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第2−8話 監守

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 クレスさんの咆哮に誘われるようにして、空間に扉が現れた。
 母屋も何もない場所に生み出された扉は、教会にでも使用されていそうなデザインだ。

 開いた扉から足を踏み出したのは、男性と女性の二人組だった。

「お、いたいた~! 【獣人】ちゃん発見ー! 相変わらずあのお子ちゃまの言うことは正確だね~。じゃ、さっさと捕えちゃってよ、ウィンちゃん!」

「お前に言われなくても分かっている。黙っていろ」

 男は、金髪をベースに無数の色が混ざった奇抜な髪型。全身が派手で整った顔立ちをしている。服装と顔立ち、そして喋り方から、夜な夜な女性と遊びまわっているような印象を受ける。

 そしてもう1人の女性。男からはウィンちゃんと呼ばれていた。
 腰まで伸びた長い髪を一つに纏めていた。
 全体的に黒を好んでいるのか、唯一色が付いているのは髪を縛っている紐の赤だけだった。
 鋭い視線で僕たちを睨む。

「かー、久々あったのに超クール!! でも、そう言うところも大好きだよ、ウィンちゃん!」

 男は僕たちには目もくれず、隣に立つウィンさんの肩に手を回した。
 鋭い目つきが、剣呑に光る。

「まずは、お前からのようだな」

 彼女は腰に付けた鞄から、手袋を取り出し身に着ける。動きを確認するように手を開いて閉じてを繰り返す。

「それも悪くないかもー。だって、ほら、もう、拘束されてるみたいだし~!!」

「だからと言って、お前が喜ばせる必要はない。さっさとミッションを片付けるぞ」
 
 男たちの背後に浮かんでいた扉が消えた。
 彼女は指先を「クッ」と振るう。
 指の動きに連動するように、「ひゅんひゅん」と風を切る音が聞こえた。
 次の瞬間には、クレスさんが細い糸で繭のように包まれていた。

「糸を……操っている?」

 獣のように喚いていたクレスさんの声が聞こえなくなる。どうやら、音が漏れないほど外と内の空間を遮断しているようだ。
 これも【魔法】の一種なのか?
 属性は――ないように見えるけど……。

 相手の能力を考える僕の横で、

「クレスを離しなさい!!」

 フルムさんが手に持っていた【土《アース》・鞭《ウィップ》】を振るう。
 狙いは糸を使っているウィンさん。
 鞭は弧を描くようにして空を走るが、

「とう、あぶなーい!!」

 派手髪の男に止められた。

 バシッ。 

 両手で白刃取りをするつもりだったのだろうが、鞭は手をすり抜け顔面に当たった。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

 流石に、正面からフルムさんの【鞭《ウィップ》】を受けたんじゃ、重症だろう。
 心配し声を掛けるが、

「くぅ~。大丈夫! 美女からの攻撃は最高のご褒美だね!」

 僕に向けて満面の笑みを返してきた。
 顔にはくっきりと鞭の跡が着いているのだが、まあ、本人が大丈夫というのだから、大丈夫だろうけど……。

 ただ、この人もヤバい人ということは分かった。
 だが、それ以上にヤバい人は僕の隣にいた。
 僕はそっとフルムさんを見る。
 笑みを返す男の人に、何度も無言で鞭を振るって次々と痕を生み出していく。

 糸を操る無表情の女性。
 笑顔で鞭を受ける男。
 無言で男を痛めつけるフルムさん。 
 今、この場で危険じゃないのは僕だけなのでは……?

 場を整理するためにも、僕はウィンさん達に質問を投げた。

「あ、あの。お二人はなんでここに? ひょっとして、【願いの祠】に……?」

 未知の能力。
 ミッション。
 その言葉から容易に想像できる。そして、僕の質問は的を得ていたようで、男が鞭を受けたまま、答えた。

「そうそう。正解、正解~! 俺ら、願いと引き換えに働いてるんだよね~。くぅ~、俺達って働き者だよね!!」

 やはり、あの黒い渦とクレスさんを拘束する糸は、【放出】と同じく赤ん坊から与えられた力。【獣人】と戦うのは僕達だけじゃないと言う訳か。

「じゃあ、あなた達も【獣人】を――クレスさんを倒しに来たんですか?」

「いーや。俺達の目的は【獣人】を捕えることだよ。暴れる獣を捕えて、管理するのが俺達の目的。格好良く言えば監守って奴かな?」

 監守?
 それって、悪い人たちを監視して牢獄とかに閉じ込めておく人だよね?
 僕達が【獣人】を倒して、彼らが捕える。
 そういう仕組みを赤ん坊が構築しているということか……。

 話している僕達に対し、しばらく黙っていたウィンさんが言った。

「アド。喋り過ぎだ。早く【獣人】を回収して帰るぞ。あまり、この場に居たくはない」

 ウィンさんの言葉に、チャラけた表情を消して、繭となったクレスさんを持ち上げた。 

「ごめんね、ウィンちゃん」

「そう思うなら、早く【ドア】を開け」

「はいよ!」

 男が手を前にかざすと、何もなかった場所に再び扉が現れる。
 来た時と同じであれば、あそこから帰るつもりだ! 
 このままでは、クレスさんが連れて行かれてしまう。監守かも知れないけど、まだ、彼らを完全に信じることはできない。

「待ちなさい――ッ!?」

 フルムさんが【魔法】を発動しようと息を吸い込む。
 僕もフルムさんと同じく【放出】を試みるが――、

「なっ!?」

 僕たちの身体が見えない何かで縛られたかのように動かなくなる。
 いや、何かじゃない――糸だ!!
 クレスさんを拘束したあの糸だ!! しかし、分かったところで、動けなければ何も出来ない。

 渦に足を踏み入れる直前、ウィンさんは、僕たちを見て敬礼をした。

「では、互いの願いのために【獣人】狩りに励もうではないか」

「そそ、じゃ~ね~! また、俺をしばいてね。可愛い子ちゃん!」

 律儀な態度で去っていく2人。
 僕たちは扉が消えるのを、黙って見ていることしか出来なかった。
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