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50. 翼舞う

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 異形に呑み込まれ変貌したスカイタワー。 人々を取り込み、厄災に造り替える装置となり果てたタワーを破壊する為に舞い降りた四つの翼……。 二つの世界を舞う、翼もつ乙女たちの戦いが今始まる。



 「ほら、あれを見てよ。 あのタワーの表面を動き回っているあの赤いのが、恐らく弱点であるコアなんだ。 あれを破壊しないと倒せないんだろうけど、四つもあるのがネックだなぁ」

 「……ねぇ、ひいばあ。 あれ、ホント?」

 隣にいるひいばあに小声で話しかける。

 「その通りよ。 貴女の彼氏、中々良い洞察力じゃない?」

 「違うよ! 彼氏じゃない!」

 「……どしたの?」

 「何でもありません!」

 ひいばあの勘違いに思わず大声を出してしまうが、年配の人から見れば一緒にいるだけで彼氏に見えてしまうのだろうか。 いつもは子供扱いなのに……。

 「問題は、あのコアをほぼ同時に叩かなければならないのよ。 急ごしらえの連携でどこまで行けるか……私の翼さえまともなら」

 そう言うと、ひいばあはこぶしを握り締める。 無理もない、力があったとしてもそれを行使する事が出来ない気持ちは何となくわかる。

 「そう言えばあの蒼い翼は、バスターライフルの他にシールドも装備しているよね」

 「あの、左手の? 盾にしてはなんだか細長いような……」

 双眼鏡を覗きながらとはいえ、相変わらずの視力だ。 因みに私が持っているのはオペラグラスなのだが、あちらはもっと本格的な野外で使用するタイプを使用している。 自分だけ良い物を使ているのはいかがなものかと思ってしまうが、いかんせん借り物なので余り文句は言えない。

 「あのシールドの先端は杭状になってる。 多分、杭打機みたいにして接近戦時に使用するんだ」

 「そうなんですか?」

 「あっ、ほら見てよ」

 言われるがままに蒼い翼を追っていると、接近してきた強化体にシールドの先端を突き刺す所が見える。 敵の胴体が爆発すると崩れるように落下していくのだが、確かにあの長身の銃は接近時に使用出来ない。 近づかれた時の武器は必要なのだろうが、他にも武器があるのかが気になる。

 「防御だけじゃない盾なんてあるんですね……」

 「多分、防御に関してはあの翠の翼が担当してるんだろうね。 にしても、敵の少ない今がコアを攻撃するチャンスなんだけどなぁ」

 タワーの周辺を飛び交う数は当初に比べて明らかに少なくなっている。 しかも、周辺に散らばっていた個体を呼び寄せての数であろう事からしてあの二つの翼の強さが伺える。 しかし、厄災もまた、このまま討たれるのを待つばかりでは無いだろう。 果たして戦鳥の戦士たちはこの戦いに勝利出来るのだろうか……。



 「まずはそれぞれ討つコアを決めて、各自攻撃する。 トリは私が担当するわ。 タイミングもこちらから指示するからーー」

 「断る……」

 「何を!」

 「協力するとは言った。 だが、指図は受けない。 好きにやらせてもらう」

 「同時に攻撃せねばならないと言ったでしょう!」

 「キア、落ち着きなさい……ならば、貴女達に合わせるわ」

 「フン、タイミングは……今だ!」

 それだけ言うと、蒼い翼は雷光を放ち一番近くを移動するコアを破壊する。 他のコアの位置も把握していない中での攻撃……。 だが、躊躇ちゅうちょしている時間は無い。

 「キア、機動力のある私達で遠いコアを叩く!」

 「くっ、これが終わったら決着をつける! 必ず!」


 「申し訳無いわね……私も近いコアを叩かせて貰うわ。 グットラック……」

 「?グットラック……」

 その言葉に引っ掛かりを覚えながらも、コアを探す為に天空へ舞う。 二つのコアが下部にあるなら残りは上部にあるはず……。 二人で螺旋を描きながら頂上を目指す途中、タワーの中頃よりやや上で赤く光る直径二十メートルの真円を発見する。

 「キア、あのコアをお願い!」

 「分かりました! 不死鳥よ! 我が敵を焼き尽くせ!」

 形成される火の鳥を見届けながら更に上空を目指す。 これで残るコアは一つ、だが、残された時間は少ない。

 「あった! 最後の一つ」

 コアはこれまでより早いスピードで頭頂部を目指しており、やがて赤い光が強く発光しだす。

 『ぬうっ、間に合わんか!』

 「あと少しなのに!」

 爛々と輝く赤い光はやがて、頭頂部から繊毛上にタワーを覆っていく。 コアは溶けるように流動する表体に飲み込まれていきがやがて……。



 「ああっ! コアが全部復活した!」

 「そんな……」

 「やはり、まともな連携は難しいか……」

 各個撃破されていくコアは最後の一つという所で時間切れとなり、他のコアの再生を許してしまった。 タイミングさえ合えば決して不可能ではないのだろうが、いかんせん訓練もしていない者同士、連携をとって戦うというのはかなりの難易度だ。

 「もたもたしてると、また敵がわんさか湧いてくるんじゃ……」

 そう、このままでは表体より生まれる厄災に再び囲まれてしまう。 消耗戦は明らかに不利だから、一刻も早く本体を撃破しなければならない。



 「世良殿!」

 「キア、間に合わなかった……もう一度仕掛けるわよ」

 「うん? あれは!」

 地上に目をやると、パンパンに膨れ上がったワーム線虫が次々とタワーに飲み込まれていくのが見える。
 その数は十や二十ではない、あれらが取り込まれ再び厄災となってしまえば、撃破した以上の数に包囲されてしまう事になる。

 「助けなければ!」

 「ダメよ」

 「しかし、このまでは囚われた人々は……」

 「囚われた人々が厄災に転化する前に本体を叩かなければ、これまでの戦いが無意味になる。 消耗戦は明らかに不利よ」

 「……」

 「それに、本体をのさばらせておけば犠牲は更に増えるだけ……」

 「……分かりました」

 キアはこの世界の人々の事を考えてくれている。 だが、一方であの二人は気にも留めていないように感じるのだが、この温度差は一体なんなのだろうか……。

 「貴女たちも聞こえたでしょう? このままではじり貧よ。 お願いだからタイミングを合わせて!」

 「言ったはずだ、下についたつもりは無い」

 「まだ、この期に及んで!」

 「ノーマ、戦いの神の言う通り……貴女の雷砲も無尽蔵では無いし、私の盾も無制限に貴女を護れるわけでは無いのよ」

 「フン……やむを得えんな」

 「良し! 再生したコアが、動き回る前に仕留めるわよ!」

 幸いな事に再生したコアはまだ本格体な移動を開始していない。 集まっている今がチャンスだが、表体が先ほどよりも激しく波打っているのは、取り込まれた人々の厄災への転化が始まってるからだ。


 「まずは私が仕掛ける」

 翠の翼はシールドを放つと同時に、光の矢も放つ。 更にはミサイルとやらも発射しているのが確認出来るのだが、あのような武装はこちらの世界よりだと感じる。

 「次は私だ」

 蒼い翼は雷を放つ長身の銃を構えるが、あれもどちらかと言えばこちらより……。 気にはなるものの、キアも再び炎の鳥を召喚している。 私もトリを務める為に集中力を研ぎ澄ませるが、ここで思わぬ事態が発生する。

 「なっ、急に移動した?」

 コアの一つが表体を一直線に上り、頭頂部を目指す。 撃破されるのは想定の内で、最初から再生するのが目的なのだろう。

 「逃さない!」

 『ああ!』

 加速して追いかける。 だが、その表体には次々と丸い膨らみが生じており、おびただしい程の厄災が生み出されている。

 『あいつら! 壁になろうとしているのか!』

 進路上に立ちふさがり、空が見えなくなる程の数で行く手を阻まれる。 このままでは先ほどと同じ……コアの再生を許し、更には転化した厄災と消耗戦に突入してしまう。 この状況を打破する為には……。


 「やむを得ないわね。 アレを使うわ!」

 『そうだな……仕方が無い!』




 「世良さん、あのままじゃ……」

 「マズいよ。 かなりマズい」

 「世良……」

 大翼は上昇するコアを追いかけてタワーの頭頂部を目指しているが、おびただしい数の厄災が立ちはだかっている。 あれらを撃破していては、追いつけずにまたも再生を許してしまう。 焦燥感に駆られて見ているのだが、大翼の動きに変化がある。

 「なんだ? 翼の付け根から何か……」

 「あれは一体?」

 「貸して」

 それだけ言うとひいばあは、私の手からオペラグラスをひったくる。

 「ちょっと……」

 「世良は何をやろうとしているの?」

 「……先輩、貸してください」

 「あっ、ちょっと」

 先ほどされたように双眼鏡をひったくる。 覗き込めば、厄災に突っ込んでいく大翼が確認出来るのだが、無理やり突破しようというのだろうか。 無理だと思いつつその動きを追っていると、その手に何かが握られている事に気づくが、突如その手に変化が訪れる。

 「あれは! 光!?」

 「なんて輝きなの」

 「眩しい、目がくらみそうだよ」

 大翼から放たれる眩しい光。 その輝きは一直線に伸びており、まるで剣のように見える。

 「あれは、もしかして大翼の切り札?」

 輝きと共に大翼は上昇を続ける。 決着の時は近いのかもしれない。
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