上 下
2 / 3

追放、そして運命の出逢い(中編)

しおりを挟む
   近づいて来る三つの影があらわになると、一気に緊張が高まる。

   「鉤竜かぎりゅうか!    こんな時に!」

   足の親指に大きな鉤爪を持ち二足歩行を行う、成人男性の背と同程度の大きさの小型に分類される竜、鉤竜。
   チームで狩りを行う為、この三体は正に狩の最中で、エサは倒れている子供という訳だ。
   僕は素早く、子供と鉤竜の間に割って入り、背に携行していた戦槌を構える。
   竜達は思わぬ邪魔が入り、いきり立つ。

   「グォォォォ」

   低く吠え威嚇を行っているので、こちらも戦槌を左右に振り回し、警告する。

   「だぁぁっ!」

   竜達は戦槌を振り回す僕からすかさず距離を取る。
   外界を跋扈する竜の殆どが硬い外殻を備えているが、鉤竜は殻を持たぬ代わりに素早い動きとチームプレイを得意とするタイプの竜の為、戦槌の一撃は致命傷と成りうる。
   この場の狩りがもし成功しても、傷を負えば次は無い。
 割りに合わない狩りだと諦めてくれればよいが、竜達はその場に留まる。
   数の利があると踏んだのだろう、どうやら一歩も退く気は無いようだ。
   ならば仕方がない。
 この状況を打破する最短の方法を実行する。

 「うおおおお!」

 一番大きな固体めがけて跳躍し槌を振り下ろす。
 寸での所で竜は避けてしまい、槌は強く地面を打ち付け衝撃がビリビリと手に伝わる。
 回避後に竜は反撃しようと爪をもたげるが、こちらも素早くきびすを返し槌を振る。
 思わぬ返しの早さに竜は反撃をためらうが、追撃の手を緩めない。
 三体の竜の内、この大きな個体がリーダー格で他の二体はやや小さい為、亜成体だと思われる。
 若い竜もリーダーを守る為にこちらを囲もうとするが、こちらは牽制程度に槌を振るえば大きく距離をとる。
 やはり場慣れしていないようだ。
 リーダーを倒せば若い竜も諦めるかもしれないと思ったが、このままいけば狙い通りになりそうだ。
 だが、標的にした竜は巧みに攻撃を避け、常に反撃の機会を伺っている。
 もしかしたら狩りを通じて対人戦の経験もあるのかもしれないが、そうなるとこちらもうかうかしていられない。
 僕とてこの槌を無尽蔵に振るえる程の膂力りょりょくは持ち合わせていないから、長期戦になれば不利になる。
 だが、竜は逃げに徹しようとしている。
 「フン」と鼻を鳴らす様は、「何、ゆるりとやるさ」と言った体だ。
 最早、躊躇ちゅうちょしてはいられない。
 早く決着を付けなければ……。
 戦槌を握る手に更に力を込める。
 無闇に追いかける事はせずに、ジリジリと距離を詰める。
 一人と一匹の間に極限の緊張が走るが、直ぐ竜に変化がある。

 「ガァッ、ガァッ!」

 「何だ?」

 こちらでは無い、若い竜に対して何か言っているようだが、リーダーを警戒しつつ 目をやると、その意味が分かる。
 若い竜の一体が子供に近寄っている。
 獲物さえ手に入れば良いと思っているのだろう。
 それを見てリーダーは「目の前の敵に集中しろ」と言った所か。
 その通りだ。
 数に任せて、狩りの邪魔をする者を無視するのは悪手でしかない。
 最も、走った所で子供を襲撃する竜に間に合わないので、僕は槌を振り上げて有らん限りの力を込めて投てきする。

 「うぉぉぉぉー!」

 腕から離れた槌は高速で回転した後、竜の首に深く突き刺ささりその勢いのまま倒れる。

 「グガァァァ!?」

 「良し! まずは一体」

 すかさず残りの竜と向き合うが、仲間を倒された事で若い竜はかなりいきり立っている。

 「ギィィィィ!」

 物凄い勢いで突進してくるので、転がって避ける。
 立ち上がり様に短刀を引き抜き構えるが、竜の勢いは止まらない。
 後ろ足を交互に掲げ鉤爪を振り下ろす。
 ギン、と短刀と爪が打ち合う音が何度か響くが、短刀ではいなすのが精一杯だ。
 竜の攻撃の激しさは仲間を倒された事もあるのだろうが、どうやらこちらの短刀を武器とは認識していないようだ。
 リーダーは若い竜にしきりに吠えているが、「一旦下がれ」か「引け」と言っているのだろう。
 どうやら、あの竜は短刀が武器だと知っているようだ。
 闇雲に攻めては危険だ。
体制を立て直し挟撃なりすれば勝機は十分にあると言いたいのだろうが、頭に血の登った若い竜にリーダーの声は届かない。
 そもそも、武器を認識していないのだから、爪も牙も持ち合わせぬ者に躊躇する道理は無い。
 しかし、自身を完全なる捕食者としている所に隙が生じる。
 先程から攻撃が大降りになっているが、中々仕留められない事から苛立っているのだろう。
 攻撃の間隔が空いてきたこのタイミングが狙い目だ。
 ドンという音と共に竜の爪が大地を抉る。
 この攻撃が空振りした瞬間を逃さない。

 「そらっ!」

 「ガァッ!?」

 竜は突然視界を奪われ、狼狽ろうばいする。
 羽織っていたマントを外し頭に被せたのだが、竜の前足は短くマントを剥ぐ事は出来ない。
 そしてこの機を逃さず、竜の胸を短刀で突く。

 「グギェッ!」

 短刀を柄まで胸に沈め、ぐりっ、と捻る。

 「ギャャャッ!」

 断末魔を上げ、竜はその場に崩れ落ちる。

 「二体目……」

 「グォォォォォォーッ」

 最後の一体となった竜は天高く吼える。
 戦いの終わりはもうすぐだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...