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私の主人、領地視察を言いつけられる

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アルダース・ヘルダーという名前には聞き覚えがなかったけど、アルダースっていうだけなら言われてみれば攻略本で読んだ事あった。そっか、無印むいんの時の主人公だわ、うっかりしてた。


ブツブツと独り言を仰っているシニフェ様は少しそっとしておき、私とプランは侯爵夫人と世間話をすることにしました。
「闇が包んだってことは、その子供は闇使いだったってことですか?」
「そう判断出来るわよね。明確には言ってないけど」
プランの質問に侯爵夫人が答えて、更に続けられました。
「だから、侯爵とお付き合いする事になった時には隣国の王パパが渋ったのよね。『闇の魔法使いなんて』って」
「そちらの国では魔王が闇の魔法使いっていうのは常識なんですか?」
私が尋ねると、侯爵夫人は肯定されました。
「ええ、こんな風におとぎ話にもなってるし、みんな知っているわ。だから、今の今までこの国でも常識だと思ってたんだけど…あなた達の顔を見てると知らないようね」
「聞いた事ないし、輸入した本でも見た事ないよ~」
とのプランの意見で、意図的にその事実を排除しているのだと確信しました。

地続きの立地である隣国のおとぎ話がここまで徹底的に排除している不自然さは、この国では伝承させなかったとするほうが自然なくらいです。
そもそも、この国でグランメション侯爵家が最も力を持っているのは周知の事実です。グランメション家の秘術が闇魔法であることは今でこそ誰も知りませんが、昔は『グランメション家=闇魔法の家』というのは周知のことだったのでしょう。その家を連想させる闇魔法を魔王の魔力と言うのが、グランメション家の耳に入ってしまうリスクを避ける為にも、そのおとぎ話を国内で流行らせることは避けたのではないでしょうか。
もしくは、侯爵家が伝承の流布を禁じたという可能性もあります。むしろそちらの方が強そうです。


「それにしてもヘルダーって村の名前なんだ」
私がそんな考えをめぐらせている横でシニフェ様がそんな感想を零されました。
すると侯爵夫人はまたも驚いたような顔をされました。
「シニフェ、ほんとーに知らないの?」
「知らない。お母様、それはどこなの?」
「そこはグランメション侯爵家我が家の領地のひとつよ。将来あなたが管理するんですから、しっかり覚えておきなさい」
やぶ蛇をつついてしまったようで、再びお叱りを受けてしまったシニフェ様はしょんぼりされていました。
しかし、これは訂正させていただきたいです。広大なグランメション家の領地となりますと覚えるのは至難の技ですが、シニフェ様は全て覚えていらっしゃるのです。ですのでこれは侯爵夫人の聞き方が少々いじわるだったかもしれません。そこで私はシニフェ様に小さく耳打ちをしました。
「ヘルダーは隣国風の言い方だと思います。おそらくエルデールのことです」
「エルデール!それなら知ってる。あの領地って確かになんもないな」
「あらやだ。ごめんなさいね、私の言葉のせいだったの?」
侯爵夫人は自分の否を認めると即座に謝っていらっしゃいました。
本当に身分に合わないことをされる方です。


このヘルダー改め、エルデールという土地はは、グランメション家が持っている領地の中で最も北に位置しています。点々とした小さな村々しかなく人口は僅かながら、鉱山が幾つもある地域です。鉱山はこの国でも最大級のものなハズですが鉱山都市がほとんど発展していません。
そう言えばこれまで気にもとめていませんでしたが、エルデールは鉱山としては大規模であり採掘量も高い場所です。それだけの規模なので作業も多いでしょうし採掘者で人が集まっても良さそうですのに、それこそほとんど人がいないのです。
一攫千金を狙う者が集まる事はないにしろ、あれだけの採掘量を僅かな人口でどうやって生み出しているのでしょう。
「侯爵夫人、エルデールに今度お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「勿論良いわよ。でも寒いわよ。私の出身と同じくらいの緯度ですからね」
「防寒して行きますので」
「まぁなんとでもなるわよね。侯爵には伝えておきますから好きな時にお行きなさい。ちょうどいいからシニフェも行って来て領地視察をしてらっしゃい」
「行っていいの?やった!」

侯爵夫人にそう言われたシニフェ様はむしろ喜んでいらっしゃいました。そしてそれを聞いたプランは自分も行くと挙手をするのでした。
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