上 下
15 / 202

06. 七十三年目の真実

しおりを挟む
    駅前やモール周辺は酷く混乱していたので、その場を離れるのも一苦労だった。
    帰りはなるべく人通りの少ない道を選び、人との接触を避けるようにして進む。
    駅の方が気になる人が道路にあふれ通行の妨げになっているばかりか、好奇心の強い人は、駅方面から来たであろう人を捕まえて何が起こったか聞いているのでそれを避ける為だ。
    やや遠回りする事になってしまい時間が掛かってしまったが、何とか無事にたどり着いた。

     (あー、疲れたー)

    家に着き、家族全員の無事を確認してようやく落ち着く。
    全員がそれぞれの用事で外出していたのだが、駅方面に居たのは私達だけで皆午前中で用事は済んでいた為、先に帰って来ていた。
    家族は私達の帰りを待っていたのだが、駅を離れて直ぐに家に連絡を入れたので、必要以上に心配をかける事にはならなかったと思う。

    一息ついてテレビを見ると、どの局も空飛ぶ人形の襲撃を特番で報じている。
    テレビで初めて知ったのだが、あの人形が現れたのは私達の居た駅周辺だけで無く、他の駅や繁華街といった人の集まる場所にも出現していた。
    最も、他の場所では人形達の数は十体前後で一定時間暴れ回った後、いつの間にか消えてしまったのだという。

    「んー……    これもダメだな」

    「何がダメなの?」

    おにぃはタブレットでSNSや動画を見ているのだが、その表情はパッとしない。

    「ほら、これ。    投稿された動画だけどさ」

    「何これ?    全然写って無いじゃん    どうなってるの?」

    撮影された動画はピンぼけも良い所で、何が何やらさっぱり分からない。
    全てにモザイクが掛かっていると言った方がわやり易いかもしれないが、どうやらまともに撮れたものは現時点では確認されていないようだ。
    撮影した人は命懸けだったろうからこう言ってしまうと申し訳無いが、はっきり言ってこれは朗報だ。
    まともな映像が残らないなら、ひいばあの正体を知られる可能性はかなり低くなる。
    今は誰でも何処でも自由に動画を撮影出来るし、直ぐにSNSで拡散出来てしまう。
    ひいばあが黒鳥を纏う所など、映えなんてものでは済まされない。

    「淳平、羽音」

    「あっ、お父さん」

    「ひいばあが呼んでる。大事な話があるそうだ」

    大事な話とは何だろうか、私は不安に駆られながらおにぃと共に茶の間に移動する。

    家族全員が集合するが、皆何事だろうかといった表情だ。
    唯一、じぃじだけが神妙な面持ちでひいばあを見つめている。

    「皆集まったわね。    私がこれから話す事は、私とひいじい……。    周平と秘密にしていた私の出自に関する事なの」

    ひいばあの出身は確か秋田だった筈だが違うのだろうか。
    皆がそうだと聞かされている。

    「貴方達が知っている私の生まれは、本当の事を隠す為に周平が考えたものなの。    名前もそう、理音という名も周平が付けてくれたものよ」 

    私はおにぃと、父は母と顔を見合わせるが、じぃじは以前ひいばあを押し黙り見つめている。
    ひいばあは出自と名前を偽っており、それを家族に……息子であるじぃじにさえ黙っていた。
    しかも、協力していたのは他ならぬ夫であるひいじいなのだ。
    何故そんな事をしたのか、皆がひいばあの話に全神経を集中させている。

    「私の本当の名はリーネと言うの」

    (リーネ……)

    「正しくは、ラウの国の首都スレアの出身、国王ナルザの娘リーネ」

    「私の生まれた国では、自身の出身、誰と血縁にあるか又は婚姻しているかや、どんな職業かが名字に当たるの。    これが私の本当の名よ」

    「ラウの国?」

    「国王の娘……ひいばあはお姫様なの?」

    「いや、しかしラウの国なんて聞いた事が無い」

    「そうねぇ、もしかして中央アジア辺りとか?」

    「知らないのも無理はないわ、この世界には存在しない国よ。    ここでは無い他の世界にかつて存在した国なの」

    「この世界じゃない?    うーん……異世界という事か。    しかし、何でばあちゃんは自分の居た世界からここに来たんだい?」 

    「これから話すわ。    全てを」

    かつてひいばあが暮らしていた国は、緑豊かでその恩恵を受けつつも慎ましく生きる民と、それを良く納め賢王と称えられた父の治世により平和の中にあった。
    誰もがこの平穏な暮らしが続くと信じて疑わなかったが、平和の時はある日突如として終わりを迎える。
    今日こちらにも現れて人々を襲った異形の存在。
    ひいばあの国でも各地に出現し街や村を襲撃し、しかも人々を拐っていったという。
    それ故に厄災と名付けられ、事態を重く見た国王と国王に遣える高官達は厄災を打ち払う為に、様々な対策を講じようとしていた。
    だが厄災の動きは早く現れてから一月も経たない内に王都に攻め要り都を焼いた。
    ひいばあは勿論黒鳥を纏い抵抗したが、戦力差が大きく殆ど太刀打ち出来なかったばかりか、王都の防衛に付いていた国王も討たれて、完全に敗北してしまった。
    最早これ迄と自身も国と命運を共にしようと覚悟した時、王宮に遣える魔法使いのネフィアという人物に導かれてこの世界に逃れて来たのだ。

    「ひいばあの世界には魔法使いが居るんだ。    凄いな……    そのネフィアって人はどうなったの?」

    「私を転移させる為にあちらに残ったわ。    でも、助かる見込みの無い傷を負っていたから恐らくは……」

    ネフィアという人は命懸けでひいばあを逃がしてくれたが、それは当人の意思とは関係無く強制的に行われたものだった。
    図らずとも生き延びる事になったひいばあだが、全く知らない世界に放り出されたばかりか、転移した当時はこちらも大変な事になっていたのだ。

    「こっちに来たばかりの時ってどうしてたの?」

    「途方に暮れたわね。    こちらも辺り一面焼け野原だったから、一瞬元の世界かと思ったわ」

    焦土と化したその場所で一人、亡国の王女は何を思ったのだろうか。

    「ここが元居た世界で無いとはっきり分かった時、私は死のうと思ったの。   近くに大きな橋が見えたからそこから身を投げようとしたのよ」

    何も分からず、言葉も通じないであろうこの世界で生きていける筈がない。
    それに国を守れなかった責任を取ると決めたのだ。
    橋の低い欄干を超えその身を乗り出そうとしたその時、手を掴み引き戻した人物がいた。

    「母さんの身投げを止めたのが父さんなのか……」

    「そうよ。    それが周平との出会いなの」

    助けられた亡国の王女は保護され、山代家に身を寄せる。
    最もひいじいは早くに父を亡くしており母と妹の三人暮らしだったのだが、先の戦争で その二人も亡くし、天涯孤独の身の上だった。
    家も半壊しており、かろうじて焼かれずに済んだ部屋で二人、身を寄せ合うようにして暮らす日々が始まったのだ。

    ひいばあの話は余りにも衝撃的過ぎて、一堂呆気にとられてしまい言葉も出ない。
    暫し沈黙がその場を支配したが、じぃじの一言で打ち破られる。

    「一息入れよう。    まだ聞く事は山程ある」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...