《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

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142. 王の真意

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 ここ、ラウ城の議会場にて今まさに両国の和平会談が始まろうとしている。 
 
 果たして和平は成るのかーー
 
 そして、王の遺した遺言状の真贋は…そこにある真実とは。


 (後、五分か…)

 天井を見上げれば巨大な時計が一面にはめ込まれており、議会の妨げにならぬように静かに時を刻んでいる。

 「しかし…人が増えましたね~」

 「何でも、両国の元老院議員を招いているそうだから計八十人になるわね」

 「一国で四十人、多いのか少ないのか…」

 「それはともかく、長らく議会も休止にしていたみたいだから集まるのは久々になるようね」

 世良さんと会話をしながらも集まった人々を観察するのだが老若男女、身に着けている衣類からして身分の違う人々が一斉にここに集まっているのだと改めて感じた。
 しかし、結構ギリギリでは無いかと思うのだが、こちらも王子以下将軍と宰相も少し前に席に着いたばかりで、あちらも将軍と宰相が同タイミングで席に着いている。

 (あちらは王様が先に来てるけど…失礼に当たらないのかな?)


 そんな事を考えている内にも、場内は小声で話をする人の声が響いているのだが時計の針が丁度十時を刺した時「カーン」という乾いた音が響き、それに反応して話声が一斉に止んだ。

 暫しの静寂…そこへ現れたのは聖獣の長、悠然と階段を下り檀上を目指すその身を黒が覆っているのだが、金の刺繍が施されたそのマントに描かれているのは王国の神鳥ではないだろうか。

 「あれって…」

 「本来なら王が羽織るべき物なの、でも…」

 「分かります、一時的に預かっているんですね」

 人身の位にあってあれを身に着けるに相応しい人物は今はいない、それはこれから決まるのだ。 長の後に両国の特使が続くのだが、こちらも法衣が普段とは違いやはり黒地に金の刺繍が施してあるのだが、この場に合わせたフォーマルな装いなのだろう。
 
 両国の首脳は檀上を挟んで向かい合うように座っており、それらに一礼して檀上の一段高い場所に移動すると、両国の特使はそれぞれの陣営に移動し着席する。
 
 ここに全ての準備が整った…、聖獣の長は静かに口を開く。

 『二国の諸侯、並びに庶民の皆様方。 本日はご足労頂き有難く存じます』

 長が深く一礼すると皆それに続く…。

 『私の事を知っている方も多いでしょうが、改めて自己紹介をさせて頂きます。 我が名はア・ズー、聖獣の長を務めており、今回議長を務める事となりました、どうかよろしくお願い致します』

 再度礼を行い、話が続けられる。

 『今回集まって頂いたのは他でもありません。 この度、長年争ってきた二国が和平を結ぶ運びとなりました…しかし、これらは民意の預かり知る所では御座いません』

 (皆聖獣の言葉に静かに聞き入っているな…)

 『故に先ずは民意を問いましょう…和平に賛成する方はご起立をもってその意思を示して頂きたい』

 その言葉に次々と皆が席を立つのだが、中には厳し表情で座っている人もいる…いきなり和平と言われても納得出来ないという気持ちは理解出来るのだが、やがては全員が席を立つ。
 
 『ここに民意は示されました…ありがとうございます、お座り下さい』

 席に座るタイミングが遅い人がいるが、自らの選択に迷いのある人かもしれない。 

 『皆様の意思は分かりました。 しかし、和平を成す為には争いの根源を解決せねばなりません』

 (争いの根源、か…)

 『その根源とは…王位継承権は誰にあるか、この一点につきます』

 話を聞き入っていた人達の空気が変わったように感じる。 この件について決着が着けられると知ってはいただろうが、いざ話し合うとなると浮足立ってしまう気持ちは十分理解出来るのだが…。

 
 「議長、発言の許可を願います」

 『…宜しい、発言を許可します』

 
 「あの人って確か宰相…だよね」

 白い髪に僅かに青の混じった年配の女性が話し出す。

 「王位継承について、アスレア王は遺書を残しています。 それになぞらえば、我が国の王が正統な後継者である事は明白…今直ぐにでもラウ統一王国の戴冠式を行うべきでしょう」

 「何と!!」

 例によってハスカーさんは瞬間湯沸かし器になっているのだが、王子は至って冷静に立ち上がろうとする彼を手で制止する。

 「議長、発言の許可を願います」

 『発言を許可します』

 (王子…)

 「遺言に関して、その信憑性に欠けている事を当事者の誰もが周知しております…そもそも王の筆跡で無いものを、どうして遺言と呼べましょう」

 『確かに、ならば遺言を書いたのは誰なのか。 自身に有利になるように当該する王子が王を騙り、状をしたためたのか…』

 「玉璽は王にしか使えません」

 『フム、このままではこれまでと同じ堂々巡りになってしまいますな…ですが、今回は違う』

 (いよいよか…)

 『今日ここに、生前の王を知る人物が存在しています。 先の聖戦にて英雄王の傍にあり、戦いの神と称された戦いの鳥に選ばれし者』

 ここでとある人物がゆっくりと立ち上がる。

 「破邪の大翼の遣い手セラ…どうぞこちらへ」

 指名を受け立ち上がった世良さんは、檀上へと移動する。 すると同タイミングで相手国の宰相も檀上に上がり、手にしていた厚手の古びた紙を丸めたまま世良さんへと渡した。
 あれが件の遺言状なのだろう。

 「拝見させて頂きます」

 丸まっていた紙を伸ばして書かれている文字に目を通しているのだが、その様子をこの場に居る全員が固唾を飲んで見守っている。
 果たしてこれで何かが分かるのか…これが王の物では無いとしたらどうなるのだろうか、もし王の物であったらその時は…。
 
 「…終わりました、ありがとうございます」

 その言葉に場の空気の張り詰め方がまた違ってくる、それにしても確認には時間が掛かったように思うのだが、その様子から察するに単に字を眺めるだけでは無く、一言一句逃さぬように熟読しいているように見えた。

 「単刀直入に言います、この遺言を書いたのはーー」

 (書いたのは…)

 「、その人です」


 「何と…」

 「間違い無くアスレア王の遺言だと…」

 「そうだったのか」

 元老院議員たちは、堰を切ったようにそれぞれの想いの丈を口走っている。 周囲がざわざわする中、二国の王と王子の表情は対照的だ。

 「アトル様…」

 「…終わった、これで良かったのかもしれない」

 (キア、アトル王子…)

 俯き瞳を閉じる王子を心配そうに見るめるキア…一方でエンキ王は肩で一息入れており、その表情は安堵に包まれている。
 宰相は無表情で若き将軍は屈託の無い笑顔を向けているのだが、それにも応じていない様子だ。

 「終わったわね…」

 「うん、でもひいばあ…分からない事がまだあるんだけど」

 「そうね…」

 遺言状の最大の謎がまだ明かされていない…だが、世良さんにはそれが分かっているのだろう。 だから王の物だと断言したのだが、それを知る由も無い人々はその一点に囚われいる。

 「しかし、筆跡が違うのでは…」

 「何故、王の物だと言い切れるのだろうか」

 「根拠は何処に?」

 「うーん…いや、まさか」

 『皆さま、静粛に』

 この一言で場内は静まり返るのだが、静寂の中真実を知る少女は口を開く。

 「皆さまが疑問に思うのも最もです。 これは…王の生来の利き手である左手で書かれたものなのです」

 「!?」

 「何と!!」

 「まさか、そんな!」
 
 「むう…やはり」

 これには皆が驚きを隠せない…王は元々左利きであり、後に矯正し右手で文字を書くようなったのだ。

 「でも何故、矯正したんだ?」

 「別に左利きでも構わんだろうに…」

 「んー、思い出したぞ確か…」

 
 ーーーー

 
 古来より、左利きである事は特段問題のある事とはこちらでは認識されていなかった。 ただ唯一、このジンクスだけが長年信じられていたのだが、要はあちらでいう所の願掛けのような物がこちらにもあり、夢や目標があれば書き記すのが通例なのだという。

 「王は立場上、戦勝祈願を行う事が多々ありました。 当時、左手で書くのは周囲のひんしゅくを買う行いだったのです」

 
 「そうだったんだ…」

 今でこそ誰も気にしている者はいないようだが、そのような迷信が信じられていた時代とは価値観が違ってきているのだろう。

 「でも、何故左手でかいたのだろうか…」

 この件に関してはかつて聞いた事があるかもしれないのだが、王は晩年突如倒れ一時意識を取り戻したものの再び意識を無くし、そのまま帰らぬ人となった。 
 恐らくは脳梗塞だろうと思うのだが、今となっては詳しい事は分からない。
 
 つまり、意識を取り戻した時にもう長くはないと悟った王が遺言状を書こうとした。 だが、半身不随…右手の自由が効かなくなっていた為に、止む無く左手をを使用して書いたのだ。

 
 『皆さま、静粛に』

 遺言状の謎は解明された…そして、誰が王に相応しいかも分かった。

 「これで…」

 「ええ…」

 
 『さて…遺言状の謎は解けました。 これからなのですが…』


 「お待ち下さい!!」

 「世良さん?」

 『如何なされた?』

 「この遺言状には不可解な点があります!!」

 遺言状の不可解な点、とは一体何なのだろうか。 議会は今しばらく続きそうだ。  
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