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80. 進化する驚異

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 戦えている…死の翼が、ひいばあが…。 武器を失い飛ぶのがやっとのはずの翼でもって尚、厄災との戦いに挑んでいるその姿を、窓から地上の敵に見つからないようにそっと覗く。 そう、これは窓だが、ガラスはとうの昔に割れており、外の景色を直に臨んでいる。
 もっとも、私のいるこの場所は建物の中では無いのだが、まさかこんな物がこちらに存在していたとは、思いもよらなかった。

 (ビックリだけど、間違いないよね……これはーー)

 そんな事を考えていると死の翼が視界から消えてしまう。 何処にいるのかと見回すと視界の外で爆発音が鳴り響くのだが、今いる場所では戦いを追えないので止む負えず車両を移動する。
 そう、車両だ…私がいるこの場所は間違い無く列車の車両の中…。 そして、そのどれもが朽ちてボロボロの状態なのだが、それも一つや二つでは無く、相当数の台数が放置されて久しいように見られる。
 ここは列車の墓場、では無くかつては車両基地として扱われていたのだろう。 最もそれらが何故放棄されてしまったのか今は知る由も無い…。



 『上位体に囲まれたか…』

 「ピンチではあるけれども、武器の性能を最大限に活かして戦えば勝機は必ず見えて来る」

 『そうだな…諦めるのはまだ早い』

 こちらは満足に飛ぶことが出来ないので、厄災から距離を取って射撃メインで戦っていたのだが、それにも限界が訪れてしまった。 だが、こちらが遠距離攻撃しか出来ないであろうと踏んでいる可能性が高いのだが、それがチャンスにつながると予測される。
 事実、射撃でこちらを牽制しつつ二体が接近して来るので、敢えてこちらからも近づきながら応戦する。 速射性に優れ、手数の多いこちらの攻撃に対して回避に専念せざるを得ない所に光の刃を展開し、向かって右の上位体をすれ違いざまに貫洞気味に切り裂くと、踵を返して残りの一体にも左手の刃で切りかかる。
 
 しかし、これは相手の刃に阻まれるのだが、そこへ間髪入れずに右手の銃からも刃を形成して頭をたたき割ると活動を停止し爆散するので、直ぐに近くの敵をターゲットにして攻撃を開始する。 

 「……死の翼は取り敢えずまだ、大丈夫そうね」

 『ああ、満足に飛べないはすだが…よくやる』

 死の翼を気にしつつも四つ足の厄災を蹴とばすと、他の個体も複数まきこんで粉々に吹き飛ぶ。
 地上には玉虫の他このタイプの厄災も相当数湧いてきたので、対応する為に地上に降り立ったのだが、障害物が多く敵の位置を把握しづらい。 だが、それは厄災にも言えた事であり、数を投入している割にはこちらを効率良く攻撃しているとは言い難い状況だ。
 いや、もしかしたら宿命の子を、羽音を探している可能性もあるのでは無いか…。 そうであれば、彼女の保護が優先なのだが、下手に近づいてしまうと逆に的になってしまうかもしれない。 

 『今は数を減らすのが優先だな』

 「そうね、上は二人に任せましょう」

 地上の敵を一掃すると決めたその時、列車の上から玉虫と四つ足が攻撃を仕掛けて来る。 跳躍して回避すれば難なく避けれるのだが、当然見過ごす事はしない。

 「せぇぇぇい!!」

 上空から蹴りを放ち列車を貫通すると勢いよく爆発するのだが、どうやら燃料が残っていたようだ。 周囲の敵も爆発に巻き込まれていればある程度数は減らせただろう。 これなら数を一気に減らせるかもしれないが、羽音を巻き込まないように要注意だ…。

 
 
 (凄い…あの武器だけであんなに戦えるんだ…)

 距離を取りながら二丁の銃でもって人形を次々と撃ち落としていき、確実に数を減らしていっている。 接近されたとしても刃でもって応戦しつつ、銃で攻撃すれば倒す事が出来るので、従来の武器である砲よりも使い勝手が良いように見える。
 しかし、敵の攻撃は避けるので精一杯なので油断は禁物だろう。 

 (大丈夫…なのかな?…)

 死の翼の戦いに注視していると、突風に襲われてしまい視界を遮られてしまった。 一体何事かと思いつつ、風が収まり辺りを見渡すと大翼の姿を発見する。

  「世良さん? 一体何を…」

 白き翼は佇み、炎と煙りに囲まれて蜃気楼の中いる。 何となく列車が爆発した事を察するのだが、世良さんが…大翼がやったのだろう。 周囲の厄災も吹き飛んでしまったように見えるが、直ぐに何処からともなく現れて対象を包囲しようとする。
 囲まれてしまったはずの大翼は待っていましたとばかりに、近づいてくる玉虫や四つ足を蹴とばし、時には跳躍して蹴りを放ち、衝撃波を繰り出して数を減らして行く。 

 (…凄いな…)

 地上ばかりでは無く空を見上げると、赤い翼が炎の渦をまといながら戦っている。 多数の強化体相手に一歩も引かぬのは戦鳥の性能故だろうが、恐らくキアの辞書には後退の二文字は無いのだ。

 (私も…皆と同じように戦えるのかな?)

 そんな事を思っていると、「ガンッ」と激しく天井を打つ音が鳴り響くのだが、それが連続して起こると貫けてしまうのではないかと思い、恐怖で思わず座り込み体を縮めてしまう。

 (無理だ…戦うなんてやっぱり無理…。 怖いよ…皆どうして平気なの? 死ぬのが恐ろしくないの?)

 体を丸め込んで考えるのは戦う事への恐怖と、何故皆が恐れを知らぬかのように勇猛に戦えるのか…。 誰かが答えてくれる訳も無いのに、そんな事を取り留めなく考えていいた矢先、まもたもあの声が脳裏に響く。

 『キズナ、ダカラ』

 「絆? ……戦鳥、との?」

 『ソウ、シンジテイル…シンライシアッテイルカラ』

 だからなのか、絆がある…信頼がある、だから恐怖心に負ける事なく戦う事が出来る…。
 
 何かストンと胸に落ちるような感覚を保ったまま外に目をやると、大翼の周りにいる厄災はほぼ一掃されており、四つ足を掴み投げ飛ばす姿を見るが、あれで地上は終わりのようだ。 
 真上を見上げると、死の翼の姿が確認出来る。 先ほどの音は撃ち落とした敵が今いる車両に墜落したもので間違いない。

 以前多くの敵に囲まれている死の翼だが、大翼なりが応援に駆け付ければ問題無いと思われた時、思わぬ光景を目にする。 人形や強化体が次々と爆散しており、一気に数が減って行く…一体どのような攻撃なのかと思い目を凝らすと、その正体が判明する。

 「凄い! あんな使い方も出来るんだ!」

 高速で回転していた銃を難なく死の翼は掴み、再度投擲を行う。 またも高速で回転しながら、弧を描くように飛んで行くのだが、その軌道上に居る敵は次々と切り裂かれ、墜落して行く。 対象を切り裂いた銃は投擲した死の翼の元にまるでブーメランのように戻ってくると、その手に収まった時には刃は消えているので、問題なく掴む事が出来るのだ。
 
 新たな武器の性能を十二分に発揮した戦い方に集中してしまいがちになってしまうのだが、炎の翼も残り少ない敵を危なげなくさばいている姿を確認する。 今回も何とか勝利する事が出来そうだと思いつつも、何かイヤな予感というかこのまま終わりそうにない感じがする…。 事実これまで強敵が現れる時は概ね戦いに目途が付きそうなタイミングが殆どなのだ。
 
 「これで、終わりです!」

 灼熱の鞭を振るえば上位体の胴体に巻き付くので、引っ張ると胴は真っ二つになり力なく墜落して行く。 これで終わりだと思われるが、王都を目前にしての襲撃にしては何か呆気なさすぎるように思ってしまう。 

 『妙だね、こんな程度のものかな?』

 「いえ、油断は禁物です。 何かおかしい」

 『フム、……!? 何かが高速でこちらに接近して来る!』

 「やはり来ましたか!」

 『四時の方向!』

 「なっ、早い!!」

 想定外の速さでもってこちらに接近してきたので、回避に専念するのだが、余りにも早すぎて視認する事が出来なかった上に、高速で飛び去って行くのであっという間に姿が見えなくなってしまう。 どうやらあれが、最後の仕上げになるようだが、如何せん姿を把握せねば戦い辛いと思いつつ、飛び去って行った方向に向かって追いかける。

 『もう終わりか?』

 「これ以上出現しなければそうなるけど…ん? あれは…」

 視界の中で何かが動いたように見えるので、拡大してみるとその正体は直ぐに判明する。

 「羽音か…まだ出てきては危ないわね。 隠れているように言わなければ」

 まだ、確実に終わったとは言い難いのだが、今の内にさっさと退散してしまうのもアリでは無いかとも思う。 いずれにしても、まず二人に呼び掛ける必要があるので、回線を繋げようとするのだが…。

 「理音さんと話をしたいから繋げてーー」

 『!?来る、二時の方向だ!!』

 「何!?」

 言うが早いか、光の矢の攻撃を受けるので跳躍して回避する。 攻撃を仕掛けて来たのは恐らく新手の厄災なのだろうが、その動きは高速で目で追うのがやっとだ。 こちらの更に上空を飛び越えて行くのを確認すると、その進行方向には戦いを追えた死の翼がいることに気付く。 しかも、その形状が今までとは異なるので、明らかに警戒しなければならない事を伝える必要があるのだが、果たして間に合うかどうかといった所だ……。


 『?理音、通信だ』

 「どうしたのかしら?」

 何とか囲みを突破し、厄災を撃破する事が出来た。 これも、この銃のおかげなのだが、生み出してくれた機工師たちには感謝しかない。 そんな事を考えていたのだが…。

 「理音さん、そちらに新手が向かっています! 気をつけてーー」

 「新手? それはーー」

 『来る! 三時の方向!!』

 「何ですって!?」

 その警告を聞いた時には既に光の矢が放たれた後だった。 急いで回避行動を取るのだが、肩を掠めてしまい装甲をはぎ取られてしまう。

 「ぐっ!」

 『くっ、大丈夫か?』

 「大丈夫よ、衝撃で痛みが走っただけ」

 『そのようだな、裂傷や出血は無いようだが…』

 「それよりも、あちらの方が機動力で上回っているわね。 気を付けねば」

 こちらに攻撃を仕掛けた敵は、視認出来る範囲には既にいない。 高速で飛び去ったのだろうが、このまま終わる訳も無く直ぐに戻って来て更に攻撃を加えてくるだろう。 短期で決着を付けねばこちらは不利になるのは間違いないので、警戒しつつ戻って来るのを待つとこちらに近づいて来る飛翔体を確認する。

 「あれは一体……?」

 何なのかと言うまでも無く、あの飛翔体の形状は見知っている。 だがあれは、明らかにこちらの物では無い…あれは間違い無く、あちらの物だ。



 「何あれ…もしかして飛行機…なの?」

 三つの翼を襲った未知の敵の姿がようやく判明するのだが、あの形状は所謂飛行機というものだ。 しかも、あのシャープな形状は戦闘機と呼べるのではないかと思われるのだが、まさか厄災があちらの兵器を模範して投入してくるとは夢にも思わなかった。 しかも、ここはあの兵器の存在しない世界なのだから、特にその異質さが目立つ。

 (しかも、オリジナルと同じで凄いスピードだけど、大丈夫なのかな?)

 死の翼だけでは荷が重いかもしれないが、大翼や炎の翼もいるだから素早いだけの敵なら問題ないかもしれないとそう思った次の瞬間、戦闘機タイプの厄災は驚きの行動に出る。

 「えっ、何、何、何!!」

 突如として手が生えて、次に足が生える…いや、正確には生えているのでは無く、その機体が組み変わって手となり足となったのだ。 やがて飛行機だった形状は、その翼のみ原型を残して、完全な人型へと変貌を遂げる。

 そう、これは所謂ーー

 「う、うそでしょう? 変形したーー!?」 
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