騒がれるだけでしたら、まだ良いのですが、あまりに泣き叫ぶのでオケアノス殿下がいらっしゃられたのです。臥せっているからと私がお断りをさせていただきましたがーーそのぅ」
なーんとなく、状況が読めて来た。
サラの大切な物がなくなった。そしてそのカメオは先日私に見せていて、大切な物であると教えていた。それをあえて私に聞くと言うことは…
「私が嫌がらせで盗んだと言いたい訳ね」
「そうなのです」
「とは言っても、私外に出ていないし、カメオ見せてもらった覚えもないけれど」
と言えば、アガタが眉を垂らしてテーブルを指差しながら、真っ青な顔をしている。
指し示された場所を見れば、見たこともないカメオが置いてある。しかも、カメオ自体にヒビが入っているではないか。
「ええっと…これはどうしたの?」
4人とも近寄りたくないのか、遠巻きにそのカメオを囲んでいると、3人が並んで私に頭を深く下げた。
「「「大変申し訳ございません」」」
そのままアガタが続ける。
「この部屋には誰も入らないように重々注意していたのですが、今朝、数分3人ともがこの場を離れたのです。そうしましたら、いつの間にかここにこれが…」
「一番始めに僕が気がついたんです。それで戻って来たアガタに『これは皇女様の?』って聞きましたら、違うと。そうしていると外が騒がしくなり、良く聞いていたら先ほどの通りになりました」
「そうしまして、最終的にオケアノス殿下が来まして、一旦は断ったのですが部屋を改めれば分かると仰って…。せめて皇女様が準備するまで待っていただくようにお願いしまして、10分後にいらっしゃる状況です」
ではこの廊下がざわついているのは、私が逃げないように、もしくは盗んだカメオを何処かにやらないように人を置いていると言うことね。全く、色々考えるじゃないの。
とりあえず、どうやってここに置いたのかは後で考えることにしましょう。
それよりもまずやらなきゃならないのは…
「アガタ、トゥット」
「「はい」」
「ふたりはそのカメオを持って、クローゼットの中の扉を通ってシュケレシュの本部に行っておいて。ああ、直接持ってはダメよ」
「え?どうしてですか。僕も何かお手伝いを」
「ありがとう。でも気持ちだけで良いわ。私の侍女は表向きはアガタだけだから、3人もいたらそれこそ疑惑をかけられるわ」
「ですね。それで私本人がオケアノス殿下達に会ってしまうともう、幻術は出来なくなってしまうからね。コラーロであれば幻術をしなくとも私のフリもできますし」
「そういうこと。そしてトゥットにも行ってもらうのは、シュケレシュで宝石とか魔道具の鑑定が出来る人がいたらその人にこのカメオを調べてもらっていて欲しいのよ」
魔法道具、カエオレウムにそんな物があるとは思えないけれど、念のために調べておいて欲しいし。これが何か記録出来る物だったりしたらコトだわ。そうでなくても、カメオの宝飾品としての価値が分かれば少しは手の打ちようがあるでしょう。
なんて悠長にいっている、高圧的な足音とそれに続く軽やかなヒールの音が聞こえてくるじゃない。このセットの音を聞くのも久々ね。過去ではこの並んだ足音を聞くのも憂鬱だったけど、今じゃ苛つくだけだわ。
さて、観客をご用意いただいて私を悪役にしようとしているヒロイン様と少しお話をしましょうか。
持っている宝石の中でも大振りなネックレスとイヤリングをつけ、コラーロにもいくつか宝石を付けさせる。
そうして準備ができた所で、コラーロは高慢な笑みを浮かべながら私の部屋を叩く、無礼者達に扉を開いてやるのだった。
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