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追放、そして運命の出逢い(中編)
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近づいて来る三つの影が顕になると、一気に緊張が高まる。
「鉤竜か! こんな時に!」
足の親指に大きな鉤爪を持ち二足歩行を行う、成人男性の背と同程度の大きさの小型に分類される竜、鉤竜。
チームで狩りを行う為、この三体は正に狩の最中で、エサは倒れている子供という訳だ。
僕は素早く、子供と鉤竜の間に割って入り、背に携行していた戦槌を構える。
竜達は思わぬ邪魔が入り、いきり立つ。
「グォォォォ」
低く吠え威嚇を行っているので、こちらも戦槌を左右に振り回し、警告する。
「だぁぁっ!」
竜達は戦槌を振り回す僕からすかさず距離を取る。
外界を跋扈する竜の殆どが硬い外殻を備えているが、鉤竜は殻を持たぬ代わりに素早い動きとチームプレイを得意とするタイプの竜の為、戦槌の一撃は致命傷と成りうる。
この場の狩りがもし成功しても、傷を負えば次は無い。
割りに合わない狩りだと諦めてくれればよいが、竜達はその場に留まる。
数の利があると踏んだのだろう、どうやら一歩も退く気は無いようだ。
ならば仕方がない。
この状況を打破する最短の方法を実行する。
「うおおおお!」
一番大きな固体めがけて跳躍し槌を振り下ろす。
寸での所で竜は避けてしまい、槌は強く地面を打ち付け衝撃がビリビリと手に伝わる。
回避後に竜は反撃しようと爪をもたげるが、こちらも素早く踵を返し槌を振る。
思わぬ返しの早さに竜は反撃をためらうが、追撃の手を緩めない。
三体の竜の内、この大きな個体がリーダー格で他の二体はやや小さい為、亜成体だと思われる。
若い竜もリーダーを守る為にこちらを囲もうとするが、こちらは牽制程度に槌を振るえば大きく距離をとる。
やはり場慣れしていないようだ。
リーダーを倒せば若い竜も諦めるかもしれないと思ったが、このままいけば狙い通りになりそうだ。
だが、標的にした竜は巧みに攻撃を避け、常に反撃の機会を伺っている。
もしかしたら狩りを通じて対人戦の経験もあるのかもしれないが、そうなるとこちらもうかうかしていられない。
僕とてこの槌を無尽蔵に振るえる程の膂力は持ち合わせていないから、長期戦になれば不利になる。
だが、竜は逃げに徹しようとしている。
「フン」と鼻を鳴らす様は、「何、ゆるりとやるさ」と言った体だ。
最早、躊躇してはいられない。
早く決着を付けなければ……。
戦槌を握る手に更に力を込める。
無闇に追いかける事はせずに、ジリジリと距離を詰める。
一人と一匹の間に極限の緊張が走るが、直ぐ竜に変化がある。
「ガァッ、ガァッ!」
「何だ?」
こちらでは無い、若い竜に対して何か言っているようだが、リーダーを警戒しつつ 目をやると、その意味が分かる。
若い竜の一体が子供に近寄っている。
獲物さえ手に入れば良いと思っているのだろう。
それを見てリーダーは「目の前の敵に集中しろ」と言った所か。
その通りだ。
数に任せて、狩りの邪魔をする者を無視するのは悪手でしかない。
最も、走った所で子供を襲撃する竜に間に合わないので、僕は槌を振り上げて有らん限りの力を込めて投てきする。
「うぉぉぉぉー!」
腕から離れた槌は高速で回転した後、竜の首に深く突き刺ささりその勢いのまま倒れる。
「グガァァァ!?」
「良し! まずは一体」
すかさず残りの竜と向き合うが、仲間を倒された事で若い竜はかなりいきり立っている。
「ギィィィィ!」
物凄い勢いで突進してくるので、転がって避ける。
立ち上がり様に短刀を引き抜き構えるが、竜の勢いは止まらない。
後ろ足を交互に掲げ鉤爪を振り下ろす。
ギン、と短刀と爪が打ち合う音が何度か響くが、短刀ではいなすのが精一杯だ。
竜の攻撃の激しさは仲間を倒された事もあるのだろうが、どうやらこちらの短刀を武器とは認識していないようだ。
リーダーは若い竜にしきりに吠えているが、「一旦下がれ」か「引け」と言っているのだろう。
どうやら、あの竜は短刀が武器だと知っているようだ。
闇雲に攻めては危険だ。
体制を立て直し挟撃なりすれば勝機は十分にあると言いたいのだろうが、頭に血の登った若い竜にリーダーの声は届かない。
そもそも、武器を認識していないのだから、爪も牙も持ち合わせぬ者に躊躇する道理は無い。
しかし、自身を完全なる捕食者としている所に隙が生じる。
先程から攻撃が大降りになっているが、中々仕留められない事から苛立っているのだろう。
攻撃の間隔が空いてきたこのタイミングが狙い目だ。
ドンという音と共に竜の爪が大地を抉る。
この攻撃が空振りした瞬間を逃さない。
「そらっ!」
「ガァッ!?」
竜は突然視界を奪われ、狼狽する。
羽織っていたマントを外し頭に被せたのだが、竜の前足は短くマントを剥ぐ事は出来ない。
そしてこの機を逃さず、竜の胸を短刀で突く。
「グギェッ!」
短刀を柄まで胸に沈め、ぐりっ、と捻る。
「ギャャャッ!」
断末魔を上げ、竜はその場に崩れ落ちる。
「二体目……」
「グォォォォォォーッ」
最後の一体となった竜は天高く吼える。
戦いの終わりはもうすぐだ。
「鉤竜か! こんな時に!」
足の親指に大きな鉤爪を持ち二足歩行を行う、成人男性の背と同程度の大きさの小型に分類される竜、鉤竜。
チームで狩りを行う為、この三体は正に狩の最中で、エサは倒れている子供という訳だ。
僕は素早く、子供と鉤竜の間に割って入り、背に携行していた戦槌を構える。
竜達は思わぬ邪魔が入り、いきり立つ。
「グォォォォ」
低く吠え威嚇を行っているので、こちらも戦槌を左右に振り回し、警告する。
「だぁぁっ!」
竜達は戦槌を振り回す僕からすかさず距離を取る。
外界を跋扈する竜の殆どが硬い外殻を備えているが、鉤竜は殻を持たぬ代わりに素早い動きとチームプレイを得意とするタイプの竜の為、戦槌の一撃は致命傷と成りうる。
この場の狩りがもし成功しても、傷を負えば次は無い。
割りに合わない狩りだと諦めてくれればよいが、竜達はその場に留まる。
数の利があると踏んだのだろう、どうやら一歩も退く気は無いようだ。
ならば仕方がない。
この状況を打破する最短の方法を実行する。
「うおおおお!」
一番大きな固体めがけて跳躍し槌を振り下ろす。
寸での所で竜は避けてしまい、槌は強く地面を打ち付け衝撃がビリビリと手に伝わる。
回避後に竜は反撃しようと爪をもたげるが、こちらも素早く踵を返し槌を振る。
思わぬ返しの早さに竜は反撃をためらうが、追撃の手を緩めない。
三体の竜の内、この大きな個体がリーダー格で他の二体はやや小さい為、亜成体だと思われる。
若い竜もリーダーを守る為にこちらを囲もうとするが、こちらは牽制程度に槌を振るえば大きく距離をとる。
やはり場慣れしていないようだ。
リーダーを倒せば若い竜も諦めるかもしれないと思ったが、このままいけば狙い通りになりそうだ。
だが、標的にした竜は巧みに攻撃を避け、常に反撃の機会を伺っている。
もしかしたら狩りを通じて対人戦の経験もあるのかもしれないが、そうなるとこちらもうかうかしていられない。
僕とてこの槌を無尽蔵に振るえる程の膂力は持ち合わせていないから、長期戦になれば不利になる。
だが、竜は逃げに徹しようとしている。
「フン」と鼻を鳴らす様は、「何、ゆるりとやるさ」と言った体だ。
最早、躊躇してはいられない。
早く決着を付けなければ……。
戦槌を握る手に更に力を込める。
無闇に追いかける事はせずに、ジリジリと距離を詰める。
一人と一匹の間に極限の緊張が走るが、直ぐ竜に変化がある。
「ガァッ、ガァッ!」
「何だ?」
こちらでは無い、若い竜に対して何か言っているようだが、リーダーを警戒しつつ 目をやると、その意味が分かる。
若い竜の一体が子供に近寄っている。
獲物さえ手に入れば良いと思っているのだろう。
それを見てリーダーは「目の前の敵に集中しろ」と言った所か。
その通りだ。
数に任せて、狩りの邪魔をする者を無視するのは悪手でしかない。
最も、走った所で子供を襲撃する竜に間に合わないので、僕は槌を振り上げて有らん限りの力を込めて投てきする。
「うぉぉぉぉー!」
腕から離れた槌は高速で回転した後、竜の首に深く突き刺ささりその勢いのまま倒れる。
「グガァァァ!?」
「良し! まずは一体」
すかさず残りの竜と向き合うが、仲間を倒された事で若い竜はかなりいきり立っている。
「ギィィィィ!」
物凄い勢いで突進してくるので、転がって避ける。
立ち上がり様に短刀を引き抜き構えるが、竜の勢いは止まらない。
後ろ足を交互に掲げ鉤爪を振り下ろす。
ギン、と短刀と爪が打ち合う音が何度か響くが、短刀ではいなすのが精一杯だ。
竜の攻撃の激しさは仲間を倒された事もあるのだろうが、どうやらこちらの短刀を武器とは認識していないようだ。
リーダーは若い竜にしきりに吠えているが、「一旦下がれ」か「引け」と言っているのだろう。
どうやら、あの竜は短刀が武器だと知っているようだ。
闇雲に攻めては危険だ。
体制を立て直し挟撃なりすれば勝機は十分にあると言いたいのだろうが、頭に血の登った若い竜にリーダーの声は届かない。
そもそも、武器を認識していないのだから、爪も牙も持ち合わせぬ者に躊躇する道理は無い。
しかし、自身を完全なる捕食者としている所に隙が生じる。
先程から攻撃が大降りになっているが、中々仕留められない事から苛立っているのだろう。
攻撃の間隔が空いてきたこのタイミングが狙い目だ。
ドンという音と共に竜の爪が大地を抉る。
この攻撃が空振りした瞬間を逃さない。
「そらっ!」
「ガァッ!?」
竜は突然視界を奪われ、狼狽する。
羽織っていたマントを外し頭に被せたのだが、竜の前足は短くマントを剥ぐ事は出来ない。
そしてこの機を逃さず、竜の胸を短刀で突く。
「グギェッ!」
短刀を柄まで胸に沈め、ぐりっ、と捻る。
「ギャャャッ!」
断末魔を上げ、竜はその場に崩れ落ちる。
「二体目……」
「グォォォォォォーッ」
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戦いの終わりはもうすぐだ。
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