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ダンジョンウォー
別れの時
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俺は衝撃の話に言葉を失う。リュヴァは俺の手を強く握り、アスターシアは声を出して泣いている。
「うっ・・紋次郎、この子を貰ってあげるですわ」
確かにユリジールさんの話で、カリスがどういうものかはわかった。でも、どうして俺にカリスを貰ってほしいと思ったんだろう。
「ユルジールさん、どうしてあなたは・・」
そこで話を折るようにユルジールさんは話の続きを喋り始めた。
「カリスは魂があり、心を持っておる。だからこんなところにおっちゃいかんのじゃ、こんなところで死人の側におっては・・ワシは魂を蘇生することができた、じゃが魂を成長させることはできんかったんじゃ。あの子の魂は死んだ時のまま変わっておらん。それは不幸なことなんじゃよ」
「俺がカリスを貰ったとして、ユルジールさん、あなたはどうするんですか」
ユルジールはニコリと微笑み、こう言った。
「天に召されますよ。この子があんたに貰われるのなら何の心配もなくなるからのう」
「俺がとんでもない悪い奴で、カリスに酷いことしたりとか考えないんですか」
「ははははっ、ワシは長く生きとった、多少は人を見る目はあると思っとる。そして今は死人じゃ、普通の人には見えんもんも見えとる。お前さんがそんな悪人なら、姿なんて見せとらんよ」
俺はこの話を聞いて、カリスを預かることを決めていた。しかし、最後に彼女自身の気持ちを聞きたかった。
「カリス、君はどう思ってるんだい?」
カリスは何を聞かれているのかわからないのか、ぽかんとした顔で俺を見つめる。そしてユルジールに助けを求めるように視線を投げる。彼はその視線を感じて、彼女に諭すように話し始める。
「カリス、お前はこの人と一緒に行くんじゃよ、これからはこの人のお世話をするんじゃ」
「ご主人様・・私は用済みだがかぁ、何か至らないところがあったのかやぁ・・」
ユルジールはそれを強く否定する。
「そうじゃない! そうじゃないよカリス! ワシは遠くへ行かなければいけないのじゃ・・だからお前と一緒にいられないんだよ」
「それじゃぁ、私もそこへ行くだよ」
「ダメじゃ、お前はそこへはまだ行ってはいかん」
カリスはユルジールに縋り付く。彼女は自分の存在意義を否定されているかのようなそんな恐怖心に捉われていた。
「私はぁご主人様と一緒にいたいだぁ、おねげえだぁ、一緒に、一緒に・・」
「ダメじゃ! ダメなんじゃ!」
「おねげえだから、おじちゃん!!」
おじちゃんと呼ばれたユルジールの動きが止まる。そして震える声でカリスにこう伝える。
「カリス・・お前記憶があるのか・・ワシがわかるのか・・・」
「おじちゃん・・私はおじちゃんの家族になるだよぉ・・」
それを聞いたユルジールは滝のような涙を流しながら、カリスを抱きしめた。俺はそれを見てユルジールさんに声をかける。
「ユルジールさん、やっぱりカリスはあなたと一緒にいた方がいいんじゃないですか」
「うっ・・いや、だからこそワシから離れるべきじゃ。生ある者が死者とずっといてはいけないのじゃ・・ワシはもう思い残すことはない、最後にこんなに嬉しいことがあったのだからのう・・幸せじゃ、ワシは幸せじゃった」
ユルジールさんはカリスの頭を撫でながら、アスターシアに話しかけた。
「そこの妖精さん。ターン・アセンションは使えるかのう」
アスターシアは言葉を失った。少しの沈黙の後に、声を絞り出すように答える。
「使え・・ます・・わ・・」
「そうかそうか、ではそれをワシにお願いできるかのう。今すぐにいきたいんじゃ、この幸せな気持ちで」
「アスターシア、ターン・アセンションって?」
「昇天の魔法ですわ・・霊体を強制的に天に送るのですの・・」
「それって・・・」
ユルジールはカリスを強く抱きしめる。
「ワシはずっと孤独な人間じゃった・・そんな人生の最後に、ワシと出会ってくれてありがとうカリス・・・」
「おじちゃん!」
「妖精さん! 今です、お願いしますじゃ!!」
アスターシアは大粒の涙を散らしながら魔法を唱える。
「ターン・アセンション!」
ユルジールは青白い光に包まれる。その姿はゆっくりと薄れ消え去っていく。
「お父さん!!・・・・」
そう叫ぶカリスの瞳から、オートマタである彼女からは流れるはずのないものが流れ落ちる。
最後に父と呼ばれ、ユルジールは満面の笑みの表情で姿を消していく。完全に姿を消してもカリスはそこをずっと見つめていた。
「これは・・・なんでぇすかぁ・・・これは・・」
溢れ出す涙を理解できないカリスは戸惑っていた。俺はそのカリスを後ろから抱きしめる。そしてその涙は何かを教えてあげた。
「カリス、それは君が人間である証拠だよ。君は人であり、ユルジールさんの娘さんだ」
それを聞いた彼女は、さらに大粒の涙を流して、しばらくその場で泣き続けた。
「うっ・・紋次郎、この子を貰ってあげるですわ」
確かにユリジールさんの話で、カリスがどういうものかはわかった。でも、どうして俺にカリスを貰ってほしいと思ったんだろう。
「ユルジールさん、どうしてあなたは・・」
そこで話を折るようにユルジールさんは話の続きを喋り始めた。
「カリスは魂があり、心を持っておる。だからこんなところにおっちゃいかんのじゃ、こんなところで死人の側におっては・・ワシは魂を蘇生することができた、じゃが魂を成長させることはできんかったんじゃ。あの子の魂は死んだ時のまま変わっておらん。それは不幸なことなんじゃよ」
「俺がカリスを貰ったとして、ユルジールさん、あなたはどうするんですか」
ユルジールはニコリと微笑み、こう言った。
「天に召されますよ。この子があんたに貰われるのなら何の心配もなくなるからのう」
「俺がとんでもない悪い奴で、カリスに酷いことしたりとか考えないんですか」
「ははははっ、ワシは長く生きとった、多少は人を見る目はあると思っとる。そして今は死人じゃ、普通の人には見えんもんも見えとる。お前さんがそんな悪人なら、姿なんて見せとらんよ」
俺はこの話を聞いて、カリスを預かることを決めていた。しかし、最後に彼女自身の気持ちを聞きたかった。
「カリス、君はどう思ってるんだい?」
カリスは何を聞かれているのかわからないのか、ぽかんとした顔で俺を見つめる。そしてユルジールに助けを求めるように視線を投げる。彼はその視線を感じて、彼女に諭すように話し始める。
「カリス、お前はこの人と一緒に行くんじゃよ、これからはこの人のお世話をするんじゃ」
「ご主人様・・私は用済みだがかぁ、何か至らないところがあったのかやぁ・・」
ユルジールはそれを強く否定する。
「そうじゃない! そうじゃないよカリス! ワシは遠くへ行かなければいけないのじゃ・・だからお前と一緒にいられないんだよ」
「それじゃぁ、私もそこへ行くだよ」
「ダメじゃ、お前はそこへはまだ行ってはいかん」
カリスはユルジールに縋り付く。彼女は自分の存在意義を否定されているかのようなそんな恐怖心に捉われていた。
「私はぁご主人様と一緒にいたいだぁ、おねげえだぁ、一緒に、一緒に・・」
「ダメじゃ! ダメなんじゃ!」
「おねげえだから、おじちゃん!!」
おじちゃんと呼ばれたユルジールの動きが止まる。そして震える声でカリスにこう伝える。
「カリス・・お前記憶があるのか・・ワシがわかるのか・・・」
「おじちゃん・・私はおじちゃんの家族になるだよぉ・・」
それを聞いたユルジールは滝のような涙を流しながら、カリスを抱きしめた。俺はそれを見てユルジールさんに声をかける。
「ユルジールさん、やっぱりカリスはあなたと一緒にいた方がいいんじゃないですか」
「うっ・・いや、だからこそワシから離れるべきじゃ。生ある者が死者とずっといてはいけないのじゃ・・ワシはもう思い残すことはない、最後にこんなに嬉しいことがあったのだからのう・・幸せじゃ、ワシは幸せじゃった」
ユルジールさんはカリスの頭を撫でながら、アスターシアに話しかけた。
「そこの妖精さん。ターン・アセンションは使えるかのう」
アスターシアは言葉を失った。少しの沈黙の後に、声を絞り出すように答える。
「使え・・ます・・わ・・」
「そうかそうか、ではそれをワシにお願いできるかのう。今すぐにいきたいんじゃ、この幸せな気持ちで」
「アスターシア、ターン・アセンションって?」
「昇天の魔法ですわ・・霊体を強制的に天に送るのですの・・」
「それって・・・」
ユルジールはカリスを強く抱きしめる。
「ワシはずっと孤独な人間じゃった・・そんな人生の最後に、ワシと出会ってくれてありがとうカリス・・・」
「おじちゃん!」
「妖精さん! 今です、お願いしますじゃ!!」
アスターシアは大粒の涙を散らしながら魔法を唱える。
「ターン・アセンション!」
ユルジールは青白い光に包まれる。その姿はゆっくりと薄れ消え去っていく。
「お父さん!!・・・・」
そう叫ぶカリスの瞳から、オートマタである彼女からは流れるはずのないものが流れ落ちる。
最後に父と呼ばれ、ユルジールは満面の笑みの表情で姿を消していく。完全に姿を消してもカリスはそこをずっと見つめていた。
「これは・・・なんでぇすかぁ・・・これは・・」
溢れ出す涙を理解できないカリスは戸惑っていた。俺はそのカリスを後ろから抱きしめる。そしてその涙は何かを教えてあげた。
「カリス、それは君が人間である証拠だよ。君は人であり、ユルジールさんの娘さんだ」
それを聞いた彼女は、さらに大粒の涙を流して、しばらくその場で泣き続けた。
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