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辺境大戦

消え去りし炎

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アントルン領に、ジュスラン平定軍が入ると、貴族連合は慌ただしく動き始めた。総兵力七万四千のジュスラン平定軍であったが、実際には道中の、ラルタにルソ師団を、アドチアにジュゼ師団を平定の為に置いているので、その兵数は五万であった。だが、現在のアントルンでは、五万の戦力は圧倒的な数と言っていいほどの戦力である。

ほんとんどの貴族が白旗を上げて、アースレインへの従属を申し入れる中、反乱の首謀者である、ミヌトン公爵だけはそれに応じるつもりがなかった。
「ふん。せっかくワシの天下となったのに、なぜ今更アースレインなどに尻尾を振らなければならんのだ」
「しかし公爵・・敵は五万の大軍です。我が軍は一万ほど。とても戦いになりません」
「ブハマやドボールキの軍はどうした。あれを合わせれば二万にはなるだろ」
「ブハマ侯爵様、ドボールキ伯爵様は我々を離れ、すでにアースレインに降伏しています」
「他にも貴族はおるじゃろ、どの者でも良い。我が軍に合流するように使者を送れ」
「すでにほとんどがアースレインの軍門に下っております。もはや、我々は孤立してしまいました」
「何を言っておるのじゃ! 孤立だと・・孤立したのは我が下から離れた愚か者どもだろうが! 常に我が中心だ、我の道が王道だ!」

ミヌトン公爵は、公爵と言う高い地位にありながら、王と言う存在に憧れていた。いよいよ自らが王になれるこの時に、どうして邪魔が入る・・彼はかなりの憤りを感じていた。

そんなミヌトン公爵であったが、起死回生の使者が現れる。その存在はミヌトン公爵を歓喜させた。
「ミヌトン公爵陛下。ジアーノンのミュラ七世より伝言を伝えに参りました」

それはジアーノンの使者であった。急な使者に驚くミヌトン公爵が、用件を尋ねる。
「お・・・ジアーノンのミュラ七世陛下がワシに何のようなのじゃ」
「はい。今、辺境大連合の大軍が、アースレインの侵略からこの国を守る為にアントルンにやってきております。共に侵略者を打倒しようとのミュラ七世陛下の言葉になります」

それは思いもしなかった援軍であった。まさに孤立無援のこの状態に、一筋の光が差したように感じた。
「それは是非もない。ミュラ七世に伝えくだされ、このミヌトン、辺境大連合の一軍として戦うと」

ジアーノンのミュラ七世は、アントルンの内乱にアースレインがちょっかいを出していることを知ると、残り少ない辺境大連合の国々を総動員して、それを叩くために動き出していた。ただ、その兵力は全盛期とは比べものにならず、総兵力、四万五千と、寂しい大軍であった。


ジュスラン平定軍は、アブラム城へと到着した。ここでシュナイダー、リリスと合流する。

「ジュスラン大将軍、お初にお目にかかります。私はエイメル様より、将軍の地位をいただきましたシュナイダーと申す者です。これより指揮下に入りますので、どうぞお使いください」
「陛下から話は聞いている。よろしく頼むぞ、シュナイダー」

そんな固いやり取りをつまらなそうに聞いていたリリスが、ジュスランにこれからのことを問う。
「まあ、どうでも良いが、さっさと片付けて、家に帰りたいぞ、ジュスラン。次はどうするか決めておるのか」
「はい、リリス殿。アントルンの王宮を奪還しようかと思います」
「王宮にはミヌトン公爵が兵を率いて駐留していると聞きます。ミヌトン公爵は今回の反乱の首謀者ですので、それを討てばアントルンも安定するかと・・」

そう言いながら、シュナイダーはジュスランとリリスの上下関係を気にしていた。普通であれば大将軍といえば、階級的には軍師、元帥将軍に次ぐ地位で、かなりの高い地位である。それを対等以上の口調で話すとは、リリスの地位はどの位置にあるのだろうか・・

アブラム城は、特に死守する理由はなくなったので、全戦力でアントルン王宮へと侵攻した。王宮にはミヌトン公爵の軍が待ち構えていると考えていたが、予想外の戦力もそこでジュスラン平定軍を待っていた。

「あれはジアーノンの旗・・・」
「ミュラ七世か・・ここでアントルンに介入してくるとは・・」

予想外ではあったが、ジュスランは少しも不安には思ってなかった。兵力はかなりの数がいるようだが、こちらにはリリスもいる。優秀な将軍たちも控えているので負ける気がしなかった。
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