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遡った時間
41:噂と美しい侯爵令嬢と皇女
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フルクトスと一緒にアケロンの授業に参加するようになってしばらく経った。
残念なことに私の頭では全く2人の会話についていけないことが分かっただけでも十分な収穫だ。
「皇女様、厨房のレアが言ってましたけど、王太后が侍女を探しているらしいですよ」
トゥットが私の食事を運びながら王宮内の情報を教えてくれる。アガタの容姿で人懐っこいトゥットの性格であれば、周囲の男性陣からの好感度は最高レベルになるから情報収集も簡単でしょう。そんなトゥットなので、いつの間にかアガタよりもコラーロよりも、王宮内で働く面々と仲良くなってしまっている。
「あら、思ったより遅かったのね。ーーコラーロ前に話した件だけど、どうする?」
「最早王宮の中には入り込めていますし、わざわざ面接を受ける必要はございますか?一応、ウンディーネ様からは紹介状を書いていただいておりますが」
そう言って、美しい緑色の封筒を私にくれる。
3番目の姉であるウンディーネは姉妹の中で最も几帳面な性格で、その性格を表すように一切の歪みのない宛名の文字であった。その美しい筆記体に見蕩れているとアガタが言った。
「しかし、コラーロがコラーロとして王太后に仕えてしまいますと、もう幻聴の魔法は使えなくなりますね」
「あ・・・たしかにそうだわ。それはもったいないわ。王太后の動きは気になるけど、ここは流しておきましょう。トゥット情報ありがとう」
「いいえ~。あ、あともう一つ。こっちの方が大事かな。アルテムから伝言」
「アルテムから?」
「エッセ侯爵令嬢が皇女様の体調をすごく、凄ーく心配しているそうです」
あああ、しまった。手紙は何度か送ってはいたが、部屋で謹慎をしていると言う建前セールビエンスに会いに行くことも出来ていないのだ。心配しないでとは書いたけれど、陛下の誕生パーティーからきちんとお会い出来ていないとなると心配するなと言う方が無理な話だ。
「アルテムに次にエッセ侯爵家に行く時に私も連れて行ってもらうように伝えておいて」
「承知しました」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな経緯で、今、私はエッセ侯爵家に来ている。けど、向かいに座っているセールビエンスは非常にご機嫌斜めだ。パーティーで陛下に驚かれるくらいに美しくなっていた彼女はしばらく会わないうちに完全に美女になっている。こんな短期間で人間がこんなに変わるなんて、アルテムこそ魔法が使えるのかもしれない。
「ルサルカ様?私、怒ってますのよ」
ぷんっ、という効果音がつくように頬を膨らませている。
「私が不義理をしてしまったからですよね。許して下さいとも申し上げられませんが…申し訳ございません」
「違いますわっ!何故、ルサルカ様が謹慎なさる必要があるのです?陛下のお誕生会であれほど素晴らしい贈り物をご用意して、褒められるべきですのにそのまま引っ込んでしまうなんて!…この国の貴族は単純ですから今の状況だけを見てルサルカ様に非があると思う浅薄な者も居るでしょう」
「知らなかったとはいえ私のせいでサラ様が贈り物が出来なくなってしまったのであれば、心苦しくて…」
「若い令嬢のプレゼントが被るなんてしょっちゅうあることですわ。私の刺繍だって、イグノートス伯爵家の…お名前は失念しましたけど、そこのご令嬢と被りましたし、他にも楽器の演奏や詩の暗唱をされた令嬢も沢山居ります!それに、私も父も陛下に何度も申し上げましたのよ?ルサルカ様がワザとサラ様の贈り物と被せるようなことをする訳がない、する意味もないと」
「まぁ…セールビエンス様だけではなく、エッセ侯爵までも?」
「ええ。父は『ペルラからいらしたルサルカ様が歌を贈るのは当然』とも申しておりました」
「お2人にだけでもそう言っていただけて良かったです」
本当に。少なくとも2人には私に非がないと思ってもらえていれば良い。
その他の貴族なんて今の所大きな問題ではないから。
「私たち2人だけではございませんよ」
「え?」
「ルサルカ様のマナーを担当されているドゥ伯爵夫人なんて『サラ様が歌をお勧めされていたように聞こえました』と、先日どこぞの伯爵家のサロンでお話されていたとか。それに私の従兄弟の男爵も社交サークルで同じことを言っていたらしいです」
「あら、とある男爵と懇意にされているのですか?」
そう揚げ足を取ると、セールビエンスは真っ赤になった。
「ちがいます!ただの従兄弟ですから!!まぁ、もともとドゥ伯爵はテンペスタス子爵とはソリが合わないらしいので、ドゥ伯爵夫人がルサルカ様の肩を持つのは分かりますが、従兄弟の家は、当家と同じ侯爵位なんですが、特にテンペスタス子爵と交流がある家柄です。従兄弟自身の意見でもありますが、個人的な意見を社交サークルで言う訳がないですし」
「そうなのですね。ーー少々安心いたしました。まぁ、謹慎していると言っても、こっそりこうして外出はしていますが、この国の全ての方が私の行動を悪しき物だと思っていないと分かって、安心いたしましたわ」
「当然ですよ!!」
そしてセールビエンスが今言った話はもう一つ良い意味合いを持っている。
過去の私は気がつかなかったけれども、テンペスタス子爵の周囲にも反対派閥は居るということ。そして、ドゥ伯爵家は反対派閥だということ。
これは何よりも良い傾向かもしれない。
残念なことに私の頭では全く2人の会話についていけないことが分かっただけでも十分な収穫だ。
「皇女様、厨房のレアが言ってましたけど、王太后が侍女を探しているらしいですよ」
トゥットが私の食事を運びながら王宮内の情報を教えてくれる。アガタの容姿で人懐っこいトゥットの性格であれば、周囲の男性陣からの好感度は最高レベルになるから情報収集も簡単でしょう。そんなトゥットなので、いつの間にかアガタよりもコラーロよりも、王宮内で働く面々と仲良くなってしまっている。
「あら、思ったより遅かったのね。ーーコラーロ前に話した件だけど、どうする?」
「最早王宮の中には入り込めていますし、わざわざ面接を受ける必要はございますか?一応、ウンディーネ様からは紹介状を書いていただいておりますが」
そう言って、美しい緑色の封筒を私にくれる。
3番目の姉であるウンディーネは姉妹の中で最も几帳面な性格で、その性格を表すように一切の歪みのない宛名の文字であった。その美しい筆記体に見蕩れているとアガタが言った。
「しかし、コラーロがコラーロとして王太后に仕えてしまいますと、もう幻聴の魔法は使えなくなりますね」
「あ・・・たしかにそうだわ。それはもったいないわ。王太后の動きは気になるけど、ここは流しておきましょう。トゥット情報ありがとう」
「いいえ~。あ、あともう一つ。こっちの方が大事かな。アルテムから伝言」
「アルテムから?」
「エッセ侯爵令嬢が皇女様の体調をすごく、凄ーく心配しているそうです」
あああ、しまった。手紙は何度か送ってはいたが、部屋で謹慎をしていると言う建前セールビエンスに会いに行くことも出来ていないのだ。心配しないでとは書いたけれど、陛下の誕生パーティーからきちんとお会い出来ていないとなると心配するなと言う方が無理な話だ。
「アルテムに次にエッセ侯爵家に行く時に私も連れて行ってもらうように伝えておいて」
「承知しました」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな経緯で、今、私はエッセ侯爵家に来ている。けど、向かいに座っているセールビエンスは非常にご機嫌斜めだ。パーティーで陛下に驚かれるくらいに美しくなっていた彼女はしばらく会わないうちに完全に美女になっている。こんな短期間で人間がこんなに変わるなんて、アルテムこそ魔法が使えるのかもしれない。
「ルサルカ様?私、怒ってますのよ」
ぷんっ、という効果音がつくように頬を膨らませている。
「私が不義理をしてしまったからですよね。許して下さいとも申し上げられませんが…申し訳ございません」
「違いますわっ!何故、ルサルカ様が謹慎なさる必要があるのです?陛下のお誕生会であれほど素晴らしい贈り物をご用意して、褒められるべきですのにそのまま引っ込んでしまうなんて!…この国の貴族は単純ですから今の状況だけを見てルサルカ様に非があると思う浅薄な者も居るでしょう」
「知らなかったとはいえ私のせいでサラ様が贈り物が出来なくなってしまったのであれば、心苦しくて…」
「若い令嬢のプレゼントが被るなんてしょっちゅうあることですわ。私の刺繍だって、イグノートス伯爵家の…お名前は失念しましたけど、そこのご令嬢と被りましたし、他にも楽器の演奏や詩の暗唱をされた令嬢も沢山居ります!それに、私も父も陛下に何度も申し上げましたのよ?ルサルカ様がワザとサラ様の贈り物と被せるようなことをする訳がない、する意味もないと」
「まぁ…セールビエンス様だけではなく、エッセ侯爵までも?」
「ええ。父は『ペルラからいらしたルサルカ様が歌を贈るのは当然』とも申しておりました」
「お2人にだけでもそう言っていただけて良かったです」
本当に。少なくとも2人には私に非がないと思ってもらえていれば良い。
その他の貴族なんて今の所大きな問題ではないから。
「私たち2人だけではございませんよ」
「え?」
「ルサルカ様のマナーを担当されているドゥ伯爵夫人なんて『サラ様が歌をお勧めされていたように聞こえました』と、先日どこぞの伯爵家のサロンでお話されていたとか。それに私の従兄弟の男爵も社交サークルで同じことを言っていたらしいです」
「あら、とある男爵と懇意にされているのですか?」
そう揚げ足を取ると、セールビエンスは真っ赤になった。
「ちがいます!ただの従兄弟ですから!!まぁ、もともとドゥ伯爵はテンペスタス子爵とはソリが合わないらしいので、ドゥ伯爵夫人がルサルカ様の肩を持つのは分かりますが、従兄弟の家は、当家と同じ侯爵位なんですが、特にテンペスタス子爵と交流がある家柄です。従兄弟自身の意見でもありますが、個人的な意見を社交サークルで言う訳がないですし」
「そうなのですね。ーー少々安心いたしました。まぁ、謹慎していると言っても、こっそりこうして外出はしていますが、この国の全ての方が私の行動を悪しき物だと思っていないと分かって、安心いたしましたわ」
「当然ですよ!!」
そしてセールビエンスが今言った話はもう一つ良い意味合いを持っている。
過去の私は気がつかなかったけれども、テンペスタス子爵の周囲にも反対派閥は居るということ。そして、ドゥ伯爵家は反対派閥だということ。
これは何よりも良い傾向かもしれない。
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