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私の主人、大きな木の下で待ちわびる
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「まさか休暇中の学校に行きたいと仰るとは思いませんでした」
「んー?家にいるのも退屈だし、買い物って気分でもないし、プラン居ないのに食事に行くのもなんだし。嫌だったか?」
「いいえ、別に学校が嫌と申し上げているのではないのですが『この場所』というのが少々」
因縁めいておりますので。
目の前にあります木はあれでしょう?
シニフェ様がクーラッジュを吊るすハズだったという木でしょう。それ以外何もない場所ですから、目的はこの木ということになります。
「俺も精霊を見てみたくてさ。この木だったら精霊が居るかもしれないだろう?」
「ーー本当に勘弁してください。私は心臓が潰れると思ったのです」
「ふふっ。悪かったよ。でも一回見てみたいんだよー。ねっ、ね、ちょっとだけだから!それにここなら授業で何度も近寄ってるけど何ともなかったし、居ても少しだけだろうしさ」
「まぁ確かに演習の授業でここを使っていて精霊が出て来た事はございませんが……。とはいえ危険がないとは言い切れませんし、その件だけではなく今は寒いのでずっとここに居りますとお風邪を召されますよ」
「『お母さん』みたいだなぁ」
「侯爵夫人ですか?」
と私が申し上げると、何かを懐かしむように薄く笑みをうかべながら否定されました。
そのお顔が何故か寂しげに見え、私は帰りましょうと言えなくなってしまいます。
そうしてなし崩し的にふたり横並びで、木の下で幹にもたれかかりながら腰を下ろしました。
地べたにそのまま座らせるなど嫌だったのですが、止めようとする私に『このままでいい』と引いて下さらないのでそのまま座ることとなったのです。
座ってからのシニフェ様はというと、たびたび下から木の枝を見上げられては、独り言のように「来ないなぁ」と呟いていました。
真剣なご様子で待たれているので、私は黙ってそのお姿を眺めたり、休み中の学校の方に目を向けたりしていました。他に人の影もなく、校舎にも明かりはついていません。よく澄んだ青空の下、辺りは静かで、時折吹く北風が木の葉を揺らす音が妙に大きく聞こえてくるだけです。
もう少ししたら帰るように言った方が良いでしょう。
そう思っていると「寒い」と小さな声がしまして、それに返事をしようとした瞬間、私の左手に何かが触れました。
人肌くらいのものです。
……。
!?
シニフェ様の右手が私の手を握っていらっしゃるではないですか。
幼少からご一緒なので別に手ぐらい珍しい事ではないですが、ここ数年で考えますと8年ぶりくらいの事な気がいたし・・・
手。
たかが手です。されど手なのです。
意識してしまうと妙に緊張してきまして、自分の鼓動が大きく響いてきました。
これでは先日のカジノでのクーラッジュと同じではないですか。あのような気色悪い顔をしていたらどうしましょう。
「クーラッジュ」
「はいっ!?私が、私はクーラッジュのようでしょうか?」
「何変なことを言ってるんだ。お前はエノームだろ?俺の側近、俺のエノームだ。そうじゃなくって、あっち」
聞き返したい点はありましたが指し示された方を向きますと、向こうからクーラッジュが駆け寄って来ていました。
「こんなところで!なんて偶然でしょうか!ご主人様も鍛錬に来たのですか?」
目をキラキラさせ、真っ直ぐな性格ですといった快活さがあります。
しかし実際にはただの真っ直ぐな変態です。
「ただ散歩に来ただけですので。私達はもう帰りますので鍛錬でもなんでもご自由にどうぞ」
「今日は寒いですね!ご主人様の白い肌が赤くなってしまわれて…お許しいただけるなら温めて差し上げたい」
「あー、うん。それは別にいらないかなぁ…エノームもいるし…」
「でも火の精霊ですよ?ガスピアージェ様といえども精霊はお持ちでないでしょう?」
「精霊!?」
クーラッジュはシニフェ様のことを盗聴してるのではないでしょうか。
こんなにもタイミング良く精霊の話を出してくるなんて妙ではありませんか。
しかし、シニフェ様はすでに精霊という言葉に興味津々になっており、そんな姿の方
を引っ張って帰るわけにも参りません。
「いや、なんでもない。精霊は危ないからな…エノーム帰るぞ。帰って『蛇と梯子』の続きをやろう」
おや意外な事に自制心で我慢されましたね。
さすがにクーラッジュ+精霊という組み合わせでは危険を感じたのでしょう。珍しく私の前を歩いて、急かすようにこの場を離れようとされておりました。
「はい、すぐに帰りましょう。それではグロワ様、また学校で」
「それなら私も今日は帰る事にしよう!途中まで一緒に帰っても良いでしょう?」
「私たちは馬車ですので。ーーん?」
なんでしょう。
あのさっきまでクーラッジュが居た場所が光っています。
「グロワ様、あなたは先ほどまで何をしていたのでしょうか?」
「ん?ああ、予習をしていたんですよ。召喚と使役の。ガスピアージェ様でしたら簡単な物でしょうが私には難しくて」
「何を召喚されていたのでしょうか?」
初めに気がついた時よりも光が強くなっているような気が致します。
先ほどクーラッジュは『精霊』とかのたまっていましたが、精霊を使役していたということでしょうか。
「ーーシニフェ様、急いで馬車まで戻りましょう」
「どうしたんだ?」
「分かりませんが嫌な予感が致します!」
「んー?家にいるのも退屈だし、買い物って気分でもないし、プラン居ないのに食事に行くのもなんだし。嫌だったか?」
「いいえ、別に学校が嫌と申し上げているのではないのですが『この場所』というのが少々」
因縁めいておりますので。
目の前にあります木はあれでしょう?
シニフェ様がクーラッジュを吊るすハズだったという木でしょう。それ以外何もない場所ですから、目的はこの木ということになります。
「俺も精霊を見てみたくてさ。この木だったら精霊が居るかもしれないだろう?」
「ーー本当に勘弁してください。私は心臓が潰れると思ったのです」
「ふふっ。悪かったよ。でも一回見てみたいんだよー。ねっ、ね、ちょっとだけだから!それにここなら授業で何度も近寄ってるけど何ともなかったし、居ても少しだけだろうしさ」
「まぁ確かに演習の授業でここを使っていて精霊が出て来た事はございませんが……。とはいえ危険がないとは言い切れませんし、その件だけではなく今は寒いのでずっとここに居りますとお風邪を召されますよ」
「『お母さん』みたいだなぁ」
「侯爵夫人ですか?」
と私が申し上げると、何かを懐かしむように薄く笑みをうかべながら否定されました。
そのお顔が何故か寂しげに見え、私は帰りましょうと言えなくなってしまいます。
そうしてなし崩し的にふたり横並びで、木の下で幹にもたれかかりながら腰を下ろしました。
地べたにそのまま座らせるなど嫌だったのですが、止めようとする私に『このままでいい』と引いて下さらないのでそのまま座ることとなったのです。
座ってからのシニフェ様はというと、たびたび下から木の枝を見上げられては、独り言のように「来ないなぁ」と呟いていました。
真剣なご様子で待たれているので、私は黙ってそのお姿を眺めたり、休み中の学校の方に目を向けたりしていました。他に人の影もなく、校舎にも明かりはついていません。よく澄んだ青空の下、辺りは静かで、時折吹く北風が木の葉を揺らす音が妙に大きく聞こえてくるだけです。
もう少ししたら帰るように言った方が良いでしょう。
そう思っていると「寒い」と小さな声がしまして、それに返事をしようとした瞬間、私の左手に何かが触れました。
人肌くらいのものです。
……。
!?
シニフェ様の右手が私の手を握っていらっしゃるではないですか。
幼少からご一緒なので別に手ぐらい珍しい事ではないですが、ここ数年で考えますと8年ぶりくらいの事な気がいたし・・・
手。
たかが手です。されど手なのです。
意識してしまうと妙に緊張してきまして、自分の鼓動が大きく響いてきました。
これでは先日のカジノでのクーラッジュと同じではないですか。あのような気色悪い顔をしていたらどうしましょう。
「クーラッジュ」
「はいっ!?私が、私はクーラッジュのようでしょうか?」
「何変なことを言ってるんだ。お前はエノームだろ?俺の側近、俺のエノームだ。そうじゃなくって、あっち」
聞き返したい点はありましたが指し示された方を向きますと、向こうからクーラッジュが駆け寄って来ていました。
「こんなところで!なんて偶然でしょうか!ご主人様も鍛錬に来たのですか?」
目をキラキラさせ、真っ直ぐな性格ですといった快活さがあります。
しかし実際にはただの真っ直ぐな変態です。
「ただ散歩に来ただけですので。私達はもう帰りますので鍛錬でもなんでもご自由にどうぞ」
「今日は寒いですね!ご主人様の白い肌が赤くなってしまわれて…お許しいただけるなら温めて差し上げたい」
「あー、うん。それは別にいらないかなぁ…エノームもいるし…」
「でも火の精霊ですよ?ガスピアージェ様といえども精霊はお持ちでないでしょう?」
「精霊!?」
クーラッジュはシニフェ様のことを盗聴してるのではないでしょうか。
こんなにもタイミング良く精霊の話を出してくるなんて妙ではありませんか。
しかし、シニフェ様はすでに精霊という言葉に興味津々になっており、そんな姿の方
を引っ張って帰るわけにも参りません。
「いや、なんでもない。精霊は危ないからな…エノーム帰るぞ。帰って『蛇と梯子』の続きをやろう」
おや意外な事に自制心で我慢されましたね。
さすがにクーラッジュ+精霊という組み合わせでは危険を感じたのでしょう。珍しく私の前を歩いて、急かすようにこの場を離れようとされておりました。
「はい、すぐに帰りましょう。それではグロワ様、また学校で」
「それなら私も今日は帰る事にしよう!途中まで一緒に帰っても良いでしょう?」
「私たちは馬車ですので。ーーん?」
なんでしょう。
あのさっきまでクーラッジュが居た場所が光っています。
「グロワ様、あなたは先ほどまで何をしていたのでしょうか?」
「ん?ああ、予習をしていたんですよ。召喚と使役の。ガスピアージェ様でしたら簡単な物でしょうが私には難しくて」
「何を召喚されていたのでしょうか?」
初めに気がついた時よりも光が強くなっているような気が致します。
先ほどクーラッジュは『精霊』とかのたまっていましたが、精霊を使役していたということでしょうか。
「ーーシニフェ様、急いで馬車まで戻りましょう」
「どうしたんだ?」
「分かりませんが嫌な予感が致します!」
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