上 下
165 / 174
北の列国

赤い花は美しく舞う

しおりを挟む
獣魔団との戦闘に入り、アズキ師団はその戦力の大半を失っていた……
「密集しろ! まだだ、まだ道は作れる!」
アズキは一人、烈火の如く戦いを繰り広げていた……アブサプクスを騎兵ごと一刀両断にし、獣の首を飛ばし、騎兵を炎で焼き尽くした……

五十を超えるアブサプクスを血祭りにあげて、息を一つ、大きく吐き……周りを見渡したアズキは愕然とする……そこには味方の姿はすでになく……戦っているのはアズキ一人であった……

「残すは敵将のみだ、包囲して血祭りにあげろ!」
敵将の言葉に、妙な怒りがこみ上げてくる……アズキは怒号をあげた。
「私はエイメルの嫁になるんだ! こんなとこで死んでたまるか!」

すでに体力は残り少なくなっているアズキであったが、その限界を超えて動き始めた。

右からいた獣魔兵を剣を横に振り斬ると、高く跳躍する──そして前方の騎兵を上から突き殺すと、アブサプクスを奪い取った。

長年訓練してようやく乗りこなすアブサプクスをアズキは気合だけで操る……炎の魔剣を振り炎を撒き散らし、敵を焼き殺していたった……

「なんなのだ奴は……まるで炎の魔神ではないか……」
アズキの闘いぶりに、敵将も感嘆の声を上げる。

だが、アズキの体力は無限ではなかった……徐々にその動きは鈍くなっていき……敵の攻撃もかすり始める……

「はぁ……はぁ……エイメルと私は……」

一人で三桁の敵を討ち倒したが、周りを取り囲む敵の数は減っているように見えない……それでも気力だけは失わず、アズキは闘い続ける……


それは不意の攻撃だった……後ろからの槍の一撃がアズキの肩を貫く……油断ではなかった……強力で早い一撃に、体力の落ちていたアズキは反応できなかったのだ……その攻撃の主はワグディアの将軍である、ズワイデンであった……味方が圧倒的な有利のこの状況に、大将首を上げる為に駆けつけていた。

「ヘヘヘッ……手柄がこんなとこに転がって嫌がる……俺は本当に運のいい男だな」

肩を貫かれたアズキは地面に転がり、ズワイデンと距離をとった……

「はぁ……はぁ……くっ……右手が上がらない……」
肩の傷は深く、すでにアズキの腕は上がらなくなっていた……

「さて、それでは首を貰うとしよう……」
そう言ってズワイデンは槍を構えた……

すまん……エイメル……私は道を作りきれなかった……


さすがのアズキも死を覚悟したその時だった……

「アズキ~~~!」
聞き慣れた声が響く……そのあと、ビューンと大きな音がすると、まるで砲弾が着弾したような勢いで、その声の主はアズキとズワイデンの間へと着地した。

「エイメル! どうして……」
「やっぱりアズキにだけ負担はかけられないと思ってね……急いで追いかけてきたんだ」

「エイメルだと……アースレインの国王の名前じゃねえか……」
ズワイデンがいやらしく微笑む……
「俺はアースレイン王国の王、エイメルだ……大事な部下が世話になったようだな……」
「ガハハハっ! これはこれは……この戦、最高の大将首が俺の前に飛んでくるとは……本当に俺は運がいい!」

しかし、本日が厄日であった事をズワイデンはすぐに知ることになる……

「ほら! 死ねやアースレイン王!」
ズワイデンの槍の一撃が裕太に襲いかかる……裕太は軽く剣を振りそれを跳ね返した……

一国の王が今の一撃を跳ね返すなど思ってもいなかったズワイデンは、一瞬、何が起こったか理解できなかった……そしてその王の一撃が自分の首を跳ね飛ばすのも理解できないまま絶命する……

「アズキ、立てるか」
「あっ……大丈夫……まだ戦える……」
「じゃあ、一緒に戦ってここを切り抜けよう!」
「……エイメル……見ろ、ほら、顔に傷がついたんだ……私……」
ほんのかすり傷のそれを見て、裕太は笑いながこう返事をした。
「よし、この戦いが終わって落ち着いたらアズキを貰うことにしよう」
「ほ……本当か!」
「嘘はつかないよ」

その言葉を聞いたアズキは自分でも気づかないうちに涙を流していた……
「やべ……視界が……」

アズキが涙を手で拭っていると、裕太の護衛で残していたアズキ師団の生き残りが二人を守るように乱入してきた。

「王とアズキ上位将軍をお守りしろ!」
裕太の護衛隊を指揮していたアズキの副官であるルサスがそう声をかける。アズキは自らの師団の精鋭を裕太につけていた、今生き残っているアズキ師団はアースレイン軍の中でも屈指の強者たちであった。アズキ師団の兵数は3万ほどであったが、一時的にワグディア軍を押し返す……

しかし、アズキ師団の猛攻も、ワグディア軍の本隊が動き出すことによって終わりを迎えることになる──
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。 そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。 「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。 ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね? という「誰が勇者だ?」的な物語。

メイド侯爵令嬢

みこと
ファンタジー
侯爵令嬢であるローズ・シュナイダーには前世の記憶がある。 伝説のスーパーメイド、キャロル・ヴァネッサである。 そう、彼女は転生者なのである。 侯爵令嬢である彼女がなりたいもの。 もちろん「メイド」である。 しかし、侯爵令嬢というのは身分的にメイドというにはいささか高すぎる。 ローズはメイドを続けられるのか? その頃、周辺諸国では不穏な動きが...

わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠
ファンタジー
「この私、レムレス・ド・アルメルセデスの名において、アナスターシア・スタンフォード侯爵令嬢との間に結ばれた婚約を破棄することをここに宣言する!」 その声は、よりにもよってこの年に一度の神事、国家の祭祀のうちでもこの国で最も重要とされる聖緑祭の会場で、諸外国からの特使、大勢の来賓客が見守る中、長官不在の聖女宮を預かるレムレス・ド・アルメルセデス王太子によって発せられた。 ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。 その聖都アルメリアの中央に位置する聖女宮広場には、荘厳な祭壇と神楽舞台が設置され。 その祭壇の目の前に立つ王太子に向かって、わたくしは真意を正すように詰め寄った。 「理由を。せめて理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 「君が下級貴族の令嬢に対していじめ、嫌がらせを行なっていたという悪行は、全て露見しているのだ!」 「何かのお間違いでは? わたくしには全く身に覚えがございませんが……」 いったい全体どういうことでしょう? 殿下の仰っていることが、わたくしにはまったく理解ができなくて。 ♢♢♢ この世界を『剣と魔法のヴァルキュリア』のシナリオ通りに進行させようとしたカナリヤ。 そのせいで、わたくしが『悪役令嬢』として断罪されようとしていた、ですって? それに、わたくしの事を『お飾り聖女』と呼んで蔑んだレムレス王太子。 いいです。百歩譲って婚約破棄されたことは許しましょう。 でもです。 お飾り聖女呼ばわりだけは、許せません! 絶対に許容できません! 聖女を解任されたわたくしは、殿下に一言文句を言って帰ろうと、幼馴染で初恋の人、第二王子のナリス様と共にレムレス様のお部屋に向かうのでした。 でも。 事態はもっと深刻で。 え? 禁忌の魔法陣? 世界を滅ぼすあの危険な魔法陣ですか!? ※アナスターシアはお飾り妻のシルフィーナの娘です。あちらで頂いた感想の中に、シルフィーナの秘密、魔法陣の話、そういたものを気にされていた方が居たのですが、あの話では書ききれなかった部分をこちらで書いたため、けっこうファンタジー寄りなお話になりました。 ※楽しんでいただけると嬉しいです。

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

マギアクエスト!

友坂 悠
ファンタジー
異世界転生ファンタジーラブ!! 気がついたら異世界? ううん、異世界は異世界でも、ここってマギアクエストの世界だよ! 野々華真希那《ののはなまきな》、18歳。 今年田舎から出てきてちょっと都会の大学に入学したばっかりのぴちぴちの女子大生! だったんだけど。 車にはねられたと思ったら気がついたらデバッガーのバイトでやりこんでたゲームの世界に転生してた。 それもゲーム世界のアバター、マキナとして。 このアバター、リリース版では実装されなかったチート種族の天神族で、見た目は普通の人族なんだけど中身のステータスは大違い。 とにかく無敵なチートキャラだったはずなんだけど、ギルドで冒険者登録してみたらなぜかよわよわなEランク判定。 それも魔法を使う上で肝心な魔力特性値がゼロときた。 嘘でしょ!? そう思ってはみたものの判定は覆らずで。 まあしょうがないかぁ。頑張ってみようかなって思ってフィールドに出てみると、やっぱりあたしのステイタスったらめちゃチート!? これはまさか。 無限大♾な特性値がゼロって誤判定されたって事? まあでも。災い転じて福とも言うし、変に国家の中枢に目をつけられても厄介だからね? このまま表向きはEランク冒険者としてまったり過ごすのも悪く無いかなぁって思ってた所で思わぬ事件に巻き込まれ……。 ってこれマギアクエストのストーリークエ?「哀しみの勇者ノワ」イベントが発動しちゃった? こんな序盤で! ストーリーモードボス戦の舞台であるダンジョン「漆黒の魔窟」に降り立ったあたしは、その最下層で怪我をした黒猫の子を拾って。 って、この子もしかして第六王子? ってほんとどうなってるの!?

処理中です...