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61. ひと時のやすらぎ(入浴編)

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 突如として現れた窓から見えるのは、都市のきらめく明かり。 このような景色が見れるとは夢にも思っていなかったが、それにしてもどうやって壁が一瞬にして窓になったのか……。 だが、これに関してはある推測がある。

 (これってもしかして、魔法……なのかな……?)


 「皆さん、もう行きましょう。 湯が冷めてしまいますよ?」

 「キアが何か言ってるけど、そう言えばお風呂に行くんだった」

 「そうね、行きましょう」

 「ええ」


 フロアを移動している最中にふと床に目をみやると絵が書いてある事に気づくのだが、この絵が何かは大体察しが付く。

 「これって、お風呂の案内なんですか?」

 「そうね、こういう所は変わらないんだ」

 何とも独特なタッチではあるが、デフォルメされた人が浴槽に入っているように見えるので、これは間違いなく入浴の図だ。 しかし、どちらかと言うとお風呂というか温泉と言ったイメージを連想させる。

 少し歩けばまた扉が見えてくるのだが、先ほどの部屋を空けたキーカードをかざせば扉は音も無く開く。 中に入れば直ぐに靴を脱ぐようキアに指示されるのだが、スリッパのようなものは何処にも見当たらない。

 「ねえ、スリッパくらい置いてないの?」

 「ここにあるわね。 ほら、こっちよ」

 ひいばあが壁を指さすが、下駄箱のような場所にスリッパが置いてあるので、それを履いて自動ドアをくぐれば直ぐに脱衣所のような場所に出る。
 
 「ここで脱ぐんですね。 あっちの扉の先が浴槽なのかな?」

 「そうだけど、先に着替えを選びましょ」

 世良さんはそれだけ言うと、壁の一角にある扉を開ける。 中には服が掛かっておりまるでクローゼットのようだなと思ったが、これが着替えになるのだろうか。

 「これを着て寝る事にもなるから、パジャマになるんですかね?」

 「ん~、パジャマと言うよりは……浴衣かな?」

 「なるほど」

 取り敢えず呼び方はおいておいて、合いそうな大きさの服を数着掛かっている中から選ぶのだが、どれもサイズが大きく中々見つけられない。

 「私はこれかな?」

 世良さんは藤色を基調とした服を取り出すのだが、ぱっと見はワンピースのようだ。 そんな事を考えている内にも残りの二人も選ぶのだが、キアは黄色の服を選びひいばあはマリンブルーの服を選ぶ。

 「どう? 合う大きさはありそう?」

 ひいばあも服探しを手伝うのだが、意外と枚数が多い。

 「これとかどう?」

 探してくれた服は確かにサイズは問題なさそうに見える。 しかし、この柄が問題だ。

 「えー! 何で水玉模様なのー?」

 選んだ服の模様は赤・黄・青のカラフルな水玉模様で、こんなの幼児でも着ないだろうというセンスの無さだ。
 
 「文句言わないの、これしかサイズが合いそうな服がないのだから」

 「はーい……」

 「あっ、そうだ。 私トイレに行ってきます」

 「そうね、入浴の前に済ませましょう」

 「……私も行っとこうかな。 早く慣れておいた方が良いですよね」

 「余り変わらないそうだけど、気になるようなら行ってきなさい」

 結局キアも行く事になり、全員でトイレに向かうのだが、これが所謂連れシ……いや、止めておこう。




 「うーん、いい湯ねぇ」

 「ええ、本当に。 まさかこんな感じでお風呂に入れるとか思ってもみませんでした」

 異世界設定でおなじみの中近世のヨーロッパにも風呂や入浴の文化はあったとしても、このような入浴の為の設備は存在しないだろう。 当たり前のようにシャワーまで備えているので、最早これも近現代と変わらないのだが、この建物に入ってからというもの、何だか違う世界というよりは外国に来たような感覚になってしまう。

 「景色もいいし、最高だわ」

 それだけ言うと世良さんは浴槽から身を乗り出し床に腰掛ける。 そう、先ほどの窓と同じく壁が透けて外の景色見えるので部屋の中でも露天風呂さながらの景色を堪能できるのだ。

 「えー、でも何だか恥ずかしくないですか? 覗き見とかされたら……」

 「まあ、他にここまで高い建物は無いから大丈夫じゃないかしら」

 世良さんが浴槽から出てシャワーに向かうと、他の二人も後に続く。 十分温まったのだろうが、それにしてもこの広い浴槽に溢れるほど溜まったお湯はどのようにして沸かしたのだろうか? そう思わずにはいられいないのは、蛇口も温泉のようなお湯の注ぎ口も見当たらない為だ。

 「羽音も早く体を洗いなさい」

 皆、備え付けの石鹸をスポンジで泡立出て体を洗ったり髪を洗ったりしている。

 「うん……」

 「どうしたの?」

 「いや、ちょっと恥ずかしいかなと。 皆スタイルいいしさ……」

 「フフ、気にする事無いわよ」

 世良さんは気にするなといった感じで笑うのだが、まあ、この三人の中では彼女は一番胸が小ぶりで多分Bくらいではないだろうか。 因みにひいばあはCは確実にあるし、キアに至ってはDはありるだろう。 もちろん私はダントツで最小のAだ……。

 「羽音殿はどうしたのですか?」

 「何かスタイルを気にしてるみたいね、胸の大きさとか?」

 「はあ、全く……こんなものは脂肪の塊に過ぎません。 その大きさを一々気にするなど……」

 「あらあら、その脂肪の塊を男性は好むのよ。 キアの婚約者もきっと大きい方が好みだって」

 「な、なっ! あのお方はそのような人ではありません!」

 世良さんはケラケラと笑っているが、キアは顔を赤らめて狼狽している。 一体何を話しているのだろう?

 「ねえ、理音さん。 理音さんもそう思うでしょ?」

 「そうねえ……乳房は赤ちゃんに母乳をあげる大事な器官であって、それ以上でもそれ以下のものでも無いわね。 以上」

 「ムムムッ、流石に子育てを経験した人は言う事が違うわね……」

 「確かに、バッサリ切られましたね」

 世良さんが何かひいばあに賛同を求めたような感じだが、どうやら突き放されてしまったようだ。

 「羽音、早くしなさい。 この後は夕食なのよ」

 またも促されてしまうので、仕方無しに浴槽から出る。 皆と同じようにスポンジで泡立てるのだが、因みにこの石鹸で体も頭も両方洗えるようだ。 効率は良いと思う反面髪がキシキシしてしまうのではないかと思ってしまうのだが、それは使ってみて問題ない事が判明する。 

 (以外に大丈夫だな……パサつきもないし普通のシャンプーと変わらない感じ? しかも、トリートメントの効果もありそう)
 
 髪も問題なく洗えたのだが、もしかしたら成分はアルカリ性なのかもしれない。 何にしてもシャワーで洗い流してもう一度浴槽に浸かれば、入浴タイムも終いとなる。


 「うーん、いいお湯でしたね」

 「いやーさっぱり。 さあ、後はお楽しみの夕食よ」

 世良さんは久々にこちらのものが食べれるようで、とても楽しみなようだ。 あのワンピースのような浴衣は帯のようなものを締めてウエストを絞るのだが、たくさん食べる為であろう。 人のはきつく締めておきながら、自分はかなり緩めにしている。
 何にしてもこれから目指すのはこのフロアにある食事処、またはレストランに当たる場所だ。
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