上 下
114 / 174
北の列国

脅威の力

しおりを挟む
グルフィンは、二回目の攻撃をアクザリエル軍に繰り出す為に、敵のバリスタの射程外を旋回し始めた。次の一撃で、バリスタの大半を破壊しなければ、ドラグネ族に勝ち目はないと考える。確かに多くのバリスタを破壊するのは可能であろう・・だがこちらの被害も相当なものになる・・そう思うと、突撃の指示を出すのをためらった。

だが、このままアクザリエル軍に山を登られ、里まで雪崩れ込まれれば、もうどうすることもできなくなる。どうしてもここで敵軍を叩く必要があった。

「敵のバリスタを集中して狙え! 次の一撃で大半を破壊するぞ!」
グルフィンの言葉に、竜騎士たちは声を上げて応える。

「突撃・・」

グルフィンがそう声を上げようとするが、劇的に変わった空気によってそれを中断した。まだ日が落ちる時間ではないのに一瞬で周囲が暗くなる。異変に気がつき周りを見ると、竜騎士団は何か大きな影の中にいることに気がついた。
「何だアレは・・・」
上を見ると、巨大な竜が空を飛んでいる。それは神々しく優雅に飛行していた。少しずつ高度を下げてきて、竜の背中に人が乗っているが見えた。
「おーい! 君らはドラグネ族の竜騎士だよね」
竜の背中の人がそう聞いてくる。グルフィンは一瞬戸惑うが、素直に答えた。
「そうだ。ドラグネの竜騎士長のグルフィンだ」
「そうか。それじゃ、君らを助けるから突撃するのは待ってくれ」
「助ける?」
「バリスタを俺らが破壊するから、それまでちょっと待っててくれ」
「な・・あなたらはいったい・・・」

しかし、その質問には答えずに巨大な竜は急降下する。そして竜の口から白銀に輝くブレスが放たれた。強烈な勢いでバリスタが破壊されていく。さらに竜から人の影が飛び出した。それは黒い翼の女性に見える。彼女からも、信じられない威力の魔法が放たれる。巨大な穴が出来上がるほどの魔力球がアクザリエル軍の中心に落ちて、大量に蒸発させる。

見ているのが気持ち良くなるほどの鮮やかさで、下にいるアクザリエル軍は徹底的に叩かれる。見る見るうちにバリスタの数も少なくなっていった。幾つかのバリスタの攻撃が竜に命中しているみたいだけど、全くダメージを受けてないようだ。あのバリスタの矢を食らって、簡単に跳ね返す防御能力は驚異的である。

バリスタの数が減ったのを見て、グルフィンは竜騎士に攻撃を命じる。
「一気にアクザリエル軍を叩くぞ! 全員突撃!」
その声を聞くと、竜騎士たちは一斉に下降していった。


「何だあの巨大な竜は! 聞いてないぞ!」
「ドラグネ族に、あんな竜がいるなど聞いたことがありません。どこかからの援軍かと・・」
「くっ・・・アースレインか・・」
巨大な白い竜のブレスに、アクザリエル軍は次々と蒸発していく。このままでは被害が拡大するばかりであった。

そんな状況に、ドラグネ族の竜騎士たちが総攻撃を仕掛けてきた。もはや残ってる対空バリスタは極僅かで、その攻撃も防ぐことができない。圧倒的な火力で焼き尽くされていく。

「体勢を立て直す。すぐに全軍撤退しろ」
ドナイデン軍団長は、さすがのこの状況に撤退命令を出した。しかし、山脈の中腹からの撤退である。兵が通れる道も狭い為に、一気に撤退とはいかない。逃げれない兵たちは、ヤケクソ気味に上空に向けて矢を放つが、まず命中すらせず、偶然命中しても、硬い鱗に阻まれて、傷一つ付けることもできなかった。

兵たちは山道を撤退するのを諦めて、険しい獣道や山の斜面をバラバラに逃げ始めた。混乱の中、足を踏み外し崖を落ちる兵も少なくなかった。そんな大混乱の中、撤退に成功した兵は十万ほどであった。数万の少数民族の集落を攻撃して、二十万の被害を出すなどあってはならない敗北である。


敵の撤退を確認すると、グルフィンは竜騎士たちを引き揚げさせる。ふと見ると、いつの間にか巨大な白い竜がいなくなっていた。あの巨体が消えるなど不思議なことであるが、探す必要もないと集落へと戻ることにした。

グルフィンが戻ると、そこに見慣れない異国人が三名と、あの竜人族の少女の一人が、アフランと一緒に出迎えてくれた。
「あなたは竜の背中に乗っていた人ですね。助かりました、礼を言います」
「いや、当然のことをしただけだよ。ドラグネ族は俺との約束を守ってくれた・・ならば俺も約束を守るのは当たり前の事だ」
「約束・・」
「俺はドラグネ族の存続を保証した。ならば存続の危機を救うのは当然だろ」
「あなたはアースレインの・・」
「俺はアースレイン王国の王のエイメルだ。うちのファシーとヒュレルがお世話になったようだし、礼を言うよ」

まさか王様自ら、こんな場所まで我々の窮地を救いに来たと言うのか・・それはグルフィンにとって、衝撃的な出来事であった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~

ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」  騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。 その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。  この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

メイド侯爵令嬢

みこと
ファンタジー
侯爵令嬢であるローズ・シュナイダーには前世の記憶がある。 伝説のスーパーメイド、キャロル・ヴァネッサである。 そう、彼女は転生者なのである。 侯爵令嬢である彼女がなりたいもの。 もちろん「メイド」である。 しかし、侯爵令嬢というのは身分的にメイドというにはいささか高すぎる。 ローズはメイドを続けられるのか? その頃、周辺諸国では不穏な動きが...

わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠
ファンタジー
「この私、レムレス・ド・アルメルセデスの名において、アナスターシア・スタンフォード侯爵令嬢との間に結ばれた婚約を破棄することをここに宣言する!」 その声は、よりにもよってこの年に一度の神事、国家の祭祀のうちでもこの国で最も重要とされる聖緑祭の会場で、諸外国からの特使、大勢の来賓客が見守る中、長官不在の聖女宮を預かるレムレス・ド・アルメルセデス王太子によって発せられた。 ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。 その聖都アルメリアの中央に位置する聖女宮広場には、荘厳な祭壇と神楽舞台が設置され。 その祭壇の目の前に立つ王太子に向かって、わたくしは真意を正すように詰め寄った。 「理由を。せめて理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 「君が下級貴族の令嬢に対していじめ、嫌がらせを行なっていたという悪行は、全て露見しているのだ!」 「何かのお間違いでは? わたくしには全く身に覚えがございませんが……」 いったい全体どういうことでしょう? 殿下の仰っていることが、わたくしにはまったく理解ができなくて。 ♢♢♢ この世界を『剣と魔法のヴァルキュリア』のシナリオ通りに進行させようとしたカナリヤ。 そのせいで、わたくしが『悪役令嬢』として断罪されようとしていた、ですって? それに、わたくしの事を『お飾り聖女』と呼んで蔑んだレムレス王太子。 いいです。百歩譲って婚約破棄されたことは許しましょう。 でもです。 お飾り聖女呼ばわりだけは、許せません! 絶対に許容できません! 聖女を解任されたわたくしは、殿下に一言文句を言って帰ろうと、幼馴染で初恋の人、第二王子のナリス様と共にレムレス様のお部屋に向かうのでした。 でも。 事態はもっと深刻で。 え? 禁忌の魔法陣? 世界を滅ぼすあの危険な魔法陣ですか!? ※アナスターシアはお飾り妻のシルフィーナの娘です。あちらで頂いた感想の中に、シルフィーナの秘密、魔法陣の話、そういたものを気にされていた方が居たのですが、あの話では書ききれなかった部分をこちらで書いたため、けっこうファンタジー寄りなお話になりました。 ※楽しんでいただけると嬉しいです。

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

マギアクエスト!

友坂 悠
ファンタジー
異世界転生ファンタジーラブ!! 気がついたら異世界? ううん、異世界は異世界でも、ここってマギアクエストの世界だよ! 野々華真希那《ののはなまきな》、18歳。 今年田舎から出てきてちょっと都会の大学に入学したばっかりのぴちぴちの女子大生! だったんだけど。 車にはねられたと思ったら気がついたらデバッガーのバイトでやりこんでたゲームの世界に転生してた。 それもゲーム世界のアバター、マキナとして。 このアバター、リリース版では実装されなかったチート種族の天神族で、見た目は普通の人族なんだけど中身のステータスは大違い。 とにかく無敵なチートキャラだったはずなんだけど、ギルドで冒険者登録してみたらなぜかよわよわなEランク判定。 それも魔法を使う上で肝心な魔力特性値がゼロときた。 嘘でしょ!? そう思ってはみたものの判定は覆らずで。 まあしょうがないかぁ。頑張ってみようかなって思ってフィールドに出てみると、やっぱりあたしのステイタスったらめちゃチート!? これはまさか。 無限大♾な特性値がゼロって誤判定されたって事? まあでも。災い転じて福とも言うし、変に国家の中枢に目をつけられても厄介だからね? このまま表向きはEランク冒険者としてまったり過ごすのも悪く無いかなぁって思ってた所で思わぬ事件に巻き込まれ……。 ってこれマギアクエストのストーリークエ?「哀しみの勇者ノワ」イベントが発動しちゃった? こんな序盤で! ストーリーモードボス戦の舞台であるダンジョン「漆黒の魔窟」に降り立ったあたしは、その最下層で怪我をした黒猫の子を拾って。 って、この子もしかして第六王子? ってほんとどうなってるの!?

処理中です...