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30. 不死なる炎の翼 (後編)修正1

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 "ダグラス・マッカーサー"

 思わぬ歴史上の人物の名が出て来たので、飛び上がるほど驚いてしまう。

 「ひぇー、ひいばあはまさに歴史の生き証人だね」

 「それで、どうなったの?」

 「ウィスキーをご馳走になったわ。 彼は周平と話をしていたけど、私は言葉が分からないから見ているだけだったわね」

 「うーん、ひいじいは英語が喋れたってのも凄いよね。 もっとちゃんと勉強しようかなぁ」

 おにいは真剣に悩んでいる。

 「他には?」

 「そうね、他には……」

 少し考えていたが、時計に目をやりこう答える。

 「ま、お腹も空いてきたし、続きはご馳走を食べてからよ」

 思わぬ肩透かしを喰らってしまうが、確かにお腹が空いたし、何より今日はご馳走だ。
 久々に皆ですき焼きをつついて団らんの時を過ごす。
 奮発して良い肉を買ってあったようで、とても美味しかった。
 ひいばあは続きは後でと言いつつ、食べるだけ食べると部屋に戻ってしまうが、満腹になったら皆それほど関心は無くなってしまう。
 そして、私は紅い鳥の事をすっかり忘れてしまい、思い出したのは寝る直前だった。

 (しまった……まぁ、仕方ないから明日相談しよう)



 「三沢公園だよ! ひいばあ。 それに世良さんも!」

 力説する私を、やや冷めた目で見るひいばあと、困惑気味の世良さん。

 次の日の朝に紅い鳥の夢を相談しようと思っていたのだが、寝坊してしまい慌てて学校に行ったので、伝える事が出来なかった。
 帰って来たら帰って来たで、家中探してもいなかったので、もしやと思い世良さんに連絡したら、やはりひいばあと一緒だった。
 世良さんに個別に話す手間が省けたのだが、二人共半信半疑のようで中々動こうとはしない。

 「あなたねぇ、それは夢の話でしょ?」

 「でも、でも、世良さんの時もそうだったんだよ。 今度もそうなんだって、紅い戦鳥が舞い降りてきたんだから!」

 中々分かってもらえずイライラしてしまう。

 「紅い戦鳥……」

 「知っているの?」

 「いえ、知らないけど。 羽音、他には何か特徴は無いの?」

 「えーっと……炎かな?」

 「炎?」

 「そう! 紅い炎の戦鳥。 それが二人の新しい仲間だよ」

 「仲間だなんて、どうしてそんなことが言えるの?」

 「えっ、だって……世良さんは一緒に戦ってくれてるじゃない?」

 ひいばあは何も返してくれないが、どうしても私の言う事が信じられないようだ。
 それに、戦鳥の力であれば厄災に対抗出来るのだから、共に戦うのが道理では無いのだろうか。
 このままでは埒が明かない。

 「もういいよ! 私だけでも行ってくる」

 「ちょっと待ちなさい!」

 踵を返す私をひいばあは止めようとするが、世良さんはこう言い放つ。

 「私達も行きましょう。 理音さん」

 「世良?」

 「羽音の言う事は、あながち間違ってはいないと思います」

 思わぬ人物から援護が入ったが、世良さんは分かってくれたのだろうか。

 「理音さんも私も、こちらに来た時はあの場所に転移して来たんです。 ならば、もし誰かがあちらから転移してくるのであれば、あの場所以外考えられません」

 世良さんはひいばあをじっと見つめている。

 「行きましょう。 その価値はあると思います」

 よくよく考えれば今日会えるかも定かでは無いのだが、それを言うなら行ける時に行くしかない。
 ここからは少し遠いが、バスを上手く乗り継げば一時間もしない内に到着出来る。

 マンションを出てバス停に向かう。
 時刻表上の電光掲示板には(バスが来るまで後3分)の文字が表情されているので、まあまあ良いタイミングだ。
 程なくしてバスが来るので、降車する人を待ち乗り込もうとするが、ここで思わぬ足止めが入る。

 「世良、待ちなさい、どこへいくんだ」

 バスから降りた男性が世良さんを呼び止めた。

 「……お父さん」

 「お父さん? 世良さんのお父さん?」

 「友達を呼ぶとは聞いた。 だが、出かけるとは聞いていないし、許可した覚えは無い」

 やや厳しめの表情で世良さんに話しかける父親に対して、当人はややうつむき黙ったままだ。
 この間にもバスは停車しており、運転手は乗るか乗らないかはっきりして欲しい、といった表情なのに気づいたひいばあは軽く会釈をして乗らない意思を示した。
 
 (ああっ、行っちゃった……)

 バスは発進してしまった。
 乗れなかったのは時間のロスになってしまうが、それよりも問題なのは世良さんのお父さんが外出を許可しない事だ。
 良く見れば高級そうなスーツに身を包み身なりをしっかり整えたその佇まいは、正にエリートサラリーマンといった風だが、もしくは会社の上役だろうか。
 歳は私の父とあまり変わらないか少し上くらいなのだろうが、鋭い目つきとキリっとした表情は父とは大違いだ。
 しかし、この夕方前の時間帯に帰って来たと言う事は通常の会社員では無いという事なのだろうか。

 「こちらが友達なのか? 少し歳が離れているように思うが」
 
 「こんにちは。 初めまして、山代理音と申します」

 「こんにちは。 山代羽音です」

 「こんにちは。 世良の父の如月勇一きさらぎゆういちと申します。 いつも娘がお世話になっています」

 三者三様で頭を下げる。

 「苗字が同じと言う事は、お二人は姉妹で?」

 「はい、私が姉でこちらは妹です。 姉妹で世良さんにいつもお世話になっております」

 ひいばあはとてもにこやかな笑顔で話しをしているが、私達が姉妹だなんて嘘を微塵も感じさせる事がない。

 「失礼ですが、娘と知り合いになったきっかけとは何ですか?」

 「妹が学生証を落としたんです。 それを拾った世良さんが学校まで届けてくれて、校門に佇む彼女を見て対応したのが私だったんです」

 ……凄い、こんなにも嘘デタラメがつらつらと出てくるものだろうか。

 「お礼がしたいと一緒にお茶をして、その時色々と話しをしてすっかり意気投合したんです。 きっかけを作ったのは妹ですが、今では私の方がすっかり仲良くなってしまって」

 そう言うとにこやかスマイルでこちらを向く。

 「まあ、妹はおまけみなたいなものです。 ねえ羽音」

 「え? うん、そうだね。 私お姉ちゃんの金魚のフンだね、アハハ!」

 こうなればやけくそだ、とことんひいばあはの嘘に付き合うしかない。

 「世良、本当なのか? 父さんはそんな話聞いていないぞ」

 「ええ……ごめんなさい。 中々言い出せなくて」

 世良さんも何とか嘘に乗る。
 
 「失礼ですが、交友関係を逐一親に報告すると言うのは余り聞いたことはありません。 心配し過ぎでは?」

 「すまないが、我が家は他とは少々事情が異なるのでね」

 「それでもです。 彼女が以前どうだったかは今の私達には関係ありません。 どうあろうと世良は世良です」

 ひいばあは尚も続ける。

 「大切なのはこれからではないですか? 彼女も色々と親には言いづらい悩みもあると思いますが、私達なら彼女の力になれると信じています。 どうでしょう? お父様も私達の事を信じて貰えませんか?」

 「わ、私からもお願いします! 世良さんの力になりたいんです」

 二人で深々と頭を下げる。

 それを見てやや俯き、眉間にしわを寄せていたが、暫くすると「ふーっ」とため息をつき顔を上げる。

 「分かりました。 これからも、世良と仲良くして下さい」

 その言葉を聞き私は喜ぶが、世良さんは驚いた表情で、ひいばあは真剣な表情のまま「ありがとうございます」と一礼し、顔を上げた後にようやく笑顔になる。

 「……ありがとう、お父さん」

 世良さんも一礼するが、おじさんは「気をつけてな」とだけ言うと、早々に立ち去る。
 私達はようやく、公園に向かうことが出来た。
 


 「いやー、色々あったけど、何とか着いたね」

 バスを降りると公園は目の前だ。
 ここはそれなりに広さはあるが、遊具らしい遊具も無く、遊ぶ子供は少ない。
 他には花壇やベンチがあるくらいで、特にめぼしいものも無く休日でも訪れる人は少ないので、平日ならば尚更だ。
 唯一目を引くのは、中央ある慰霊婢だろうか。
 戦中に空襲などで亡くなった人たちの供養の為に建てられたものだ。

 公園を歩く二人に特に会話は無い。
 それぞれに色々思う所があると思うが、直ぐに異変は起こる。

 「おい! 大変だぞ。 あっちで刀を持ってるあやしい奴が警官相手に暴れてるってよ!」

 「マジか! ちょっと見に行ってみようぜ?」

 男性二人の会話を聞いていた私達は現場に向かう男性を追いかけた。


 「て、て、抵抗するな! 武器を捨てろ!」

 現場と思わしき場所では人だかりが出来ているが、大した人数ではないので掻き分けるまでも無く様子が伺える。
 警察が警棒を構えて対峙している人物に武器を捨てるよう説得している。
 しかし、対峙する人物はその言葉を無視するかのように詰め寄ってくるので、及び腰になりながらも警棒を構えなおす。
 警官に詰め寄る人物の出で立ちは、全身黒づくめで 胸や腕、足には黒いプロテクターのようなものを付けている。
 頭も頭巾のようなもので覆っており、目以外の顔のパーツは分からないし性別も判然としない。
 手には刀と思わしき刃物を持っているが、ぱっと見日本刀に似ているように感じるものの刃に反りは無く直刀の仕様になっている。
 警官に向かって歩を進め、刀が届く距離になると黒づくめの人物は両手で刀を振るう。
 「ヒュッ」という風を切る音と同時に「キン」という音が小さく響き渡ると警棒は根元から簡単に切断されてしまう。

 「ヒッ、ヒエーーー」

 しりもちをついても尚、グリップだけになった警棒を振り回しているが、やがて思い立ったように腰に手を伸ばす。

 「ねえ、ひいばああれってやばくない?」

 何をするのか分からない筈が無いのだが、黙ってただ事の成り行きを見守っている。
 世良さんも同じだ。
 警官は腰から拳銃を取り出すと、構えてこう言い放つ。

 「ぶ、武器を捨てろ。 警告に従わない場合は……撃つ!」

 黒づくめの人物は刀を鞘に収めた。
 警告に従うのだろうかと思った次の瞬間、意外な行動に出る。
 腰を低く落とし刀を携え構えると、一気に抜刀する。
 
 居合い抜きーー
 
 目にも止まらぬ速さで「キン」と銃の上半分をスライスする。

 「あわわわわあ」

 銃も切断されて使い物にならなくなったので、警官の反応はいた仕方の無いことなのかもしれないが、それにしも凄まじい切れ味だ。
 もはや、取り押さえようとする術も意思も失った警官に刀を突きつける。
 このままでは殺されてしまう、早く応援が到着してくれないだろうか。

 「出たぞー、化け物だー!」

 その場に居た人物全てがその言葉に反応した。
 そして、直ぐに蜘蛛の子をちらしたかのように、人々は逃げ惑う。
 警官も腰が抜けたのか四つんばいになって立ち去ろうとするので、この場に残ったのは私達三人と黒ずくめの人物だけになる。
 ひいばあと、世良さんは例の人物に見られるのも構わずに、戦鳥を召還し身にまとう。
 それを見た黒づくめの人物の目は驚きに見開かれるが、二人の戦鳥を認めると自身も目を閉じる。
 やがて頭上には魔方陣が画がかれて、紅い戦鳥が現れた。
 戦鳥はその身を崩し真下に居る人物を覆い、完全に装着すると全身から炎を吹き上げる。
 私の夢のは現実のものとなった。
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