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私の主人、お話を聞く
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昔々のお話です。
ヘルダーという村に強い魔力を持つ黒髪の男の子が居りました。
男の子に家族はいませんでしたが、男の子はとてもいい子であるのと同時に、魔法がとても上手く、その力で村の物の仕事を助けてやったり、厄災から村を守ってやったりとしていたので村中の人々から愛されていました。
家では一人でしたが、外に出れば皆が男の子に声をかけるのです。
ある日のことでした。
とある国の王様が村にやってくると、魔法を使える者を連れて行きたいと言ったのです。
王様とはいえ、自分達の領主様でもない知らない王様の言う事に村人達は訝しみ、疑いを持ちました。得体の知れない王様に男の子を差し出すのは危険と判断した村人たちは、自分達の村に魔法を使えるものはいないと答えました。
しかし、この村に良くやってくる行商人は言うのです。
「いやおかしいぞ、この村は川が氾濫しても畑が荒れる事はなく、やってくる盗賊も即座に捕らえられている。流行病がここにはこない。そんなことがあるなんて魔法が使える人間がいるに違いない」
王は戦争に向け、少しでも魔法が使える者を集めたかったので行商人の主張を信じて村人が嘘を言っていると考えました。
「嘘をつくとお前達の命はないぞ」
王様がそう強く言っても村人達は「いない」と一点張りです。諦めきれない王様はとうとう軍隊を送り込みました。脅威がやってくれば魔法使いが現れると思ったのです。
しかし、村人はそれでも男の子を守り続けました。
そして軍隊が来ることを知ると男の子を村はずれの倉に閉じ込めてしまいました。
「すぐ戻るからね」
村人の1人は男の子に薬草を混ぜたお茶を飲ませ眠ったのを確かめてから、鍵をかけました。
目が覚めた男の子が急いで村に戻ると、そこに広がる光景は残酷な者でした。
自分にすべてを教えてくれた村長、優しかった粉屋のおかみさん、花屋の看板に肉屋の青年、村の中で息をしている者は1人もおらず、優しかった村は血にまみれ赤く染まっていました。
やってきたキズ一つない男の子を見た軍人は彼こそが村人が匿っていた存在だと直感で分かりました。
「お前が、お前こそが」
そう言いかけた瞬間、辺りが真っ暗になりました。
その日は良く晴れた日でした。
雲一つない、青空に燦々と陽の光が降り注いでいたはずでした。
しかし、軍人が言葉を発しだしたその瞬間、光と言う光がなくなりました。月の無い夜よりも嵐の海よりも深く暗い、静かな闇が軍人を包み込みました。
辺り一面がどろりとした闇に飲み込まれてしまうと、その村全体から一切の音が聞こえなくなり、それから村には誰もいなくなりました。
王様は何度も軍隊に使いを送りましたが、行方をたどる事はできませんでしたし、その後何度村に使いや軍隊を送っても誰一人戻ってきませんでした。
あくる日のことでした。
王の城があのときの村と同じく暗闇に包みこまれると、それがその国の最後の日となりました。
人々は言いました。
「ヘルダーの闇に喰われたんだ」と。
以来、その王の国があった場所と村には闇使いがいると人々は言うようになったのです。
◆◆◆
侯爵夫人が語るおとぎ話をまるで幼稚園児のように、座って聞き入った私たちはしばらく無言でした。しかし、シニフェ様がその静寂を破りました。
「あーーっ!?」
唐突に叫ばれるので、その場にいた私も侯爵夫人もプランも驚きで動きを止めます。
どうなさったーー、いいえ、この反応は見覚えがあります。
「シニフェ様まさか、……あれでしょうか」
「2!ツーの方だよ」
「はい?2とは?」
「俺がやってたゲームは続編だったんだ。そーだ、無印の方の話だ、今の」
「「ムイン??」」
侯爵夫人もご自分の息子が変な事を言っていると首を傾げていらっしゃいます。
以前、ゲームというのは小説のような物だとご説明されていましたが、それと照らし合わせると、アルダース・ヘルダーが出てくる小説の事でしょうか。そのように仮定すると、2、というのは2巻という事になりますかね。
「2巻なんですか?」
「いや、俺が2巻」
私達の会話を侯爵夫人は不思議そうに眺めながら、それでも少し嬉しそうにされています。
「プランちゃん、そのお菓子美味しいでしょう。こーんなに格好良くなったのにまだお菓子が好きなんて可愛いわぁ」
「侯爵夫人とても美味しいです!これはなんて言うお菓子なんでしょう?是非ウチでも取り扱いたいです!」
「スフォリアテッラっていうのよー。隣国のお菓子なの。グラン商会で扱うのなら職人を紹介するわね」
ヘルダーという村に強い魔力を持つ黒髪の男の子が居りました。
男の子に家族はいませんでしたが、男の子はとてもいい子であるのと同時に、魔法がとても上手く、その力で村の物の仕事を助けてやったり、厄災から村を守ってやったりとしていたので村中の人々から愛されていました。
家では一人でしたが、外に出れば皆が男の子に声をかけるのです。
ある日のことでした。
とある国の王様が村にやってくると、魔法を使える者を連れて行きたいと言ったのです。
王様とはいえ、自分達の領主様でもない知らない王様の言う事に村人達は訝しみ、疑いを持ちました。得体の知れない王様に男の子を差し出すのは危険と判断した村人たちは、自分達の村に魔法を使えるものはいないと答えました。
しかし、この村に良くやってくる行商人は言うのです。
「いやおかしいぞ、この村は川が氾濫しても畑が荒れる事はなく、やってくる盗賊も即座に捕らえられている。流行病がここにはこない。そんなことがあるなんて魔法が使える人間がいるに違いない」
王は戦争に向け、少しでも魔法が使える者を集めたかったので行商人の主張を信じて村人が嘘を言っていると考えました。
「嘘をつくとお前達の命はないぞ」
王様がそう強く言っても村人達は「いない」と一点張りです。諦めきれない王様はとうとう軍隊を送り込みました。脅威がやってくれば魔法使いが現れると思ったのです。
しかし、村人はそれでも男の子を守り続けました。
そして軍隊が来ることを知ると男の子を村はずれの倉に閉じ込めてしまいました。
「すぐ戻るからね」
村人の1人は男の子に薬草を混ぜたお茶を飲ませ眠ったのを確かめてから、鍵をかけました。
目が覚めた男の子が急いで村に戻ると、そこに広がる光景は残酷な者でした。
自分にすべてを教えてくれた村長、優しかった粉屋のおかみさん、花屋の看板に肉屋の青年、村の中で息をしている者は1人もおらず、優しかった村は血にまみれ赤く染まっていました。
やってきたキズ一つない男の子を見た軍人は彼こそが村人が匿っていた存在だと直感で分かりました。
「お前が、お前こそが」
そう言いかけた瞬間、辺りが真っ暗になりました。
その日は良く晴れた日でした。
雲一つない、青空に燦々と陽の光が降り注いでいたはずでした。
しかし、軍人が言葉を発しだしたその瞬間、光と言う光がなくなりました。月の無い夜よりも嵐の海よりも深く暗い、静かな闇が軍人を包み込みました。
辺り一面がどろりとした闇に飲み込まれてしまうと、その村全体から一切の音が聞こえなくなり、それから村には誰もいなくなりました。
王様は何度も軍隊に使いを送りましたが、行方をたどる事はできませんでしたし、その後何度村に使いや軍隊を送っても誰一人戻ってきませんでした。
あくる日のことでした。
王の城があのときの村と同じく暗闇に包みこまれると、それがその国の最後の日となりました。
人々は言いました。
「ヘルダーの闇に喰われたんだ」と。
以来、その王の国があった場所と村には闇使いがいると人々は言うようになったのです。
◆◆◆
侯爵夫人が語るおとぎ話をまるで幼稚園児のように、座って聞き入った私たちはしばらく無言でした。しかし、シニフェ様がその静寂を破りました。
「あーーっ!?」
唐突に叫ばれるので、その場にいた私も侯爵夫人もプランも驚きで動きを止めます。
どうなさったーー、いいえ、この反応は見覚えがあります。
「シニフェ様まさか、……あれでしょうか」
「2!ツーの方だよ」
「はい?2とは?」
「俺がやってたゲームは続編だったんだ。そーだ、無印の方の話だ、今の」
「「ムイン??」」
侯爵夫人もご自分の息子が変な事を言っていると首を傾げていらっしゃいます。
以前、ゲームというのは小説のような物だとご説明されていましたが、それと照らし合わせると、アルダース・ヘルダーが出てくる小説の事でしょうか。そのように仮定すると、2、というのは2巻という事になりますかね。
「2巻なんですか?」
「いや、俺が2巻」
私達の会話を侯爵夫人は不思議そうに眺めながら、それでも少し嬉しそうにされています。
「プランちゃん、そのお菓子美味しいでしょう。こーんなに格好良くなったのにまだお菓子が好きなんて可愛いわぁ」
「侯爵夫人とても美味しいです!これはなんて言うお菓子なんでしょう?是非ウチでも取り扱いたいです!」
「スフォリアテッラっていうのよー。隣国のお菓子なの。グラン商会で扱うのなら職人を紹介するわね」
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