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第3−7話 捨てられたペット
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翌朝。
僕は早めに目が覚めた。【獣人】と戦わねばならないと思うと、緊張で中々寝付けなかった。
「おはようございます」
隣の客室をノックする。フルムさんも僕と同じく【マルコ&エース】に宿泊していた。ノックをしてしばらく待つが返事はない。
恐らくまだ寝ているのだろう。
「フルムさんも疲れてるんだよね」
恐らく、フルムさんは僕以上に疲れているはずだ。
妹を連れ去れた状況で与えられたミッション。本来ならば気が気でないはずなのだ。
フルムさんには万全な状態でいて欲しい。
起こすのをやめ、僕は下へ降りていく。
宿屋、【マルコ&エース】は二階が客室となっており、一回はロビーと食堂があった。食堂からは、食欲をそそる香ばしい匂いが流れていた。
中に入ると、厨房でマルコさんが料理を作っていた。作業するマルコさんに挨拶をする。
「おはようございます、マルコさん」
「おお、おはよう。昨日はありがとうな。ユエを連れてきて貰って」
僕の顔を見たマルコさんは、手を止めて小さく頭を下げた。
そんなお礼されるほどのことではないのだけども……。
「いえ。僕にはそれくらいしかできませんから」
ドォォン!!!
突如、外から爆音が響いた。何事かと顔を見合わせた僕たちは、すぐに宿の外へ走る。音がした方角を見ると、離れた場所から煙が上がっていた。
誰かが【魔法】を使ったんだ。
それに、あの場所って……花畑がある方ではないか?同じことをマルコさんも思ったのか、青褪めた顔で言った。
「ユエ!! まさか、アイツ……」
「どうしたんですか?」
「ユエは毎朝、花畑の様子を見に行ってるんだ。もしかしたら、【獣人】に襲われたんじゃ!!」
マルコさんはエプロンを脱ぎ捨て、花畑に駆けだそうとする。
僕はその手を掴み、自分が行くと宣言した。
「でも、昨日よりも危険なんだ。アウラを巻き込むわけには……!!」
「大丈夫です。最初から僕たちは【獣人】に用があるので……。それに、もしかしたら、ユエさんが戻ってくるかも知れません。ですから、マルコさんは、ここに残っててください」
「【獣人」に用があるって、君は一体――?」
困惑するマルコさんに僕は、もう一つ、お願いをした。
「あと、もしフルムさんが目覚めたら、花畑に行ったと伝えてください」
「わ、分かった」
僕は全速力で花畑を目指す。立ち上がる煙が近づくと、昨日、僕がみた美しい鮮やかな紫は、どこにも存在していなかった。
命の輝きがない黒。
花々が焦げ、煙が立ち昇る。
そんな花畑の中心に一人の男が座っていた。
痩せた頬と土や泥で汚れた体。
衣服を一切身に着けていない男は、離れた場所からでも【獣人】でないことが分かる。
そして、周囲には誰もいない。
一先ず、男の人に話しかけるべきか。
「見たところ大きな怪我はしていないようだけど……」
意思のない人形のように、膝を付き力なく項垂れる男。
僕はゆっくり近づき、「大丈夫ですか?」と声を掛ける。
「わあああああぁ!!」
男は僕の存在に気付いたのか、鼓膜が張り裂けんばかりの声量で叫ぶと、迷うことなく詠唱《・・》した。
「【火《ファイア》・球《ボール》】!!」
人が抱えられるほど大きな火の球が、僕を目掛けて放たれる。
【弾《バレット》】よりも、速度は遅いが、威力が高い【魔法】。
「……っ! 【盾《シールド》】!」
僕は咄嗟に盾を生み出し、【魔法】を防ぐ。
火球は盾にぶつかると、爆発と共に轟音を響かせ消滅した。
「よ、良かった」
攻撃を受けても【盾《シールド》】は消えていない。つまり、変換せずに【魔力
】を放出している僕の方が有利だ。
「有利だって分かったのはいいんだけど……」
なんでいきなり、【魔法】を使って僕を攻撃してくるんだ?
錯乱する男は、狂ったように【火《ファイア》・球《ボール》】と詠唱し続ける。
球体が5つ。
ゴゴゴゴゴ。
連なって僕へ襲い掛かる。
男は数を討てば僕の【盾】を壊せると考えたようだ。僕を殺すために、全ての【魔力】を投げ打って戦っていた。
「さっきは不意だったけど!」
余裕があれば、イメージによって消費量を調節できる。
先ほどよりも大きな【盾】をイメージした僕は、全ての攻撃を防ぎ切った。
「なっ!!」
1個だけの【盾《シールド》】で防ぎ切られると、男は思っていなかったのだろう。驚きの声を上げ、攻撃の手を緩めた。
「今だ!!」
僕は無詠唱で【弾《バレット》】を放つ。
通常よりも威力を抑えた。
ドッ!!
男の腹部に当たり、呻き声を上げて蹲る。
動きを止めた男の両手を【鎖《チェーン》】で固定する。
「だ、大丈夫ですか?」
胃が揺さぶられたのか、唾液を地面に吐き出す。
「が、はっ……。ああ」
威力を調節したつもりだったんだけど、まだ、未熟なようだ。
今後、鍛錬をしないと……。
男は、何度か呼吸を繰り返して、息を整える。
話せるようになった途端、男は僕に命乞いをした。
「俺は、俺は……。ただ、【獣人】に言われたことをしただけだ。た、助けてくれ!!」
両手を後ろで縛られた男は、膝を付き、地面に頭を何度も打ち付けた。石で額を切ったのか血がにじむ。
明らかに異常だった。
僕は男の肩を掴んで落ち着かせる。
「お、落ち着いてください。僕は何もあなたに危害を加える気はないんです。ただ、あなたが攻撃してきたから――」
「そう言われたんだ。こ、ここに来た奴は殺せ。そうすれば、助けてやるって……。俺は悪くない。ユエが先に手を出したんだ」
虚ろな目で男はユエさんの名を出した。
「ユエさんがここに来たんですか?」
「……あいつがご主人様に手を出したんだ。村人との約束を破ってまで、こんな畑を……守ろうと」
「詳しく教えてください!」
僕の言葉に男はブツブツと起こった出来事を羅列していく。順序がバラバラで理解に時間が掛かったが、何が起こったのか把握できた。
【獣人】は村人との約束を破るために、ユエさんを利用したんだ。
ユエさんが毎朝ここに来る。
そのタイミングで、花畑を荒らすことで、ユエさんが自分から手を出すように仕向けたんだ。
「俺は、もう、飼われるのは嫌だ。助けてくれ! 頼むよ!」
そして、この人は救援を助けに村を出た中の一人だった。
他の人間は殺され、たった一人、【獣人】のペットとして飼われていたのだと言う。
「分かってます。あなたは自由ですから、早く非難して他の村人に伝えてください」
でも、ユエさんと【獣人】はどこに行った?
まさか、入れ違いになったのか!?
僕が宿に戻ろうとしたところで――村から轟音が響いた。
僕は早めに目が覚めた。【獣人】と戦わねばならないと思うと、緊張で中々寝付けなかった。
「おはようございます」
隣の客室をノックする。フルムさんも僕と同じく【マルコ&エース】に宿泊していた。ノックをしてしばらく待つが返事はない。
恐らくまだ寝ているのだろう。
「フルムさんも疲れてるんだよね」
恐らく、フルムさんは僕以上に疲れているはずだ。
妹を連れ去れた状況で与えられたミッション。本来ならば気が気でないはずなのだ。
フルムさんには万全な状態でいて欲しい。
起こすのをやめ、僕は下へ降りていく。
宿屋、【マルコ&エース】は二階が客室となっており、一回はロビーと食堂があった。食堂からは、食欲をそそる香ばしい匂いが流れていた。
中に入ると、厨房でマルコさんが料理を作っていた。作業するマルコさんに挨拶をする。
「おはようございます、マルコさん」
「おお、おはよう。昨日はありがとうな。ユエを連れてきて貰って」
僕の顔を見たマルコさんは、手を止めて小さく頭を下げた。
そんなお礼されるほどのことではないのだけども……。
「いえ。僕にはそれくらいしかできませんから」
ドォォン!!!
突如、外から爆音が響いた。何事かと顔を見合わせた僕たちは、すぐに宿の外へ走る。音がした方角を見ると、離れた場所から煙が上がっていた。
誰かが【魔法】を使ったんだ。
それに、あの場所って……花畑がある方ではないか?同じことをマルコさんも思ったのか、青褪めた顔で言った。
「ユエ!! まさか、アイツ……」
「どうしたんですか?」
「ユエは毎朝、花畑の様子を見に行ってるんだ。もしかしたら、【獣人】に襲われたんじゃ!!」
マルコさんはエプロンを脱ぎ捨て、花畑に駆けだそうとする。
僕はその手を掴み、自分が行くと宣言した。
「でも、昨日よりも危険なんだ。アウラを巻き込むわけには……!!」
「大丈夫です。最初から僕たちは【獣人】に用があるので……。それに、もしかしたら、ユエさんが戻ってくるかも知れません。ですから、マルコさんは、ここに残っててください」
「【獣人」に用があるって、君は一体――?」
困惑するマルコさんに僕は、もう一つ、お願いをした。
「あと、もしフルムさんが目覚めたら、花畑に行ったと伝えてください」
「わ、分かった」
僕は全速力で花畑を目指す。立ち上がる煙が近づくと、昨日、僕がみた美しい鮮やかな紫は、どこにも存在していなかった。
命の輝きがない黒。
花々が焦げ、煙が立ち昇る。
そんな花畑の中心に一人の男が座っていた。
痩せた頬と土や泥で汚れた体。
衣服を一切身に着けていない男は、離れた場所からでも【獣人】でないことが分かる。
そして、周囲には誰もいない。
一先ず、男の人に話しかけるべきか。
「見たところ大きな怪我はしていないようだけど……」
意思のない人形のように、膝を付き力なく項垂れる男。
僕はゆっくり近づき、「大丈夫ですか?」と声を掛ける。
「わあああああぁ!!」
男は僕の存在に気付いたのか、鼓膜が張り裂けんばかりの声量で叫ぶと、迷うことなく詠唱《・・》した。
「【火《ファイア》・球《ボール》】!!」
人が抱えられるほど大きな火の球が、僕を目掛けて放たれる。
【弾《バレット》】よりも、速度は遅いが、威力が高い【魔法】。
「……っ! 【盾《シールド》】!」
僕は咄嗟に盾を生み出し、【魔法】を防ぐ。
火球は盾にぶつかると、爆発と共に轟音を響かせ消滅した。
「よ、良かった」
攻撃を受けても【盾《シールド》】は消えていない。つまり、変換せずに【魔力
】を放出している僕の方が有利だ。
「有利だって分かったのはいいんだけど……」
なんでいきなり、【魔法】を使って僕を攻撃してくるんだ?
錯乱する男は、狂ったように【火《ファイア》・球《ボール》】と詠唱し続ける。
球体が5つ。
ゴゴゴゴゴ。
連なって僕へ襲い掛かる。
男は数を討てば僕の【盾】を壊せると考えたようだ。僕を殺すために、全ての【魔力】を投げ打って戦っていた。
「さっきは不意だったけど!」
余裕があれば、イメージによって消費量を調節できる。
先ほどよりも大きな【盾】をイメージした僕は、全ての攻撃を防ぎ切った。
「なっ!!」
1個だけの【盾《シールド》】で防ぎ切られると、男は思っていなかったのだろう。驚きの声を上げ、攻撃の手を緩めた。
「今だ!!」
僕は無詠唱で【弾《バレット》】を放つ。
通常よりも威力を抑えた。
ドッ!!
男の腹部に当たり、呻き声を上げて蹲る。
動きを止めた男の両手を【鎖《チェーン》】で固定する。
「だ、大丈夫ですか?」
胃が揺さぶられたのか、唾液を地面に吐き出す。
「が、はっ……。ああ」
威力を調節したつもりだったんだけど、まだ、未熟なようだ。
今後、鍛錬をしないと……。
男は、何度か呼吸を繰り返して、息を整える。
話せるようになった途端、男は僕に命乞いをした。
「俺は、俺は……。ただ、【獣人】に言われたことをしただけだ。た、助けてくれ!!」
両手を後ろで縛られた男は、膝を付き、地面に頭を何度も打ち付けた。石で額を切ったのか血がにじむ。
明らかに異常だった。
僕は男の肩を掴んで落ち着かせる。
「お、落ち着いてください。僕は何もあなたに危害を加える気はないんです。ただ、あなたが攻撃してきたから――」
「そう言われたんだ。こ、ここに来た奴は殺せ。そうすれば、助けてやるって……。俺は悪くない。ユエが先に手を出したんだ」
虚ろな目で男はユエさんの名を出した。
「ユエさんがここに来たんですか?」
「……あいつがご主人様に手を出したんだ。村人との約束を破ってまで、こんな畑を……守ろうと」
「詳しく教えてください!」
僕の言葉に男はブツブツと起こった出来事を羅列していく。順序がバラバラで理解に時間が掛かったが、何が起こったのか把握できた。
【獣人】は村人との約束を破るために、ユエさんを利用したんだ。
ユエさんが毎朝ここに来る。
そのタイミングで、花畑を荒らすことで、ユエさんが自分から手を出すように仕向けたんだ。
「俺は、もう、飼われるのは嫌だ。助けてくれ! 頼むよ!」
そして、この人は救援を助けに村を出た中の一人だった。
他の人間は殺され、たった一人、【獣人】のペットとして飼われていたのだと言う。
「分かってます。あなたは自由ですから、早く非難して他の村人に伝えてください」
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