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辺境大戦
辺境大連合方面東防衛戦
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辺境大連合方面の東側を守るのは小さな城だけであった。この場所は、周りを高い山々に囲まれていて、通行できる箇所がこの城が建っている細い渓谷だけな為に、それほど大きな要塞が必要なく、この小さな城で守りは十分であった。
ここに進軍してきたのは、ロギマス王国のフルーブル王が率いる五万の辺境大連合であった。
裕太は、諜報部隊から敵軍の報告をその城の会議室で聞いていて、ロギマスの単語に引っかかり、思い出したようにラスキーに尋ねた。
「ロギマスってラスキーたちがいた国だよね。王様ってどんな人?」
「ロギマスのフルーブル王ですか? そうですね・・一言で言うと空気のような人と言いますか・・存在感が無い人ですね。それをいいことに、息子のビヘイカ王子がいいように国を動かしているのが現実です。あっ、ビヘイカ王子ってのは、お姉ちゃんのお尻を触ったエッチな人です」
「あ・・・なるほど」
俺は前に聞いた話を思い出して納得する。
「父上、ちんたら攻撃してないで、一気にいきましょう」
「・・そうは言ってもなビヘイカ、この渓谷は狭くて、思ったように攻撃できないのだ」
五万の兵がいるのに、実際に攻城戦に参加できているのは二千ほど。そんな状況にイライラしたのか、ビヘイカ王子は、父であるフルーブル王に進言していた。
「崖を登って、裏に回るのはどうですか」
「バカを言うな、あんな崖を誰が登れるのだ」
「やってみなけりゃわからんでしょ、ミュジ軍かラルタ軍にやらせましょう」
「・・・では、ミュジ軍にそう要請してくれ」
他国の軍なら、失敗してもいいだろうと、この親子共通の計算で、話はまとまる。
断崖絶壁を登って裏に回るという、難題を押し付けられたミュジ軍は、総大将の指示には全力で従うと、真面目な軍人気質で、それを実行した。
崖は高さ100メートルはある断崖絶壁である。ミュジ軍は、最初に100人の精鋭を選抜して、その崖を登り始めた。100人は、全員長いロープを持参しており、上までたどり着いたら、そのロープを下に垂らして、どんどん兵を登らせる予定であった。
だが、上から落ちてきたのはロープではなく、崖を登っていた兵達であった。落ちてきた兵を見ると、刃物による切り口がある、なので足を踏み外したのではないようであった。
実は崖の上には、ファシーの大隊の兵が配置されていた。もしもの時の為に、配置されていたのだが、まさか本当にこの崖を登ってくるとはと驚いていた。
「崖は無理か・・・」
ミュジ軍の話を聞いて、フルーブル王もさすがにそう判断した。だとすればどうすればいいのか・・策に乏しい総大将は途方にくれた。
八方塞がりの辺境大連合軍と違って、アースレインには優秀な軍師がこの場に居た。
「そろそろ、あの辺境大連合軍を叩こうかと思う」
軍師の言葉に、裕太が反応する。
「どうするんだフィルナ」
「あんな狭い渓谷に、無用心に布陣してるんだ。いくらでも叩く方法はあるよ」
頼もしい言葉である。フィルナは、無数にあるその方法の中から一つの策を選んだ。それは楽で効果的に思えた。
「なんだと・・ミュジ軍が裏切りそうだと・・」
「そうなんだ父上、部下や、他国の者がみんな話している。どうやらアースレインと内通しているようだ」
「あの無茶な指示で、不信感を持ったか・・」
「そうなると今の状況は危険だ、ミュジ軍は最前線にいる、そこで寝返られたら前線が混乱するぞ。ここは一旦、ミュジ軍を後方に下げてはどうだろか」
「そうだな・・」
こうして、ミュジ軍は前線から後方に下げられることになった。裏切りの疑いをかけられ、無茶な指示を出され、信用されず後方に下げられたミュジ軍は、さすがにフルーブル王に多少の怒りを感じていた。
もちろん、これはフィルナの流言の策であった。この流言により、ミュジ軍が後方に行くことは、計算されたものである。そして、ミュジ軍が後方に追いやられた夜・・
無数の矢が、後方から、辺境大連合の陣へと放たれた。まさかの後ろからの夜襲に、軍は大混乱に陥る。
「何事だ!」
「ミュジ軍が攻撃してきたみたいだ!」
「なんだと!」
後ろにいるのはミュジ軍しかいない、なので必然的に、それがミュジ軍の仕業と思い込んだのだが、本当は、渓谷の上から、アースレイン軍のファシーとヒュレルの特務大隊が放ったものであった。夜なので、それが見えずに、完全にミュジ軍の仕業に仕立て上げた。
「ミュジめ・・許さんぞ! 全軍、ミュジ軍を討伐せよ!」
混乱から立ち直ると、辺境大連合は、後方のミュジ軍に襲いかかった。その攻撃に、最初は驚いたミュジ軍であったが、不信感から、自分らを皆殺しに来たと思い、それにフルーブル王への不信感も愛重なって、強烈な反撃に出る。
10,000のミュジ軍に対して、ロギマスを中心とした辺境大連合は40,000、戦力差はあったが、大混乱と、後ろからファーとヒューの大隊の破壊工作が重なり、泥沼の戦いへと導かれた。
夜が明け、戦いが終わると、皆殺しになったミュジ軍と、ボロボロで壊滅状態の辺境大連合の姿がそこにあった。
ここに進軍してきたのは、ロギマス王国のフルーブル王が率いる五万の辺境大連合であった。
裕太は、諜報部隊から敵軍の報告をその城の会議室で聞いていて、ロギマスの単語に引っかかり、思い出したようにラスキーに尋ねた。
「ロギマスってラスキーたちがいた国だよね。王様ってどんな人?」
「ロギマスのフルーブル王ですか? そうですね・・一言で言うと空気のような人と言いますか・・存在感が無い人ですね。それをいいことに、息子のビヘイカ王子がいいように国を動かしているのが現実です。あっ、ビヘイカ王子ってのは、お姉ちゃんのお尻を触ったエッチな人です」
「あ・・・なるほど」
俺は前に聞いた話を思い出して納得する。
「父上、ちんたら攻撃してないで、一気にいきましょう」
「・・そうは言ってもなビヘイカ、この渓谷は狭くて、思ったように攻撃できないのだ」
五万の兵がいるのに、実際に攻城戦に参加できているのは二千ほど。そんな状況にイライラしたのか、ビヘイカ王子は、父であるフルーブル王に進言していた。
「崖を登って、裏に回るのはどうですか」
「バカを言うな、あんな崖を誰が登れるのだ」
「やってみなけりゃわからんでしょ、ミュジ軍かラルタ軍にやらせましょう」
「・・・では、ミュジ軍にそう要請してくれ」
他国の軍なら、失敗してもいいだろうと、この親子共通の計算で、話はまとまる。
断崖絶壁を登って裏に回るという、難題を押し付けられたミュジ軍は、総大将の指示には全力で従うと、真面目な軍人気質で、それを実行した。
崖は高さ100メートルはある断崖絶壁である。ミュジ軍は、最初に100人の精鋭を選抜して、その崖を登り始めた。100人は、全員長いロープを持参しており、上までたどり着いたら、そのロープを下に垂らして、どんどん兵を登らせる予定であった。
だが、上から落ちてきたのはロープではなく、崖を登っていた兵達であった。落ちてきた兵を見ると、刃物による切り口がある、なので足を踏み外したのではないようであった。
実は崖の上には、ファシーの大隊の兵が配置されていた。もしもの時の為に、配置されていたのだが、まさか本当にこの崖を登ってくるとはと驚いていた。
「崖は無理か・・・」
ミュジ軍の話を聞いて、フルーブル王もさすがにそう判断した。だとすればどうすればいいのか・・策に乏しい総大将は途方にくれた。
八方塞がりの辺境大連合軍と違って、アースレインには優秀な軍師がこの場に居た。
「そろそろ、あの辺境大連合軍を叩こうかと思う」
軍師の言葉に、裕太が反応する。
「どうするんだフィルナ」
「あんな狭い渓谷に、無用心に布陣してるんだ。いくらでも叩く方法はあるよ」
頼もしい言葉である。フィルナは、無数にあるその方法の中から一つの策を選んだ。それは楽で効果的に思えた。
「なんだと・・ミュジ軍が裏切りそうだと・・」
「そうなんだ父上、部下や、他国の者がみんな話している。どうやらアースレインと内通しているようだ」
「あの無茶な指示で、不信感を持ったか・・」
「そうなると今の状況は危険だ、ミュジ軍は最前線にいる、そこで寝返られたら前線が混乱するぞ。ここは一旦、ミュジ軍を後方に下げてはどうだろか」
「そうだな・・」
こうして、ミュジ軍は前線から後方に下げられることになった。裏切りの疑いをかけられ、無茶な指示を出され、信用されず後方に下げられたミュジ軍は、さすがにフルーブル王に多少の怒りを感じていた。
もちろん、これはフィルナの流言の策であった。この流言により、ミュジ軍が後方に行くことは、計算されたものである。そして、ミュジ軍が後方に追いやられた夜・・
無数の矢が、後方から、辺境大連合の陣へと放たれた。まさかの後ろからの夜襲に、軍は大混乱に陥る。
「何事だ!」
「ミュジ軍が攻撃してきたみたいだ!」
「なんだと!」
後ろにいるのはミュジ軍しかいない、なので必然的に、それがミュジ軍の仕業と思い込んだのだが、本当は、渓谷の上から、アースレイン軍のファシーとヒュレルの特務大隊が放ったものであった。夜なので、それが見えずに、完全にミュジ軍の仕業に仕立て上げた。
「ミュジめ・・許さんぞ! 全軍、ミュジ軍を討伐せよ!」
混乱から立ち直ると、辺境大連合は、後方のミュジ軍に襲いかかった。その攻撃に、最初は驚いたミュジ軍であったが、不信感から、自分らを皆殺しに来たと思い、それにフルーブル王への不信感も愛重なって、強烈な反撃に出る。
10,000のミュジ軍に対して、ロギマスを中心とした辺境大連合は40,000、戦力差はあったが、大混乱と、後ろからファーとヒューの大隊の破壊工作が重なり、泥沼の戦いへと導かれた。
夜が明け、戦いが終わると、皆殺しになったミュジ軍と、ボロボロで壊滅状態の辺境大連合の姿がそこにあった。
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