上 下
61 / 62
その後の私たち

エルフとドワーフ

しおりを挟む
言い伝えなんて物は案外いい加減な物でねじまがって残ってることだってある。

「そういやぁ、あんときゃ深く考えてなかったがよ」
エルデールで荷造りをしている私を手伝う為にやってきた昔なじみのドワーフが語りかける。
「あの時っていつかな。フォジュロンがドラゴン退治をするってミスリルの斧を族長から盗んじゃった時?それとも君の伯父のヴェルンドが僕らのクニに侵攻しようとした時?」
「んな古い話じゃねェ。この間のグランメションの坊ちゃんの件だ」
「ああ。あそこまで無事に戻ってくるとは思わなかったよ」
私の言葉にフォジュロンは軽蔑するように片方の眉を持ち上げる。フォジュロンは私と違い人間と共生するのに抵抗がないのだ。
「まぁ、おェのことを思えば一概に非難するつもりはねェがな、あの子らは無関係だろうに」
「そうだね。私のエトランジュを騙してアルダーズの闇を取り込ませたのは別の人間だね☆」
そんな投げやりな言葉を断ち切るようにフォジュロンはため息をついて、私の荷造りを手伝い始めた。こんなに長らく腰を据える気はなかったけど、人間は少ないし精霊が多いしと居心地が良くて気がついたら大分荷物が溜まっていた。
アルダーズの件が無事に終わったのだから私がここにいる必要ももうない。
最後に質素な部屋の壁にかかった絵を外したところで、ようやく終わりの目処がみえた。

一区切りひとくぎりつこうと言うように私はフォジュロンの話を再開させる。
「ーーで、シニフェ君とエノーム君と筋肉……プラン君がなんだって?」
「いやな、ワシらは昔っから『アルダーズは英雄が槍を突き刺す事で解放される』って教わってきただろ?それなのにガスピアージェの坊ちゃんがアルダーズを消滅させちまったんが腑に落ちねェんだよな。精霊の状況を見る限り上手く還せたには間違いねェが……」
「ああ、それは私も不思議だった」
?」
「うん。いくら人間嫌いとはいえね、この件に相談もしないで巻き込んだことは私だって悪いと思ってるんだよ。だから最後にシニフェ君にはちゃんと謝ったんだ。その時に聞いた」
残っていたカップとポットへ暖めたお湯を注ぐと、白い湯気が立ち上る。
私の話を聞いていたフォジュロンがその湯気を静かに瞳だけで追っていた。
昔からフォジュロンは私の上手くない話をこうして黙って聞いてくれる。同族エルフ同士でもさじを投げる私の話下手に付き合ってくれていたのは子供の頃から彼とエトランジュだけだった。

「シニフェ君、エトランジュの事を知ってたんだよ。凄いよね」
「ほう?しかしエトランジュが居た時ってのはグランメションの坊ちゃんどころが今の侯爵すら…」
「うん。なんか彼が元々居た世界に『ゲーム』っていうサガがあるんだって。そこにね、フォジュロンも僕もそんでちょっとだけどエトランジュも出てくるんだってさ。おかしな子だよね。ほんと」
カップを手渡しながら私が笑うと、フォジュロンが微笑ましそうに私を眺めているのが分かった。
自分でも人間とのエピソードをこんな風に話せる日が来るとは思っていなかったけれど、彼らであれば今後大丈夫になるかもしれない。
「そんで、シニフェ君もアルダーズに聞いたらしいけど、エノーム君にアルダーズは残ってた力をほとんど渡しちゃってたらしい。元々持ってた力の大半は、僕らが聞いてた通りに英雄と槍に渡しちゃってたからそれよりは少ないけど、その残った力」
「ん?ちゅーと、あれか?」
「そう!私がエノーム君を『僕らに近い』って言った理由はそれだったわけ」
「ほー。するってぇと、ガスピアージェの坊ちゃんもある意味英雄になっとったわけか」
「そうなんだよ。でも本人は知らないだろうし、興味もなさそうだよね」
あの妙な子供達の関係性はとても興味深い。
献身的とも言えるし盲目的とも言える。特にエノーム君については利他的とさえ言っても良い。
始めはそうならなきゃ生きていけなかった哀れな人間と思ってたけども、どうやら本人が好きでそうしているらしいので、人間とは面白いと思った。
そんな事を思って私が更に笑っているとフォジュロンも笑っていた。

「坊ちゃん方も変わっとるが、ホレ、あの英雄の坊ちゃんも不思議な子だったなぁ」
「あー、フォジュロン、あれは変わってるというよりも変態って呼ばれる類いの人種だよ」
「なんじゃそりゃ」
「シニフェ君達より先に彼に出会っていたら、私はあっちと仲良くなっていたかもしれないよ☆」
「ほー、いいじゃねぇか。今からでも仲良くなりゃ。ちょうどアレしばらく放浪するんだろ?」
「エトランジュに報告しに行かなきゃいけないから、そっち行ってその後すこしブラブラするよ。…フォジュロンも来るかい?」
「いいや、ワシは今度こそ最強のミスリルの斧を作ってドラゴンに挑まにゃならんからな」
「そっか」

どちらからともなく持っていたカップを置くと、フォジュロンは開いていた窓を閉め始める。そして、少し瞬きをして不思議そうにしていた。
「ありゃ?おェ、この間ワシが壊した窓ちゃんと直してねェじゃねェか」
「うん。思い出。全部直しちゃつまらないからね」
私はそう言って、今使っていたカップを荷物にまぜてから全て魔法の収納空間へ、丁寧に仕舞い込んだ。

仕舞った家財道具をもう一度出す事があるかはわからないけれど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死に戻り悪役令息は二人の恋を応援…するはずだった…。

ましろ
BL
タイトルの通り悪役令息が主人公です。 悪役令息(主人公)…トワ。少しお馬鹿な子(予定) ヒロイン…リュカ。ギャップのある子(予定) 攻め…レオンハルト。ヤンデレ 攻めのことが大好きでヤンデレだったトワが死に戻りをして、突然前世の記憶を思い出します。 そこから、段々とレオンハルトとの関係が変わっていきます。 感想くれたら作者は大喜びします(笑) 文章が拙く、処女作なのですが、暖かく見守ってください。(作者学生なので多めにみて欲しいです…)

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

王太子殿下は悪役令息のいいなり

白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う

ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園 魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的 生まれ持った属性の魔法しか使えない その中でも光、闇属性は珍しい世界__ そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。 そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!! サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。 __________________ 誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です! 初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。 誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

悪役無双

四季
BL
 主人公は、神様の不注意によって命を落とし、異世界に転生する。  3歳の誕生日を迎えた時、前世のBLゲームの悪役令息であることに気づく。  しかし、ゲームをプレイしたこともなければ、当然のごとく悪役になるつもりもない主人公は、シナリオなど一切無視、異世界を精一杯楽しんでいく。  本人はただ楽しく生きてるだけなのに、周りはどんどん翻弄されていく。  兄も王子も、冒険者や従者まで、無自覚に愛されていきます。 いつかR-18が出てくるかもしれませんが、まだ未定なので、R指定はつけないでおきます。 ご意見ご要望お待ちしております。 最後に、第9回BL小説大賞に応募しております。応援よろしくお願いします。

処理中です...