上 下
9 / 38
胎動編

第9話 狙うは足!

しおりを挟む
 リカルド兄さんと別れてから歩く事、数分。
 目的地にはまだつかない。

 部屋から出てからなら、確実に10分以上は歩いている。

 ちょっと、お城って広すぎない?

「ねえ、ルイン? まだつかないの?」

「もう少々かかります姫様」

 まだかかるのか……

 今まで部屋に籠りっきりだったので、お城の中の様子が見られるのは新鮮で楽しいのだけれど、歩くのにも疲れて来た。

 それにしても、貴族教育って何するんだろう?

 フワっとしたイメージしかないけど、優雅なお茶会とか食事の際のマナーとか、そういうのなのかね?

 和洋中の一般的なマナーとか所作なら少しは分かるけど、他に参考になりそうな知識は無いのよね。
 少女漫画とかも食指が動かず、ほとんど読んでないし……

 音を立てて茶器とかを置いたら、教育係の人からピシッと指し棒ではたかれて、嫌みな叱られ方をしたりするのかしら?
 キャッキャウフフな風に見えて、その裏側で行われる宮廷内でのドロドロとした人間関係を、優雅なマナーと所作で武装して戦ったりとか?
 
 色々と気が重いわ……
 なぜ、こんな面倒な立場に転生させられたんだろう。

 あの神様と連絡が取れる様になったら、この疲れた足の事も含めて文句でも言いたい気分だ。

 そんな事を考えながら歩いていると、ようやく「ここです」とルインが言い、目的地に到着した。

 だけど、案内された場所は、想像していた所とは真逆の、なんとも殺風景な所だった。

 先程までの城内の雰囲気とはガラリと変わり、学校の体育館並みに広く、天井も同様に広く高い。
 床も絨毯などでは無く、むき出しの土を踏みしめた物で、壁や天井も打ちっぱなしのコンクリートみたいな物で出来ていて、一切の飾りつけが無い。

 中からは、ほのかに運動部の部室や練習場の様な汗の臭いが漂い、並べて立てられた案山子みたいな丸太人形や、焼け焦げた跡のある土嚢の山、使い物にならなくなった木剣や丸太らしき物が隅に乱雑に積まれているのが目についた。

「何? ここ?」

「城内の近衛用訓練所です」

 うん、まあ、そんな感じには見えるけど?

 いや、そう言う事じゃなくて。

「ここで何するの?」

「姫様には、クーゲル王族としての心構えを学んでいただきます」

 心構えとな……?

 私が困惑していると「先ずは、こちらへ」と備え付けの個室に連れていかれ、フリフリのドレスから、丈夫そうな厚手の服に着替えさせられた。

 ルインは、私に着せた衣類の全身をチェックし、その上から簡易の皮鎧の様なプロテクターも着せてきた。

「サイズは……大丈夫ですね。どこか動きにくい所はございますか?」

「いや、無いけど……」

「では、訓練所へ戻りましょうか。先ずは、準備運動から始めましょう」

 言われるがままに着いて行き、ルインの指導を受けながら簡単な準備運動とウォーミングアップをさせられた。

 この国の王族には、体育みたいな教育が必須なのだろうか?

 内容的には幼児の私に合わせた内容っぽいけど、運動不足気味だった私には、そこそこな運動量だった。

「はぁ……はぁ……」

「次の準備をいたしますので、少々お待ちください」

 彼女はそう言うと、土魔法で何かを用意し始めた。

 見た感じ、私より頭一つは大きい人型の人形だけど……

「さあ、姫様。ローキックの練習から始めましょうか」

「ちょっと待って。なんでローキック?」

「大半の敵へ有効な攻撃手段だからですが?」

 ですが?ではない。

 私って、お姫様なんだよね?
 何故ローキック?
 この国の貴族は、舞踏会ではなく武闘会をするのが基本なの?

「いいですか、姫様? 人でも魔物でも、その殆どが足を持ちます。その足さえ潰せば、後はどうとでもなるのです。その場を動けなくなった相手は良いマトですし、こちらが不利な状況だったとしても、相手の足さえ鈍らせれば逃走を容易にし、仕切り直すこともできます。戦闘において、確実に有利な状況へと導く攻撃が足への攻撃なのです」

「なるほど――じゃなくて! 何故、私がローキックとか戦う方法を学ぶ事になったのかを聞きたいの!」

「え……?」

 いや、なんだその困惑顔は?

 困惑しているのはこっちよ。

「……そう、ですね。申し訳ございませんでした姫様。考えてみれば、クーゲル王国の王族としての役目のご説明がまだでしたね。騎士に憧れがあるものと思い、勘違いしておりました」

 なるほど?

 私が作ってるのは騎士ではなくロボット達の模型なのだけど。
 それは良いとして、あれらの所為で騎士に憧れがあるものと勘違いされていたのか。

 いや、それでも、止めさせるならまだしも、一国のお姫様に戦闘訓練を施そうとするのはいかがなものか?

「私達の国、クーゲル王国の生い立ちは、大きな木と大きな人でご存じの通りですが」

「いや、初耳だけど? あの絵本って史実なの?」

「はい。まだ早いかと思い、建国記の本はお見せしておりませんでしたね。そちらをお読みになれば、お分かりになると思いますが。我々、人族は世界樹がある聖地を未だ奪還できておりません。その聖地奪還を目的として建国されたのが、我らが国、ノインクーゲルなのです」

 少し、嫌な予感がしてきた。

「えーと、つまりは、その役割を王族も担っている……って事?」

「はい。聖地奪還のため、ボリス王とセレイナ女王も、ほぼ毎日、交代で魔物の討伐へと出ておりますし。先ほどのリカルド王子も、国内の魔物討伐の遠征から帰ってきたところです」

 どうりで、パパンとママンの二人が揃って居る事が稀なわけだ。

 そして、それを私もやる事になると……?

「さぁ、姫様。この腿の外側か、関節のやや裏側ぎみの箇所を狙うのが効果的です」

 こうして、この日は、訓練で疲れ果て、私は泥の様に眠る事となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...