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僕と友達と僕らの主人

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僕の名前はプラン・グラン。
家は国内で一番大きい商会を持っていて、一応伯爵家。元々は商人なんだって。
歴史はあまりない。でもって僕は3男なので爵位は継げないから平民となるしかないらしい。
生まれた順番で地位が決まるなんて不公平だよね。でもそれは決まった事らしく、いつもそう言った事でバカにされていた。

5つ位の時に、お父様に連れられて僕はグランメション侯爵家に行った。そこで初めてシニフェ様にお会いした。僕と同じ歳なのに大人に指図したり、大人達は彼に跪いて恭しく礼をしている姿に、凄いなぁ~と思った。
シニフェ様の横には背の高い男の子、エノームがいた。彼は子爵の一人息子だそうだから、僕とは違って貴族だ。だから、『シニフェさま、エノームさま』と呼ぶと、彼等は顔を見合わせてから、シニフェ様が口を開いた。
「プラン、僕にもエノームにも様はいらないぞ!僕は2人の事をプラン、エノームとよぶから2人も名前でよんでよい。エノームもちょうど良いから今後は僕にさまをつけるな」
シニフェ様はニカっと笑っていたが、物凄い早さでエノームが首を振った。
「とんでもございません!シニフェさまはシニフェさまです!・・・わたしのことはエノームとなまえでよんでください。私は子爵家の『ヨウシ』なので、シニフェさまと同じようによんでいただくなんてとても」
「わかりました。・・・じゃ、シニフェさま、エノームとよびます」
僕がそう言ったところ、シニフェ様は嫌がった。仲間はずれにするな!と癇癪を起こした。
僕とエノームは早速2人でシニフェ様を説得する事となった。
この2人は僕を3男とバカにしないし、ウチの名前を聞いても成金と呼ばない事に僕は嬉しくなった。

シニフェ様とエノームは生まれた時から一緒にいるので、考える事が分かっているのかな?と思う事が多かった。シニフェ様が少し嫌いな食べ物があるとエノームは誰にもバレないようにこっそりとそれを食べてあげるし、嫌な事があるとそっとそれから引き離していた。(たとえば、僕もだけどシニフェ様は暗い部屋を嫌っていたが、それを言い出せないでいると、エノームが「わたし、暗い場所が怖いので手をつないで下さい」といってシニフェ様を真ん中にして3人で手を繋いだり)
そしてエノームが少し離れるとシニフェ様はご機嫌が悪くなるので、大人達は『エノーム様を御呼びしろ!』と大騒ぎしていた。なんとなく、ぼくはお邪魔虫のように思えたから2人から距離を取ろうとしたこともある。


ある日、お茶会に呼ばれて行った時、いつも僕に絡んでくるマレディクションという伯爵の息子も来ていた。彼は取り巻きを連れて僕の前に来ると聞き飽きた言葉を口にした。
「あれー?なんで平民がいるのかなぁ?」
「「そうですね」」
「成金で平民なんて、もう救いようがないね」
「「時期伯爵家当主のマレディクションさまがすうくうきがよごれますね」」

僕にはどうしようもないことをそんな風に言われたので、いつものようにそっと立ち去ろうとしたら後ろから声をかけられた。
「おや、プラン。もうかえってしまうのですか。シニフェさまがいまとうちゃくしたのに」
振り返るとエノームが立っていた。
彼は僕の様子を見て、辺りを見回し、マレディクションの姿を見ると目を細めた。
「マレディクション様、ごきげんよう。そちら、どいていただいても?」
「は?ガスピアージェ子爵ふぜいが、伯爵家のぼくにめいれいするのか?!そこの平民といっしょに、あっちへいけ!!」
エノームはそんな酷い事を言われているのににっこり笑ってみせた。すると後ろからやってきたシニフェ様がずずいっとマレディクションの鼻先に指を立てて近寄った。
「おい、おまえ。ぼくをだれだとおもってるんだ?なんでぼくのあるく道をふさいでいるんだ?」
エノームがお辞儀をすると、ゆったりとシニフェ様は僕をみた。
「それに、なんでぼくの『そっきん』をばかにするんだ?さっき『平民』とかいってたか?そうかそうか。プラン!!」
「はい!」
「パ・ビアン領がいい?グローシエ領がいい?ソッファース、ドゥラール、ミゼラブルどれでもいいぞ」
「は?」
急に羅列される領地名に僕がぽかんとしているとエノームが耳打ちした。
「どれもマレディクションよりも大きくりっぱなりょうちです。向こうよりもめいもんと言えます」
「おまえより『偉く』させるなんか簡単なんだ!」
この事があってから、僕に嫌な事を言う奴らはいなくなった。
シニフェ様は、ふふんと勝ち誇った顔で僕らに言った。
「エノーム、プラン、何かあったらすぐ言うんだ。お父様に言いつけてやるから。僕の横にいるお前たちがバカにされるってことは僕がバカにされるのと同じだからな!」
この後、エノームから聞いた話だと、僕が来なくなってからシニフェ様はとても機嫌が悪かったらしい。『なぜプランがこないんだ。呼んでこい』と。エノームだけでは大変だったから、一緒にお支えしましょう、エノームがそう言ってくれた。


シニフェ様は少し我が儘で、偉そうにする事が多い。本当に偉いから仕方がないと思う。
でも学校に入るようになったらなぜかクーラッジュにいじわるをいうようになった。聞いてみると「気に入らないから」の一点張りで、僕もエノームも困ってしまった。少し尊大な方だけど人に意地悪をするような人ではなかったはずなのに、と考えている中、早朝に呼び出された。

僕が急いでシニフェ様に会いに行くと、取り乱した様子のシニフェ様とそれを宥めるエノームがいた。エノームの背に縋り付いているシニフェ様と、シニフェ様の頭をよしよしと優しく撫でるエノームの光景に、僕はこの中に入って良いのかとたじろいでしまう。
僕に気がついたシニフェ様はぱぁっと顔を晴れやかにさせ、僕を迎え入れてから教えてくれた。
自分はこの世界の悪役となり処刑されるのだ、と。

失礼とは思ったが、僕は訳が分からなかった。でも確かにシニフェ様は今までと雰囲気が違っていたし、何よりも自分を『俺』というようになり口調が違っていた。
熱で頭が混乱されているのかと僕が慌てていると、エノームが提案していた。
「とりあえず悪い事をしなければ良いのではないでしょうか。それにシニフェ様はその魔王復活までのご状況をご存知なのですから、そこに関わらないまたはクーラッジュの仲間になる方をお選びになれば良いと思います」
エノームがシニフェ様の変化を問題視していないなら、これは大きな事ではないのだろう。安心した。
僕は持っていたお菓子袋からクッキーを取り出した。
これは最近お気に入りのお菓子屋さんの新作だ。シニフェ様のお部屋でお菓子を食べて許されているのは僕らだけ(零すな!という小言は言われる)で、それがなんか特別感があって優越感に浸る。
もぐもぐ食べているとシニフェ様がこんな事を言われた。
「今朝、鏡見ても思ったけど、俺本当に悪人顔というか、歪んだ顔してるよね」
んー?
僕の家は商会だから、僕は色んな顔の人を見ている。貴族も平民も、職人も、外国人もやってくる。
それこそ、多分悪い事している人も来る。
長い事、悪い事している人はその時の表情が顔に染み付いちゃってるんだと思う。
そんな僕だから分かるけど、シニフェ様は全然悪いヤツの顔ではないし歪んでもいない。僕らとおしゃべりしている時や寝ている時の顔はむしろ美形に分類される。
「ぱりっ。シニフェ様のお顔は別に歪んでませんよ~。クーラッジュとかと何かしているときはちょっと怖いですけど、こうして普段お話する時は侯爵夫人にそっくりで整ってらっしゃると思います」
「たしかに!それに侯爵夫人は美人で有名ですしね。シニフェ様ちょっと微笑んでみて下さい」

僕らの提案で屈託のない笑顔を見せたシニフェ様はとても柔らかい印象になっていた。
そして、そのお顔をじっと見ていたエノームは、これまで見せた事がないような表情をしていた。
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