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魔王、縁ある商人を巻き込む

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後日、つつがなく完成した製氷機を市井しせいに浸透させる活動の一環で、少し前にノースグランツ領へ活動拠点を移した中堅の商人マルコ・ディルドの元に向かう。

と言っても、魔人族の長を務めるグレイドと一人娘のリディアが結婚した経緯や、テラ大陸地球由来の品々を取り扱う都合上、彼の商館は魔族区画に建てられているため魔王公邸から徒歩で約五分に過ぎない。

そんな短い道程みちのりを進む途上で、今日は瑠璃紺るりこん色のドレスに身を包んだ吸血姫が問い掛けてくる。

「一応、確認しますけど、製氷機の専売権をディルド家に与えるつもりですか?」

「あぁ、“餅は餅屋” に任せるのが一番だ。さらに販路を絞って契約で縛れば、技術的な流出も最小限に抑制できるからな」

人の口には戸が立てられないし、いずれ蒸気機関なども含めて類似した物が人族の手で再現されるとしても、自分達の寄って立つ基盤が確立するまでは管理下に置いておきたい。

同じような思惑を持っている故か、少し考え込んでいたスカーレットは独り言のように呟く。

「発明品を模倣もほうしただけのまがい物が出廻るのは公平と言えません。イルゼ嬢の協力を取り付けて、開発側に有利な法的規制を……」

め模倣品の販売禁止、領内から製品を持ち出すことの厳禁等か?」
「流石です、私の浅慮などお見通しでしたのね、おじ様♪」

所謂いわゆる、知的財産権の保護に意識を割いていた彼女は嬉しそうに褒めてくるが、IT系企業でシステム開発していた技術職の俺には馴染みが深い概念だ。

特に否定する要素もないため、領主令嬢も巻き込んだ仔細を詰めている間に真新しい商館まで辿り着き、満面の笑みで出迎えてくれたマルコに応接室へ案内される。

およそそ十数名が談笑できる床面積を持つ空間には幾人かの姿があり、見知らぬ者達も多く混じっているものの、ディルド家と取引実績がある街の商店主や各種ギルドの幹部だろう。

「ご拝命に従い、相応の財貨や地位を持つ方々を集めておきました」

「手間を掛けたな、そちらに損はさせない」
「多分、貴方に取っても良い話になると思いますわ」

自身が出資する “紅玉亭” に食材や酒類をおろしている縁で、珍しく吸血姫が人間相手に他意の無い柔らかな微笑を浮かべていると、此方こちらに視線を向けていた魔人グレイドが仲睦まじく寄り添うリディア嬢と一緒に歩み寄ってきた。

「ご無沙汰しております、我が王」
「ご機嫌麗しく存じ上げます」

「二人そろって堅苦しいのはどうかと思うぞ……」

敬意を払ってくれるのはかく、未だに慣れないので肩をすくめると対照的な反応が返ってくる。

「これも性分なれば、お許し願いたい」
「ふふっ、私は夫に合わせている側面もありますけどね」

何やら困った様子の魔人とは裏腹に商家の娘が微笑み、吸血姫に会釈をして挨拶の言葉など交わし始めた。

それだけに留まらず、少しだけ相好を崩した困り顔で話題を広げていく。

「出掛けの服選びに時間を掛けたのですけど…… うぅ、色が被りました。これではスカーレット様の引き立て役になってしまいます」

「いえ、貴女も十分に綺麗です。銀細工のブローチ、とても似合っていますよ」

何やら互いの服飾や容姿など褒めている淑女レディ達を見遣みやり、粗忽そこつな男三人で苦笑していたら別室に通じる扉が開き、事前準備のため別行動していたリーゼロッテと弟子の青肌エルフ達が姿を現す。

機能重視で飾り気のない装置を荷台に乗せ、慎重な足取りで運び込んできた彼女達に呼応して、ちょっとした茶会のホスト役であるマルコが軽く咳払いをした。
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