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辺境の王
エルフの決断
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エルフの集落は、そこから歩いて数十分ほどの距離の場所であった。集落まで来ると、俺たちは多数のエルフに囲まれた。
「ここの長に話があるんだけど、伝えてもらえるか」
俺がそう、伝えると、一人のエルフが、奥へと走っていく。他のエルフは、弓を引いて、いつでも俺たちを打ち抜けるように構えている。しばらくすると、奥から銀の長い髪のエルフが姿を現した。
「私がここの長老のクェンズだ。お前たちは何者で、何の用だ」
「俺はアースレイン王国のエイメル・アースレインだ。先ほど、お前たちの仲間に襲われた。それは襲撃者たちの命で償ってもらったので構わないのだが、この先のエディス山に用事がある。どうやらそこはエルフの聖地とやらで、俺たちの侵入をよく思っていないらしい。それで話をしに来た」
クェンズは、それを聞いて、表情を変えることもなく、こう返答してきた。
「話すことはない。あそこはエルフの聖地だ。お前たち人間が入ってよい場所ではない」
「誰が決めたことだ。誰がそんなつまらないことを決めたのだ」
「つまらないこと・・・我らの聖地をつまらないことだと言うのか」
「そうじゃない。人間は入れないという決まりが、つまらないと言っているのだ。種族によって、この世界で入れない場所があるという事実が、どれくらいつまらないことか・・・それは差別という考えだ。俺が最も嫌う考えだよ」
クェンズは、差別という、聞きなれない言葉に戸惑う。現代日本では、差別についての認識があるが、この世界では、そもそもそんな考えが存在しないようである。
「差別とはなんだ、アースレイン王よ」
「自分と違うものを、自分とは違うという理由で、その権利を制限することだ」
「ほほう。だが、それは人間もしていることだな」
「そうかもしれないが、俺は決して差別をしない。だから、俺に対しての差別も認めない」
「勝手な言い分だな」
「それが自由というものだ」
ハイ・エルフは、その精神進化において、この世界では類を見ない発展をしていた。だが、そんなハイ・エルフの長老にとっても、現代人である裕太の考えは途方もない考えで、そして新鮮な刺激であった。
「アースレイン王、あなたの話は人間の考えのように聞こえない。それはどういうことだ」
「クェンズ長老。あなたがそう思うのなら、俺はすでに人間ではないのかもしれない。人間もエルフも竜人も巨人も、俺にとっては同じ人という生物だ。言葉を交わし、心を通わせることができるのなら、そこに何の違いがあるのだろうか」
それを聞いたエルフの長老は、何やら考え込む。そして引き出した答えを口にした。
「実に面白い。人間がここまで成長しているとは驚きだ。これは認識を変える必要があるようだな。確かに、人間が入ってはダメなどと誰が決めたんだろな・・古の掟など、どれほどの価値があるのか・・よかろう。エディス山へ行くことを許可しよう。そしてお前たちを襲ったことを詫びよう」
「ありがとうございます、クェンズ長老。こちらこそ、襲撃者を殺してしまいました。申し訳ないです」
「襲いかかた者を返り討ちにして謝ることもなかろう。お前たちが気にとめることではない」
エルフの独特の感性だろうか、仲間の死を、感情的な理由だけで善悪の判断をしないようである。
その日は、日が暮れ、遅いこともあってその集落で宿泊させてもらえることになった。これはアルカにとって、異例中の異例である。それほどクェンズ長老は、裕太のことを気に入ったと言える。クェンズ長老と裕太の話を聞いていた、他のエルフの指導者たちも、裕太の話には何かしらの感銘を受けたようであった。
エルフが人間を歓迎する日が来るとは・・アリューゼは、これまでの常識が覆っていくのを感じていた。あの、エイメルに従属した時、普通の王ではないことを感じてはいたが、まさかエルフに人間を認めさすほどのことをやってのけるとは・・予測できない、この先のことを考えると、胸が高鳴っていくのが自分にも分かった。
「ここの長に話があるんだけど、伝えてもらえるか」
俺がそう、伝えると、一人のエルフが、奥へと走っていく。他のエルフは、弓を引いて、いつでも俺たちを打ち抜けるように構えている。しばらくすると、奥から銀の長い髪のエルフが姿を現した。
「私がここの長老のクェンズだ。お前たちは何者で、何の用だ」
「俺はアースレイン王国のエイメル・アースレインだ。先ほど、お前たちの仲間に襲われた。それは襲撃者たちの命で償ってもらったので構わないのだが、この先のエディス山に用事がある。どうやらそこはエルフの聖地とやらで、俺たちの侵入をよく思っていないらしい。それで話をしに来た」
クェンズは、それを聞いて、表情を変えることもなく、こう返答してきた。
「話すことはない。あそこはエルフの聖地だ。お前たち人間が入ってよい場所ではない」
「誰が決めたことだ。誰がそんなつまらないことを決めたのだ」
「つまらないこと・・・我らの聖地をつまらないことだと言うのか」
「そうじゃない。人間は入れないという決まりが、つまらないと言っているのだ。種族によって、この世界で入れない場所があるという事実が、どれくらいつまらないことか・・・それは差別という考えだ。俺が最も嫌う考えだよ」
クェンズは、差別という、聞きなれない言葉に戸惑う。現代日本では、差別についての認識があるが、この世界では、そもそもそんな考えが存在しないようである。
「差別とはなんだ、アースレイン王よ」
「自分と違うものを、自分とは違うという理由で、その権利を制限することだ」
「ほほう。だが、それは人間もしていることだな」
「そうかもしれないが、俺は決して差別をしない。だから、俺に対しての差別も認めない」
「勝手な言い分だな」
「それが自由というものだ」
ハイ・エルフは、その精神進化において、この世界では類を見ない発展をしていた。だが、そんなハイ・エルフの長老にとっても、現代人である裕太の考えは途方もない考えで、そして新鮮な刺激であった。
「アースレイン王、あなたの話は人間の考えのように聞こえない。それはどういうことだ」
「クェンズ長老。あなたがそう思うのなら、俺はすでに人間ではないのかもしれない。人間もエルフも竜人も巨人も、俺にとっては同じ人という生物だ。言葉を交わし、心を通わせることができるのなら、そこに何の違いがあるのだろうか」
それを聞いたエルフの長老は、何やら考え込む。そして引き出した答えを口にした。
「実に面白い。人間がここまで成長しているとは驚きだ。これは認識を変える必要があるようだな。確かに、人間が入ってはダメなどと誰が決めたんだろな・・古の掟など、どれほどの価値があるのか・・よかろう。エディス山へ行くことを許可しよう。そしてお前たちを襲ったことを詫びよう」
「ありがとうございます、クェンズ長老。こちらこそ、襲撃者を殺してしまいました。申し訳ないです」
「襲いかかた者を返り討ちにして謝ることもなかろう。お前たちが気にとめることではない」
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その日は、日が暮れ、遅いこともあってその集落で宿泊させてもらえることになった。これはアルカにとって、異例中の異例である。それほどクェンズ長老は、裕太のことを気に入ったと言える。クェンズ長老と裕太の話を聞いていた、他のエルフの指導者たちも、裕太の話には何かしらの感銘を受けたようであった。
エルフが人間を歓迎する日が来るとは・・アリューゼは、これまでの常識が覆っていくのを感じていた。あの、エイメルに従属した時、普通の王ではないことを感じてはいたが、まさかエルフに人間を認めさすほどのことをやってのけるとは・・予測できない、この先のことを考えると、胸が高鳴っていくのが自分にも分かった。
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