上 下
105 / 174
北の列国

大賢者の研究

しおりを挟む
辺境の統一国家、アースレイン王国の主城、ジュレンゼ城の中庭では、拙い魔法が飛び交っていた。

「そうじゃ、もっと集中して魔力を一点に集めるのじゃ」
オーウェンの言葉に従い、リエナとミホシは手先に魔力を集めて、魔法を放つ。すると手先から小さな火の玉がヒョロヒョロと飛び出した。

「ど・・どうですか先生・・」
「集中が足らん。そんなんじゃ虫も殺せんぞ」

虫を殺したいと思ったりはしないが、二人は師の教えに耳を傾ける。魔法の授業は、1日、2時間。その2時間が経過したようで、メイドが、食事の時間だと、それを伝えに来た。

「そうじゃな、今日はこの辺にしておこう」
「有難うございました、先生」

リエナとミホシの授業が終わり、オーウェンは自室に戻る。ここからは自分の研究の時間になる。机には、大きな紙が広げられていて、そこには何かの設計図が書かれていた。

「もう少しで設計は完成じゃ・・・」
そう呟きながら紙に何かを書き込んでいく。


ある日の正午、裕太はリュジャナと経費の話をしていた。最近のアースレインは、リュジャナのおかげか、かなり経済状況が良い。予算がかなり余っているので、これを何に使うか話をしていた。

「オリハルコン硬貨に交換して、ガチャをしたいんだが・・」
裕太がそう言うと、リュジャナが眉間にシワを寄せてこう返事する。
「それはダメ。今、大陸全体でなぜかオリハルコンの価値が急騰してるのよ。前はミスリル硬貨100枚でオリハルコン硬貨1枚の交換率だったけど、今は1000枚で1枚の交換よ。さすがにそんな高い交換率じゃ、オリハルコン硬貨に変えるのは損よ」

うむ・・どうしてオリハルコンが高騰してるのかは想像出来る。クラスの連中がガチャの為に、オリハルコンを集めてるからだろう・・これは時間が経てば経つほどガチャがやり難くなりそうだな・・

そんな話をしているところへ、すごく笑顔のオーウェンが、ノックもせずに部屋に飛び込んできた。そして変な紙を俺に見せて、興奮したようにこう話す。
「喜べ、エイメル。ついに設計図が完成したぞ!」

何の設計図かもわからないので、オーウェンに聞き返すが、興奮した彼の言葉は意味がわからない。とりあえず落ち着かせて話を聞くと、どうやら彼の研究している魔道兵器なる代物の設計図が完成したそうだ。改めて設計図を見直すと、そこには人型のロボットのようなものが書かれていた。

「これが魔道兵器・・・」
「そうじゃ、鉄騎ゴーレムと名付けておる。本来のゴーレムみたいに土塊や石などではなく、鋼鉄製で、頑丈だ。しかも量産ができるので、鉄騎ゴーレムの軍団を作れば、どんな国も敵ではないぞ」
その話を聞いて、少し興味が湧いてきた。鋼鉄でできたゴーレムの軍団か・・それは確かに凄そうだ。

「それで、どうすればいいんだ」
「金じゃ。金が必要じゃ。とりあえず試作機を作るので、ミスリル硬貨を1,000枚ほど出してくれ」

「ミスリル硬貨1000枚か・・高いな・・」
「大丈夫じゃ、量産が始まれば、それより安く作れるようになる」
そんな話にリュジャナが横槍を入れてくる。
「ちょっと待って、そんなわけのわからない人形に、ミスリル硬貨1000枚なんて冗談じゃないわよ」
「何を言っておるのじゃ、最強の巨人兵じゃぞ、ミスリル硬貨1,000枚なら安いもんじゃろ」
確かに、今の予算には、ミスリル硬貨10万枚の余りがある。なのでそれくらい問題なく出せるけど・・

「わかった。それじゃミスリル硬貨1,000枚は出すよ。だけど、それ以上の追加の予算は、ちゃんと試作機を見てから決めるってことでいいか」
「もちろんじゃ、試作機を見れば、もっと金を出したくなると思うぞ」

そうなればいいけど・・じゃないと、今、ブツブツと文句を言っているリュジャナがブチ切れると思うし・・

そして、二週間ほどで試作機が完成した。それのお披露目を、城の中庭でやることになった。噂を聞きつけて、野次馬たちが集まる。
「あれが鋼鉄のゴーレムか! すげー。かっけえな」
アズキが嬉しそうにそう言うと、横にいたラスキーはこう返事する。
「あれをカッコイイって感覚が、もう女性じゃないよお姉ちゃん」

ヴァルガザは巨大な鋼鉄のゴーレムを見て、どうしても力くらべがしたいようだけど、副官のジイドに止められている。

肝心の試作機であるが、高さ10メートルほどの大きさで、見た目は、ゴーレムというより、まさにメカといった感じであった。どっしりとしたフォルムから、重量もそれなりにありそうである。見る感じ問題なさそうであるが、動きを見ないと、評価はできない。

早く動かして欲しい・・そんな周りの雰囲気を察知したのか、この鉄騎ゴーレムの生みの親であるオーウェンが、ゴーレムに命令をする。
「ゴーレムよ、歩くのだ」
その命令が聞こえたのか、ゴーレムはゆっくりと歩き始めた。おおおぉ・・と野次馬から歓声があがる。だけど、歩けと命令されたゴーレムは、命令通りにまっすぐとひたすら歩く。そう、目の前に城の壁があるのに・・ぶつかりそうなところで、オーウェンが慌てて停止の命令をする。
「ゴーレム。止まれ!」

するとゴーレムは、歩いている格好の、中途半端な体勢で緊急停止する。片足で不安定な形で止まってしまったので、バランスを崩したゴーレムはそのままゆっくりと転倒した。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。 そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。 「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。 ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね? という「誰が勇者だ?」的な物語。

メイド侯爵令嬢

みこと
ファンタジー
侯爵令嬢であるローズ・シュナイダーには前世の記憶がある。 伝説のスーパーメイド、キャロル・ヴァネッサである。 そう、彼女は転生者なのである。 侯爵令嬢である彼女がなりたいもの。 もちろん「メイド」である。 しかし、侯爵令嬢というのは身分的にメイドというにはいささか高すぎる。 ローズはメイドを続けられるのか? その頃、周辺諸国では不穏な動きが...

わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠
ファンタジー
「この私、レムレス・ド・アルメルセデスの名において、アナスターシア・スタンフォード侯爵令嬢との間に結ばれた婚約を破棄することをここに宣言する!」 その声は、よりにもよってこの年に一度の神事、国家の祭祀のうちでもこの国で最も重要とされる聖緑祭の会場で、諸外国からの特使、大勢の来賓客が見守る中、長官不在の聖女宮を預かるレムレス・ド・アルメルセデス王太子によって発せられた。 ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。 その聖都アルメリアの中央に位置する聖女宮広場には、荘厳な祭壇と神楽舞台が設置され。 その祭壇の目の前に立つ王太子に向かって、わたくしは真意を正すように詰め寄った。 「理由を。せめて理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 「君が下級貴族の令嬢に対していじめ、嫌がらせを行なっていたという悪行は、全て露見しているのだ!」 「何かのお間違いでは? わたくしには全く身に覚えがございませんが……」 いったい全体どういうことでしょう? 殿下の仰っていることが、わたくしにはまったく理解ができなくて。 ♢♢♢ この世界を『剣と魔法のヴァルキュリア』のシナリオ通りに進行させようとしたカナリヤ。 そのせいで、わたくしが『悪役令嬢』として断罪されようとしていた、ですって? それに、わたくしの事を『お飾り聖女』と呼んで蔑んだレムレス王太子。 いいです。百歩譲って婚約破棄されたことは許しましょう。 でもです。 お飾り聖女呼ばわりだけは、許せません! 絶対に許容できません! 聖女を解任されたわたくしは、殿下に一言文句を言って帰ろうと、幼馴染で初恋の人、第二王子のナリス様と共にレムレス様のお部屋に向かうのでした。 でも。 事態はもっと深刻で。 え? 禁忌の魔法陣? 世界を滅ぼすあの危険な魔法陣ですか!? ※アナスターシアはお飾り妻のシルフィーナの娘です。あちらで頂いた感想の中に、シルフィーナの秘密、魔法陣の話、そういたものを気にされていた方が居たのですが、あの話では書ききれなかった部分をこちらで書いたため、けっこうファンタジー寄りなお話になりました。 ※楽しんでいただけると嬉しいです。

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

マギアクエスト!

友坂 悠
ファンタジー
異世界転生ファンタジーラブ!! 気がついたら異世界? ううん、異世界は異世界でも、ここってマギアクエストの世界だよ! 野々華真希那《ののはなまきな》、18歳。 今年田舎から出てきてちょっと都会の大学に入学したばっかりのぴちぴちの女子大生! だったんだけど。 車にはねられたと思ったら気がついたらデバッガーのバイトでやりこんでたゲームの世界に転生してた。 それもゲーム世界のアバター、マキナとして。 このアバター、リリース版では実装されなかったチート種族の天神族で、見た目は普通の人族なんだけど中身のステータスは大違い。 とにかく無敵なチートキャラだったはずなんだけど、ギルドで冒険者登録してみたらなぜかよわよわなEランク判定。 それも魔法を使う上で肝心な魔力特性値がゼロときた。 嘘でしょ!? そう思ってはみたものの判定は覆らずで。 まあしょうがないかぁ。頑張ってみようかなって思ってフィールドに出てみると、やっぱりあたしのステイタスったらめちゃチート!? これはまさか。 無限大♾な特性値がゼロって誤判定されたって事? まあでも。災い転じて福とも言うし、変に国家の中枢に目をつけられても厄介だからね? このまま表向きはEランク冒険者としてまったり過ごすのも悪く無いかなぁって思ってた所で思わぬ事件に巻き込まれ……。 ってこれマギアクエストのストーリークエ?「哀しみの勇者ノワ」イベントが発動しちゃった? こんな序盤で! ストーリーモードボス戦の舞台であるダンジョン「漆黒の魔窟」に降り立ったあたしは、その最下層で怪我をした黒猫の子を拾って。 って、この子もしかして第六王子? ってほんとどうなってるの!?

処理中です...