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Anniversary 1st Season

『体育祭権謀術数模様 -Happy Days!-』【5.後半戦】 [4]

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 坂本と同着で最後の関門へと滑り込んだ三樹本の背中を見やりつつ、俺はヒタスラ神頼みに縋る。
(――頼む、イロモノ問題カモーン!!)
『問題! これは答え抜け形式です!』
 そこでスピーカーを通して聞こえてきた出題者の声。――『答え抜け形式』……つまり、出題される問題は“答えが複数用意されてある”パターンだ。
 うっしゃ! まずは“大幅なタイムロス”というハメになることだけは避けられたか。
(後は三樹本が、坂本よりも早く答えられるか、それともさほど大差なく答えられるか……そこがカギだな……)
 ゴクリと生唾を飲み込みつつ……響いてくるであろう出題者の次の声を、ジッと、待つ―――。


『あなたが今かかえているバトンのスリーサイズを、上から順に答えなさい!』


 ――ガクリ。と、思わず俺はその場で脱力。…なんだよそりゃ。
 そんなの、誰が答えられるか、っつーの! ――と俺がアタマを抱えてみた途端。


『――上から、七五・五〇・七五っ!!』


 即行、マイクを通して響いてきた三樹本の声。――即答かいっ……!!
 しかも同時に、『うぎゃーっっ!! なんでそんなこと知ってるのぉうーっっ!!』と響いてくる、小泉の、まるで断末魔のよーな色気も何も無い叫び声。――つまり“ズバリ正解!”ってーコトかいっ……!!
 よって三樹本は最後の障害を難なくスルー、そのまま一直線にゴールイン。
(――アンカーにアイツを置いといて、マジでラッキー……!!)
 この時ほど、それを噛み締めたことは無い。…ついでに、『イロモノ問題カモーン!』という俺の神頼みを叶えてくれた神様、ドウモアリガトウっっ!!
 一方、坂本は、というと……サスガのアイツでも、カノジョでもない由良のスリーサイズまでは知らなかったらしく……しばしパッタリ硬直していたものの。
『あー……? ――七七・六〇・八〇、だっけ……?』
『――坂本センパイ……それリンダちゃんのスリーサイズ』
 答えては即座に由良から訂正を入れられて。――と同時にスピーカーから聞こえてきた“バキャッ”とも“ごりゅっ”ともつかない、マイクを握り潰したよーな不穏な音は……おそらく絶対、当の『リンダちゃん』こと梨田サンによるものに違いない。…コレは後がオソロシイことになりそうだ。
 そうやって、未だ由良のスリーサイズを巡ってあーでもないこーでもないと葛藤し続ける坂本を眺めつつ、「ご愁傷サマ」と、コッソリ俺は呟いて心の中で手を合わせる。…合掌。
『うあああ、こんなことならアンカーに武田を置いとくんだったあああああッッ!!』
(――確かにっ……!!)
 そんな悲痛なヤツの絶叫に、心の底からの同意と共に深ーく頷いてしまったのは……きっと俺だけではないだろう。


 ――こうして……“優勝候補”である生徒会チームを下し、ぶっちぎり一位という素晴らしいタイムで、俺たち天文部チームは、この《部活動対抗障害物リレー》においてブジ優勝を収めることが出来たのでアル。…めでたしめでたし。


(…てゆーか、そんなことよりもッッ!)


「――しっかし、『上から、七五・五〇・七五』って……」
「それが本当なら……アイツ、ナニゲにナイスバディ……?」


 いつの間にやら俺の背後へと移動してきていた碓氷センセーと早乙女が、ボーゼンと、それを呟き。
 ――そう!! そうなんだよ!! そこだよねモンダイは!!
 やっぱり、そう考えたのは俺だけじゃなかったか。
「普段から細い細いとは思っていたが……確かに、抱え上げた時も軽かったけれども……ウエスト五〇㎝って、ハンパじゃねえよ……」
「そんでもってバスト七五㎝は反則じゃねえ!? だって、そしたら軽く見積もってもヘーキでDカップかEカップはあるってことだろ!?」
「なんにせよ、単なるチビガキじゃーなかったってコトだよな……」
「むっちゃくちゃカラダだけはオトナじゃん。…つか、エロすぎ」
「…言えてる」


 女が三人集まれば姦しい、と言うように。
 男だって三人も集まれば、会話の中身なんてこんなもんだ。


 ブジにゴールして、ようやく地面に足を下ろすことを許された小泉は。下ろされるや否や即、そのミョーに良く似合うゴスロリの格好のままで、やっぱり全校生徒にまで自分のスリーサイズを知られたのが恥ずかしかったのだろう、真っ赤な顔で三樹本に詰め寄っては両手でバシバシ引っぱたいている。――その姿は、どこをどう見たって、“子供”以外のナニモノでも無いんだけど、なー……。
 そんな和やかで微笑ましい二人の姿を見やり、思わず「理不尽…」と同時に切ないタメ息を洩らしてしまった俺たち三人、だったのであったが。
 ――ごほんっ!
 途端、背後からイキナリ聞こえてきたワザトらしい咳払いの声で、ビクッと一瞬、硬直した。
「楽しそうなオハナシ中、とっても申し訳ないんですけれど……」
 恐る恐る振り返ると……やっぱりいつの間に来ていたのか、案の定、両手を腰に当てて立つ高階の姿が。―― 一体アナタどこから聞いてたんデスカ……!?
「そろそろゴールへ、二人を迎えに行きませんこと?」
 そして、イヤにハクリョクのある笑顔でニッコリ。――即座に背筋が凍り付いたよーな寒々しい気分になったのは……きっと俺だけでは無いダロウ。
「あ…ああ、そうだねっ……! そうだったよねっっ……!!」
「やっぱ、ここは労いの言葉の一つでも、掛けてやらなきゃだよなっっ……!!」
「はいはい、そうと決まればレッツらゴーっっ……!!」
 そこでクルリと方向転換一八〇度。
 そのまま俺たちは、揃って三人、脱兎のごとくゴール目指して駆け出したのであった。――あーめでたしめでたし?



   *



「…ったく、アソコであんな問題が出されるとは計算外だったゼ」
 あんなもんクイズじゃねえっ!! とブチブチ愚痴りながら、俺の前で坂本がサンドイッチにかぶりついた。
「そうそう」と、同様にならんだ葛城&田所も愚痴る。やっぱりサンドイッチやらオニギリやら摘まみながら。
「くっそう……!! あれさえ無きゃ、俺たちの優勝が決まってたのに……!!」
「後からマジで梨田っちに地獄を見せられると思うと……生きた心地もしねえよな……」
 ――だったら、しおらしく食欲とか失くしてみやがれ。
「てゆーかテメエら、もう昼休みにシッカリ弁当、食ったんじゃねえのか……?」
 言った途端、「肉体疲労後の栄養補給!」と即座に返ってくる三声ユニゾン。――ふざけんなっっ……!!
「既に昼メシ食い終わってるヤツに、コレを食う資格は無いっ!! つーか俺らの取り分が減るだろがバカモン!!」
「まあまあ、そんな些細なことは気にせずに」
「気になるわ、この三バカどもがーッッ!!」


 ――再び救護テント内。
 昼休みに昼食を食いっぱぐれていた俺たちC組応援団員は。…そしてプラス小泉も。例の競技でバトンになる都合上、ヘタに重くなっちゃマズいと思って昼食は後回しにしていてくれたのだそうだ。
 よって当の《部活動対抗障害物レース》を終えて一段落ついたトコロで俺たちは全員、『桃花と一緒に皆の分も作ってきたから、一緒にお昼たべましょ?』という高階の言葉に従って、そのままココ救護テントまで移動してき、碓氷センセーのカオにモノを言わせて場所を占領すると、屋根の下で弁当を広げて遅いランチタイムに突入していたワケだった。
 そこでハイエナのよーにメシの話題を嗅ぎ付けた《三連山》の面々までくっついてきたのは計算外だったが。


「まあまあ、部長……まだ沢山ありますから……」
 そこでヤンワリと言った高階に、その両脇から「甘い!」と投げ掛けられる、早乙女と碓氷センセーの呼吸ピッタリな二声ユニゾン。
「いいか高階! 既に満腹のヤツにまで食い物を恵んでやる必要は無い!」
「そうだよ高階! ヘタに甘いカオしたら付け上がるだけだって!」
 ――よっぽど腹が減っていたのか、はたまた単に高階の作ったモノを他のヤツラに分け与えたくないだけか……二人そろって言うことがヤケにキツイし。


「てゆーかセンセイ……いい加減コレ、脱いじゃダメ……?」


 弱々しく聞こえてきたそのセリフの方向を見やると……ベッド代わりの長椅子の上、オニギリ片手にチョコンと座る小泉の姿が。――しかも、いまだゴスロリ姿で過剰なフリルとレースに包まれたままである。
「…だ・あ・めっ♪」
 それをメッチャ甘い声で囁くように返すのは、そんな小泉を膝の上に乗せて抱きしめている、――ココ救護テントのあるじ島崎しまざきセンセー。
「せっかく似合ってるんだもの、しばらくそのままで居て? ねっ?」
「うー…でもー……!!」
「ぅきゃーん、もうっ、可愛いわねー桃花チャーンっっ!!」
 ――ぎゅうううううっっ!! と、そこで更に強い抱きしめの刑。…いくら女性は“可愛いものが好き”だとしても、これは行き過ぎなんじゃないだろうか?
(つーか、居たよココにも『ロリコン』が一人……!!)
 しかもセンセー、アナタ女性でしょーが? なんかソコから空気が倒錯的な方向に曲がってるから、いー加減、やめてもらえません?
 …と、サスガに面と向かって言える勇気のある面々は、幸か不幸か、この場には居ない。
「桃花ちゃん? もう今日は一日、このままで居な~い?」
「それはイヤー! だって、サンザンみんなにからかわれるんだもんっっ!!」
 さっき弁当を取りに自分の応援席まで戻った際のことが、小泉の中で、まだ尾を引いているらしい。――確かにアレは凄かった。高階と小泉が並んで戻るなり、周囲の人間、二人に殺到したもんなー。『写真とらせてっ!!』をはじめ、『お疲れー』と労いがてら『カワイイー♪』『カッコイイー♪』とモミクチャにされかかり……慌てて二人とも弁当もって抜け出してはこれたものの、救護テントへ向かう間も道すがら、何かしら周囲の視線が纏わり付いてたからなー。
「知らないヒトにまで『写真とらせて』なんて言われるのは……ちょっとカンベンだよ、もう」
 ゲンナリした表情で小泉が呟き、そうしてから手の中のオニギリにパクついた。
 パクつきながら……そこでフと何かに気付いたように、顔を上げる。


「あ、でも、そういえばこの服、一人じゃ脱げないんだっけ。――島崎センセイ、お願い、脱がせて?」


 ――小泉、オマエもー……!! いくら無自覚とはいえ、そのセリフは更に倒錯的な方向にいくからヤメれーッッ……!!


 つーか、それを止めるべき当の“カレシ”はドコ行ったんだ!? と、慌ててイラッとしたままその場を見渡すも。――居ねぇし三樹本。
(そういえば……元々から居なかったよーな気もする……?)
 はて、そしたらヤツはドコへ…? と、訝しく思って俺が、三樹本の行方を問うべく、それを言葉に出そうと口を開いてみた、――その途端。


「あーいたいた桃花! ――みさおちゃん、ちょっくら桃花、借りてくなー?」


 ふいにバタバタとテント内に飛び込んできた三樹本が、呆気に取られる皆を尻目に、「いやーん、ダメーっ!!」と拒否る島崎センセーの言葉など何のその、ヒョイッと小泉を抱き上げその膝の上から取り上げると、そのまま走って再びテントから出ていってしまった。
「な…何しに来たんだアイツ……?」
 ボーゼンと俺が呟いたと同時、「ああ!」と思い出したように、碓氷センセーがポンッと手を打つ。
「そういえばアイツ、いま競技出場まっ最中じゃねえ?」
「――はい……!?」
 その言葉で、慌てて視線を去っていったばかりの三樹本の行方に向けると……ナルホド、確かにヤツは小泉を抱えたままゴール目指してまっしぐらに走っている。
「あいつ補欠だったんだよ、この競技の。コレに出場予定のヤツが午前の競技でケガしてな。だからさっき、代わりに出るよう頼んどいたんだ」
 ああ、だから碓氷センセー三樹本のこと探してたのか。と、ソコで納得するも。――ちょっと待て……!?
「センセー、その代わりの競技って……」
「だから、今やってるコレだって」
「コレって……確か、“午後の部”初っ端の……」
「そうじゃねえの? ――例の《WANTED! ~ミッション・イズ・『ウォーリーを探せ!』トライアル☆》、“男子の回”だろ?」
 ――ブッッ…!! と、聞くなり食後の茶を飲んでいた例の三人が、その場で口の中のもの全てを勢い良く吹き出した。
 ここで「キタナイ!」と指導を入れてやれる余裕は、俺にも無い。
「ん、なっっ……!?」
(――ちょ、ちょおーっと待ったああああっっ……!?)
 つまり、よーするに……件の《WANTED! ~ミッション・イズ・『ウォーリーを探せ!』トライアル☆》に三樹本が出場して、挙句、“借り人”として小泉を連れてった、ってゆーコトはっっ……!?
「…てゆーことは、つまり、だからっ!?」
 俺とヤツら三人、示し合ったワケでは無かったが、思わず顔を見合わせて叫んでしまった。


「「「「アイツの持ってる“指令”って、一体、ナニっっ……!?」」」」


 ――パン、パアンッ!!


 そこで響き渡るピルトルの音。…つまり、“借り人”探索時間終了の合図、ってコトだよな。
『おーっと、一位は先ほどの《部活動対抗障害物リレー》で大活躍しました天文部のアンカーとバトンペアですねえっ!』
 …しかも案の定、一位だよ三樹本。…よっぽど小泉めがけてまっしぐらに走ってきたとしか思えない。
『そんなC黄色組の、気になる指令は一体……?』
 カサカサとスピーカーから小さく響いてくる、紙を開く音。――そして……、


『おーっと、これは大穴! なんと獲得点数二百点!! ――ズバリ、「アナタのカノジョ」!!』


 うわああああああッッ!! ――と、それで即座に《三連山》の面々がその場で撃沈させられたのは……モチロン、言うまでも無い。





【[6.延長戦]へ続く】
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