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遡った時間

17:皇女は商人に気前良く支払う

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話が大分逸れてしまったわ。
過去の話は出来ないとして、とりあえずフルクトスとアケロンを会わせたいという事をやんわりと皆に伝えなくてはならない。

「ほぉ~、カエオレウムには王子が2人いるのですか」
聞き覚えのある、丁寧だけど少し陽気な口調。
「会頭!」
それにかぶせるように嬉しそうなトゥットの声がする。
「シドンじゃない。久しぶりね」
「皇女様もお元気そうで何よりです。ウチのトゥットはお役に立てていますか?」
「十分働いてくれているわ。お陰でアガタを人前に出さないですんでますもの」
「それは良かった。我々も皇女様のお陰で儲けさせていただいております」
そう言ってシドンはアガタに赤子くらいの袋を渡した。
「おっ、重いです。シドンさん、これはなんですか?ーーって金貨!?」
「皇女様が流行らせてくれた軟膏のお陰で儲けた分の、取り分ですよ」
「もうそんなに流行ったの」
予想よりも早い。
まだあれから1ヶ月も経っていないのに。
「ドゥ伯爵夫人という女性はお知り合いですか?彼女の人脈と、更には彼女の義理の姉が流行の最先端らしく、一気に社交界に広まってくれましたよ。お陰で我々も今首都に居る流行に敏感な貴族とは大体接点ができました。そのお礼も含めました」
「そうーーじゃあこれを渡すから、次の仕事をお願いしても良い?」

私の言葉にコラーロが唖然として口を開けたまま、アガタの方を向いていると、同じようにアガタもコラーロの方を見ていた。
2人だけではなくシドンも意外そうに顎に手を当てて私を見つめている。
「ペルラに持って行けと仰ると思っていましたが…よろしいんですか?」
「今更これだけあっても、焼け石に水だし、もう少しまとまらなきゃ貧しい祖国ペルラには意味ないわね。今のところはお父様には貿易の方で儲けさせて差し上げて」
「勉強になります。それで、この国に使うには少ないけれどちょっとしたひと財産で何をなされるんですか?」
「コラーロ」
「はい、皇女様」
呼びかけた瞬間、惚けていたコラーロが一気に真面目な声になったのが少し面白かった。
「アケロンと連絡は取れる状態かしら?」
「勿論です。これを使えと渡されました」
そう言って、来た時にくれた灰色の封筒と便せんを取り出して机に置いてくれたので、その場で『フルクトス・ネレウスに教育を施して欲しい』とだけ書き、封筒に仕舞った。
すると封筒は勝手に封蝋を止め、何処かへと消えて行ってしまった。
恐らくアケロンの魔法だろう。
不思議な光景を見たトゥットが小さく感嘆の声を上げている横で、シドンは私の答えを待っている。
気になっているけども皇女を急かすのは失礼とでも思っているのか、それとも自分が興味を持っていることを隠したいのかーー後者だと思う。

「これはフルクトスを教育する事と牢屋から脱出させるのに使って欲しいの」

私がにっこりと微笑んでいると、見る見るうちにシドンが呆れたような表情になって行くのが分かった。
世間知らずの考えだろうと思っているのだろう。

「勿論、すぐに出来るとは思っていないわ。私にだって考えがあるの。時間をかけて、まずは牢屋の門番や監視員とかを懐柔して行くのにそのお金を使って頂戴。そして第一段階として、フルクトスに面会をさせてくれるようにしたいのよ」
「私はそのフルクトス殿下ーー」
「殿下ではないわ。ただのフルクトスと言わなきゃだめ。彼に王位継承権があった事を知っている人はもうほとんどいないわ。知っていると分かったら逆に会わせてもらえないでしょうね」
「わかりました。フルクトスに会えるようにしましょう。とはいえ結構政治的な関与が必要そうですが…失礼ながら皇女様にそのつてはあるのでしょうか?」

シドンの質問に私は再びにっこりと唇に弧を浮かべてみせた。
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